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第4話 パニック・パーティー①

 熱が引いていくのを感じる。


「いや、違う」


 身体が熱に馴染(なじ)んだのだ。

 常人の数倍の速さで血が巡る、大量のエネルギーを宿した身体が、俺にとってデフォルトになったらしい。


 右脇腹を潰していた瓦礫(がれき)を押しのけると、そこにはもう傷跡さえ残っていなかった。骨も肉も、完全に再生している。


「……治ってるだけじゃない。力がみなぎってくる」


 そもそも治癒と呼ぶべきものでもないのだろう。

 再構築。

 怪我をした脇腹を含め、全く新しい別の身体に作り直された感覚だ。


 リシェルが面白そうに覗き込んできた。



「ゾンビ化は成功ですか?」


「それ以上だ。明らかに俺、他のゾンビより強いぞ」


「へえ、それはそれは。どうしてでしょうか?」



 リシェルは、スマホを目の位置に掲げ、問いかける。

 画面に文字列が表示され、リシェルがそれを読み上げる


「パラサイト・コアは本来とても忙しい生物です。宿主の脳と神経を破壊した後、自身がそのつなぎ目を担う。事実上死んだ宿主の代わりに、電気信号を送り身体を動かす。食欲や戦闘意欲を増進し、気分を高揚させる麻薬を脳内で生成する……コアには処理すべき仕事が山ほどあるのです」


「へー」


「だから、宿主の身体強化に割ける力は二割程度。間違っても、百パーセント身体強化に(ぜん)()りするような個体は存在しないわけです」


「……俺がテイムしたコアを除いて、か」


「理解が早くて助かります。以上、AIによる回答でした」



 めちゃくちゃ便利だな、スマホ。俺も欲しくなってきた。



「スキルも生まれ変わったか」



 俺は瓦礫を蹴り上げ、ゾンビたちがこっちに来れる道を作ってやる。

 ゾンビたちは特に疑問に思う様子もなく、のろのろと近づいてきた。



(ひざまづ)け』



 リシェルが不思議そうな顔をする。テイマーと使役される生物にしか通じない言語だ。

 ゾンビたちが、ぴたりと動きを止めた。

 膝をつき、まるで土下座でもするように身を丸くしてひれ伏す。


 リシェルが感嘆の声をもらした。



「……他の寄生体も支配下におけるんですね」


「この国のゾンビすべて、俺の言うことを聞くらしい」



 リシェルの唇が、ゆっくり吊り上がった。



「それならちょっと、試してほしいことがあるんですけど」





 俺たちは王国広場を一望できるバルコニーに立っていた。


 つい数時間前、アストリア王が演説していた場所だ。


「……つい数時間前、王が見下していた光景と、だいぶ違うんだろうな」


 石畳の広場はところどころ陥没し、血と泥が混ざった黒い水が溜まっている。


 折れた旗竿(はたさお)、燃え残った屋台、横倒しの馬車。遠くでは半壊した建物から煙が細く上がり、徘徊(はいかい)するゾンビたちが低く(うな)る声がする。


 人の営みが一瞬で剥ぎ取られ、殻だけ残った街――そんな光景だった。



「これもってください。拡声器です」



 リシェルが変な機械をおしつけてきた。

 金属の漏斗みたいな形をした道具で、柄がついていて片手で握れる。



「これも向こうの世界の遺物か?」


「声を巨大化させて吐き出す壺とでも思ってください。ささ、それではお願いしますよ、王様」


「王様は多分、逃げたか食われただろ」


「あなたが今から王になるって話です」



 俺は拡声器を握り、世界を見下ろしながら声を張った。



『――全員、(ひざまづ)け』



 言葉を放った瞬間、身体の奥のコアが震える。

 俺を中心に波紋が広がる感覚。


 数秒後。


 地上から、ドサドサと何かが倒れる音が連鎖した。

 ゾンビたちはみな俺に向かって(ひざ)をつく。

 ほとんど土下座に近い、神を(あが)めるかのような仕草をする。

 目に映るすべての人間にそうされると、(あや)しい快感を覚える。はまってはいけない感情な気がして、寒気もした。



「オオ……ほんとに全部ひれ伏してますよ」



 リシェルはゾンビたちをスマホで録画していたが、ふと思い立ち、それを背景に自撮りを始めた。何の記念だ。



「それじゃ、アストリア王国の国民を皆殺しにしますか?」



 リシェルはスマホをポチポチ操作しながら言った。夕飯の店でも決めるみたいな、軽い口調だ。


 俺の中で、何かが揺れる。

 ゲイリーの顔。閉じていく扉。裏切り。

 数刻前の俺は確かに、ゲイリーを含む生き残りを殺していいと思っていた。

 でも、今は違う。



「……やらない」



 リシェルはスマホから目を離さない。何かの動画を見ているらしい。



「契約違反ではないですか? 私を魔王にしてくれるんでしょう?」


「約束は守る」


「じゃあ国民を皆殺しにして、私をレースで勝たせてくれますか?」


「それはやらない」


「……何なんですか、それ」


「魔王になる方法は、王位継承レースだけじゃないって話さ。もっと確実な方法がある」



 リシェルが首を傾げて、目線を上に向けて考え込んでいる。

 俺は続ける。



「異世界召喚の儀を行ったのは、アストリア王国だけじゃない。他の七王国も異世界から勇者を呼んだ。今頃、七人の皇子は勇者と戦闘中だろう」


「それで?」


「勇者との戦闘に割り込んで、背中を気にする余裕のない皇子に、ゾンビ共をぶつける」


「ああ、なるほど」



 リシェルが納得した顔をする。

 俺は邪悪な笑みを浮かべて言った。




「七人の皇子を皆殺しにしよう。俺は世界を救う勇者に、お前は魔王になれる」




 瓦礫の中、絶望のどん底にいた俺なら、アストリア王国民の鏖殺(おうさつ)に応じただろう。

 でも、力が手に入った今、こっちのほうが楽しいに決まってる。


 リシェルは享楽主義的なところもあるし、ゾンビ共に人間を襲わせるよりプランより、こっちを選ぶと踏んでもいた。


 リシェルが微笑み、まっすぐに俺を見返す。


「お断りです」

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