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第7話 劇場版三作目でよく見る展開④

「殺すッ!」


 クレスが距離を詰める。

 カイルの首に手を伸ばしたとき、彼の周囲に静電気を思わせる火花が散り、その身体が超高速で遠のいた。

 クレスの指が(くう)をつかむ。



「……高速移動?」



 カイルは瓦礫(がれき)でごちゃついた市街地へと逃げ込むと、両手を広げた。すると蒼い炎の壁が渦を巻き、市街地を包み込む。クレスはカイルの姿を見失った。


 クレスは眉を(ひそ)める。

 ――電気を纏った俊足と蒼炎(そうえん)、二つの異能。

 ――あの少年の力は、自己再生とゾンビの支配だけじゃないのか?

 ――炎の壁に触れたクレスは、覚えのある熱を指に感じた。



「……そういうことか」



 クレスは透視能力を発動し、カイルの影を追う。



「……あの少年、取り替えた(、、、、、)な?」





 クレスの推測は正しい。


 数刻前、カイルは下半身を喪ったとき、ふと“パーツ交換”ができないかと思いついた。そして、近場のゾンビの身体を腰で切断し、ゾンビの下半身とカイル上半身の切断面を(つな)いでみた。

 すると数秒で癒着し、カイルはすぐに歩けるようになった。

 その後、七人のヒーローたちの死体が運びこまれ、彼らをゾンビにした際、カイルはまた(ひらめ)いた。


「俺の身体、もっと使える死肉(パーツ)と交換しよう!」


 生憎(あいにく)体格や体質による適性あったため、七本槍セブンズ・ヴァンガードの全員と取り替えっことはいかなかった。ただ、収穫は十分だった。カイルは炎を操る右腕と、衝撃波を発生させる左腕、高速機動を可能にする両脚をそれぞれ死体から奪い、我がものとした。




 クレスの透視ビジョンにカイルの姿が映る。



「死者を冒涜(ぼうとく)したツギハギだ、吐き気がするよ」



 クレスは忌まわし気に言うと、カイルの元まで一直線に跳躍した。瓦礫も炎の壁もぶち抜き、カイルの目前に躍り出る。

 しかし次の瞬間、カイルの周囲でパチパチと電気が爆ぜたかと思うと、突如としてその姿が消えてしまった。



 クレスが眉間に皺を寄せる。

 ――本家(ライアン)より速い。どうなっている?

 ――雷速機動は神経に電流を流し、人体の限界を超えた走りを可能にする技。

 ――コントロールが難しく、一歩間違えれば神経が焼き切れる。

 ――ついさっき異能を身体に宿したばかりの少年に、マネできるはず……。



「いや、真似できてないのか。神経が焼き切れるのも上等……再生ありきで走ってる」



 カイルが市街地を駆け抜け、角を曲がる。

 見失うわけにはいかない、炎の目くらましで無駄に長引く。クレスはイラつきながらも後を追った。

 しかし、角を曲がった先にいたのは、カイルではなかった。



『僕が、きた』



 クレスの前に立っていたのは――クレス自身だった。

 同じ顔、同じ体格、同じ構えの何かが、そこにいた。

 目の前の彼と自分に、ただ一つの違いがあるとすれば、影が濃いことだ。

 彼の周辺だけなぜか景色がほの暗く、その輪郭は黒くぼやけている。

 そして、その口元がゆっくりと吊り上がる。

 クレスが絶対に浮かべない種類の笑みだった。



『君は誰だ?』

『僕だ』

『僕が殺す?』

『僕が死ぬ』

『誰が殺す?』

『僕が殺す』

『…ケハッ!』

『…ウ、キャッ!』

『ケヒヒヒヒヒッ!』

『ウヒャヒャヒャハハハハハハハ!』

『君は誰だ?』


 声もクレスと同じだ。

 しかし機械で作ったように抑揚がない、空っぽの声音(こわね)である。

 何かのバグか、時折、安っぽいホラー映画の演出のように、音声がスローになる。

 鏡像(シャドウ)が一歩踏み出す。


 クレスは理解した。

 ――動きが、同じだ。

 踏み込み、重心移動、拳の角度。すべてが、自分と寸分違わない。

 いや、それだけじゃない。

 身にまとう闘気(オーラ)や、拳が与える圧力(プレッシャー)でわかる。


 力も、互角だ。


 クレスは覚悟を決めた顔で、拳を構える。



「驕っていたよ。……僕も甘く見ていたらしい。この世界の混ざり(、、、)を」



 両者の呼吸のタイミングが一致する。

 次の瞬間――二人は同時に踏み込んだ。


挿絵(By みてみん)


 拳と拳が、真正面から衝突する。

 世界が一瞬、静止する。

 巨大な爆発が巻き起こり、二人の姿は土煙に覆われた。



【街頭ビジョンのスクリーン、あるいはゾンビたちのスマホ画面】



 マイクを両手に握ったリシェルがご機嫌にまくし立てる。



「これぞ王道バトル! ヒーロー、クレスの前に立ちはだかるは、彼自身の鏡像(ダークミラー)だ!」



 リシェルの声量はスピーカーの限界を超えていた。キインと響くハウリングが、波紋のように王都全域へと広がっていく。



「襲いかかるかつての仲間(七本槍)! 尊厳を踏みにじる(ヴィラン)(カイル)! そして何か黒くなった(おのれ)の分身! ヒーロー映画の三作目でよく見る光景がクレス選手に襲いかかる! さあさあ、皆さまお立合い! 敵も味方も災厄も、策も切り札もイレギュラーも出揃いました! 正真正銘これにて決着、ラストバトルの開幕ですッ!」

ブクマ・感想などいただけますと励みになります。

何卒よろしくお願いいたします。

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