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1話

 誰もが魔法と呼べる不思議な力を使えた。誰もが子供の頃から学問を学び、魔法の使い方を学んだ。なにもないところから火を起こしたり、水を出したり、風を起こしたり、手を使わないで物を浮かすことできた。だが、誰しも得意不得意というものはある。数学が得意な者。運動が得意な者、そして、魔法が得意な者。頭脳明晰な者学問を学び科学者へと成長していく。魔法が得意な者は魔法の力を鍛え魔法使いへと成長していく。



 キルクは外が明るくなったのを感じて目を覚ました。もう朝か。最初はそう思ったがどうやら違うらしい。朝ならば小鳥が朝が来たと鳴き知らせてくれるはずであるが今はそれがなかった。代わりに爆発音が遠くから聞こえてきた。

 キルクはベッドから立ち上がり窓を開ける。目に飛び込んできたのは暗闇の中遠くで輝く炎だった。いつもならそこに隣町が見えるはずだった。今は街の代わりに炎がそこにたたずんでいる。

「父さん!母さん!」

 キルクは窓を開けたまま体を反転させ、叫びならが階段を駆け下りて行く。一階では父さんと母さんが丁度ベッドから体を起こしたところだった。

「今の音は?」

 母さんが寝起きにもかかわらず目を大きくさせている。

「ソーキンが・・・」

 階段を駆け下りたからか、息が上がって次の言葉がすぐに喉から出てこない。

「燃えてる。」

 息を整えやっと状況を説明する。父さんは体をベッドからほおり投げると二階へと駆け上っていった。母さんはベッドの上で固まってしまっている。

「キルク!」

 二階から父さんの声が響いた。キルクは声のした二階へ上がろうと階段へと向かう。が、すでに父さんは階段を半分以上下りているところだった。

「あとは頼む!」

 そう言うと父さんはキルクとは目を合わさずに横を通り過ぎると玄関の扉を思い切り開け、家を飛び出して行った。「あとは頼む!」だって。それはキルクに言ったのか母さんに言ったのか解らなかった。

「お父さん・・・」

 母さんが開いたままの玄関をぼうっと見ている。キルクは玄関の扉を閉めると、母さんの座るベッドに腰掛けた。お互いになにも言えずただ座って不安な気持ちと格闘する時間が朝まで続き、次には父さんが帰ってこない苛立ちと同居すること一日。「あとは頼む!」これがキルクが聞いた父さんの最後の言葉になる。キルク十一歳の夏のことだった。



 キルクは十七歳を迎えていた。体格は大人と大差ないほどまでに成長しており、余計な肉の付いてない理想の体系と言って良いだろう。

「母さん。俺、明日家出るよ。」

 母さんと二人で囲む夕食。半分ほど食べたところでキルクは小さく言葉を放った。

「そうかい。なんとなく解ってだよ。」

 反対されるかとも思ったが、あっけなく母さんはキルクの提案を呑んでくれた。

「あの人、連れてきなよ。」

 母さんは少し嫌そうな顔をするも、ありがとう。と言った。あの人とは母さんの新しい恋人だった。半年前から付き合いだしたのだと二十日前キルクの元へ母さんが紹介してきた。そのとき、キルク母さんの新しい恋人なんて信じられなかったし受け入れることもできなかった。新しい恋人がキルクに挨拶をしようと一歩前に出たとき、キルクは思い切り殴りかかっていた。新しい恋人の無防備な頬に握り拳がめり込むこととなる。

「あのときはごめん。」

 これは新しい恋人を思い切り殴ってしまことに対しての謝罪だった。本当は本人にするのが良いのだが、気持ちの整理がついた今でも顔を合わせたくはなかった。

「良いよ。もう気にしてはいないから。」

 母さんは目を合わせずに言った。言葉の感じからあの事件のことは心に嫌な思い出残っているのが解る。

「ごちそうさま。」

 まだ少しご飯は残っていたが、この場所に居たくない気持ちのほうが強かった。食器を台所に下げ二階の自分の部屋へと向かう。途中母さんをちらりと見たが下を向いたままゆっくりとご飯を嫌そうに口に運んでいた。住み慣れたこの家とも明日で最後になるのかと思うと感傷的になり、涙が出そうになるのをこらえていた。

 二階の部屋は今日片付けをしたため、小ざっぱりしていた。いらないものは全部投げた。今残っているものはベッドとデスクにイス、そしてキルクの手荷物がデスクの上に置いてある。これも明日になればこの部屋から居なくなるものだ。キルクは長年お世話になったベッドに体を任せた


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