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第12話 祈ればきっと彼が来る②

「うっひゃあ、ヤバヤバ! ヤバいですって!」



 リシェルは空もとろとも、落ちていた。


 空に浮かんでいた瓦礫は、今度は逆に地面へ叩きつけられる。

 街灯が槍のように降り注ぎ、割れたレンガが砲弾のような勢いで落ちてくる。

 そうした質量のある雨が、地面にしっかり根付いていた比較的頑強な建物群を粉砕していく。


 祈りを捧げていたゾンビたちも、まとめて地面に叩きつけられる。

 腐った身体が潰れ、砕け、骨が飛び散る。


「ハイ! 展開!」


 リシェルの真下。ぼふっという音ともに、巨大な白い袋が膨らむ。

 彼女はその上に叩きつけられた。

 袋が大きく沈み、リシェルの身体を包み込む。


挿絵(By みてみん)



 カイルはシンプルに落下してグチャグチャなった。

 当然のように再生が始まる。



「……リシェル、お前、それ何だよ」


「これはエアバッグというものです。今はそんなことどうでもいいでしょ!」


「よくはねえだろ、何で俺の分はねえんだよ」


「スペアは二個しかないので。そんなことより空です! 空!」



 巨大戦艦(イクリプス)の砲台が沈黙していた。

 さっきまで空を焼き払っていたレーザーが光を失い、止まっている。


 船体もわずかに傾いている。



「何の効果か知らんが、あの戦艦も無事じゃなさそうだ」


「チャンスですよ! 身体はすっごく重いですけど、今なら移動できます。包囲網もメチャクチャですし!」



 黒煙に隠れ、リシェルとカイルは駆け出した。



「重力異常? ……リルケの艦隊を破った、ギャングとかいう連中の兵器か」



 ムーは不審そうに言った。

 眼前のホログラムに表示された数値によれば、船体には常時の五倍の重力がかかっているらしい。

 ムーは戦艦内臓のAIに通信をつないだ。



「イクリプス、状況を説明しろ」


『重力干渉を検知。艦体に異常な下向き加速度が発生。姿勢制御に全エネルギーの九十二%を投入』


「砲撃は撃てるか?」


『兵装エネルギーを姿勢維持に転用中。レーザー砲群、現在使用不能』


「……重力ごときで。ただ、完全に手が出ないわけではないだろ?」


『砲台一基の出力であれば可能。ただし、安定度は低下』


「目標は私が視認している。奴らも重力の影響で早くは動けない。外しはしないさ」


『了解。エネルギー充填開始』



 無数の砲台の中に一つ、かすかな光りを帯びるものがあった。

 やがてエネルギーが収束する。

 発射まで、あと一秒となった時。


 レーザーの外装が、爆散した。



「何でだぁッ!?」



 外側から何らかの衝撃を受けたらしい。レーザー砲に集められていたなけなしのエネルギーが行き場を失い、内部爆発を起こした。


 イクリプスがムーの眼前に、ホログラムのモニターを表示してくれた。

 見覚えがある飛行船だ。

 ムーが忌々(いまいま)し気に言う。



「アゼル・カーヴァンクル!」


挿絵(By みてみん)



 飛行船の船内。

 軍服を着た何人もの魔族が、砲の再装填や航行装置の調整に走り回っていた。


「良いんですか、一発だけで?」


 部下が言った。

 銀髪の優男――第二皇子(アゼル)は煙草吹かしながら、望遠鏡で巨大戦艦(イクリプス)を眺めている。



「あれと本気の撃ちあいはしない。というか、できないし。目的は嫌がらせさ」


「嫌がらせ?」


「見た感じあの舟は今余裕がないらしい。それでも一機レーザー砲を起動したってことは、何としてでも撃ちたい何かが、あの王都にいたんだろうな」


「この嫌がらせに何の意味が?」


「俺は司令官に向いた性格じゃないが、将の性格は大体わかる。昨日相手した感覚で言えば、ガロンやリルケはともかく、ムーにはこの一発が効く」


「効くとは?」



 アゼルが煙草の煙を輪にしながら吐き出した。



「多分今頃、すっげーキレてる」





「……たかが地球の、原始生物ごときがッ!」


 ムーはしっかりキレていた。


『兵装ユニット二十二番、完全損壊。エネルギー損失、零・八%』


 AIの報告が続く。

 ダメージ自体は大きくはない。

 それでもムーの心にはチクリチクリと、何かが刺さり続けていた。


 宇宙をまたにかける彼らの技術力は地球人の比ではない。

 彼らは、文明を征服しない。

 解析して、再現して、超える。それが彼らのやり方だった。


 だから今、ムーの心は荒れている。

 王国の魔術師どもは問題なかった。

 彼らの持つ魔法という技術は簡単に解析できた。


 ただ、人類の亜種――魔族が現れてから話が変わった。

 第二皇子アゼルの飛行船を制圧することは叶わず、彼の能力も謎のままだ。

 そして、この世界の住人ではない侵略者たち。

 同僚のリルケの艦隊は、ギャングとやらの一団に全員墜落させられた。

 他の同族にも、怨霊と交戦し行方不明になったもの、サメに飲み込まれて死んだものがいるらしい。


 ――何故だ?

 ――どうして、高度知性体である我々が、二の足を踏んでいる?

 ――量子演算核であらゆる事象を解析しできる我々が、何故?

 ――全てを知る私たちが、何故?


 カイルが地上からこちらに目を向ける。こちらも奴を視認している以上、あちらかも見えるだろう。



「へえ、ふ力ってお前からも出るのか」



 レーザーが撃てないのを見越してか、完全にこちらを侮った顔をしている。



「さてはお前、この世界がわかんなすぎてビビってるな?」



 煽り口調でカイルが言った。

 ムーの中で、一本の糸が切れた。



「ッ……何だってんだよ、どいつもこいつもよォオオオ!」

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