表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/15

第10話 あれ多分、パンドラの匣②

 俺とムーの殴り合いは何も進展しなかった。

 そりゃそうだ。超装甲のエイリアンと死なないゾンビ。絶対防御バーサス無限再生のマラソンバトル。数分殴りあってるだけで、お互い不毛さに気づいてきた。



「……時間がねえんだよ、こっちは」



 リシェルが貸してくれたピストルの弾をぶち当てる。ムーの装甲にはわずかな罅が入っただけだ。その罅もすぐに再生していく。



「……やってらんねえ」


「そうだね。私も遊びに来たわけじゃない。そっちの二人は連れ帰らないと……って、あれ?」



 ムーの目的、二人の皇子が一人になっていた。

 ヴィヴィアンの奴、メッセンジャーの用が終わったから逃げたらしい。


 ムーが嘆息する。



「ま、仕方ないか。ワープ能力持ちなら、最初から生け捕りは難しかったろう」



 ムーが崩れた外壁から外へ飛び立ち、空に舞い上がる。

 どういう原理かしらないが、宙に浮かんだまま、こちらを見下ろしている。



「逃げんのかよ」


「白兵戦に飽きただけさ」



 はるか空の彼方から、黒い影が一つ、また一つと現れる。

 最初は星の瞬きのように小さく見えたそれが、次の瞬間には金属の円盤へと形を変えた。

 銀と黒で構成された無機質な船体が空を侵食していく。


 円盤は一隻では終わらなかった。十、二十、五十、百。

 数える暇もないほど、次々と空を埋め尽くしていく。


 ムーはその中心で、ただ静かに浮かんでいた。



「君たちの底が知れた時点で、調査は終わりなんだよ。君は無限の再生能力。そっちの彼女は、道具を出し入れする能力かな? 正直、アゼルと比較して脅威でもないね」



 ムーが言い終えた瞬間、彼の戦艦が数隻、爆散した。



「……は?」



 細い軌跡を引く金属の群れが、群体のように円盤へと群がってきた。

 小型の飛翔体――人間の兵器だ。

 自律制御された戦闘ヘリが、ロケットランチャーの絨毯(じゅうたん)爆撃(ばくげき)を円盤に食らわせた。一点集中した散弾が装甲を穿(うが)ち、円盤の内部で連鎖爆発を起こす。


 轟音。

 閃光。

 破片の雨。


 被弾した円盤が炎に包まれ、黒煙を引いて墜ちていく。


 俺の背後で、リシェルがドヤ顔で腕を組んでいた。



「いや待て、何だあれ?」


全自動無人戦闘機(フルオート・ドローン)というそうです! ゾンビ世界で拾ってきました!」


「……お前、ヤバいな」


「カイルさんが舐めすぎなんですよ。私だってアゼル兄様たちと同じ、侵略者に対抗しうる脅威なんですから」



 リシェルはにっこりと笑ってみせた。



*



「……小賢(こざか)しい」


 ムーは廃墟(はいきょ)の街を見下ろしながら、ほんの少し、イラついていた。

 ――小型船しか使えないのがもどかしいな。


 今、別部隊がこの世界へ続く光輪(ゲート)の縁を広げている最中だ。主力艦隊は、あの小さな輪をくぐれず、世界の外側にいる。


 ――あの船(、、、)さえ来れば――。

 ――あと数刻、あと数刻で、私の主力艦が通れるほどの光輪(ゲート)が開く。主力艦さえくれば、アゼルも、この程度の下等生物も、全員蹴散らしてやれるのに。

 その瞬間、ムーの耳元でピピッと電信音がした。

 ムーが耳をさする。



「ガロンか。すまない、定期連絡が遅れたな。少し捕獲対象がしぶといんだ。……いや、ちょうどいい、君もこっちに来て手伝って……」



 通信先からは同僚(ガロン)ではなく、聞きなれない少女の声がした。



「『私メリー、今あなたの後ろにいるの』」



 金髪の少女に首を抱かれたカイルが、ムーの後頭部にショットガンを向けていた。

 ムーはとっさに反応しようとするが、青白い手に止められる。いつの間にか、彼の腕にゾンビがまとわりついている。


 ゼロ距離の発砲。銃身が跳ね上がる。ムーの頭部の装甲に、これまでにない大きな亀裂が浮かび上がった。



「大体わかった。お前さては、世界の混ざり(、、、)に慣れてねえな?」


「ッ! 図に乗るなよ! 下等生物が!」



 ムーが落下していくカイルと少女に爪を伸ばす。



「……私メリー、今王国広場にいるの」



 少女がスマホの電話口に言う。

 ムーの爪がカイルの腹を貫く直前、その姿が消えた。

 ムーが周りを見渡すと、カイルと少女はいつの間にか、百メートルは先の広場にいた。



「……馬鹿な、あの距離を一瞬で?」



 ――瞬間移動の能力?

 ――発動条件は相手が通信に応じること?



「……何だというんだ、どいつもこいつも」



 あの少年の再生能力もそうだ。アゼルや王国の魔術師――この世界の人類がもつ特殊能力とも、明らかに毛色が違う――宇宙全域を見渡しても見たことがない、未知の何か。

 底知れぬ不気味さが、ムーの心の深奥を揺らす。

 やがて、恐れと苛立ちはムーの中で一つになる。



「うん、全部灰にすればいい」



 調査の使命など、もう関係ない。

 時間は十分に経った。条件は整っている。

 ムーは両手で顔を覆った。



「今なら、呼べる」



 ムーは空に向けて両手を広げる。



「アゼルも、奴の飛行船艦隊も、君たちも……すべてが終わりさ」



 突如、世界が闇に落ちた。

 夜になったのではない。雲のさらに上から、巨大な影が降りてくる。

 最初はただの暗闇に見えたそれが、ゆっくりと輪郭を持ちはじめる。



()(はら)え、イクリプス」



 ムーが静かに言った。

 それは、あまりにも巨大な戦艦だった


 アストリア王都を陰で丸ごと覆うほどの、とてつもない大きさの船体が、空を押し潰していく。


 戦艦に内蔵されていた無数の砲門が、機械的に展開した。

 音もなく、光の線が引かれていく。

 青白い光の帯が空を横断し、リシェルのドローン群を触れただけで消し飛ばしていく。

 爆発は起きなかった。存在そのものが削り取られたかのように、機体が消える。鉄くずどころが、(ちり)の一つも残らない。


 余波が地上に降り注ぐ。

 遠方の山が、斜めに断ち切られる。

 遅れて、轟音が響き渡る。

 崩れた岩塊が雲のように広がり、地形そのものが書き換えられる。


 続いて、王都の北部が蒸発した。

 石も鉄も、影も音も残さず消える。

 熱風が王都をなぎ払い、廃墟の壁を吹き飛ばした。



「ヤバいヤバいヤバいですって!」



 リシェルが叫ぶ。

 光線の一部は、カイルたちのいた一角にも届いていた。間一髪で爆炎から逃れる。レーザーの軌道があと少し逸れていたら、反応もできず即死だったろう。


 レーザー砲は山岳部や王都を狙ったわけでもない。

 リシェルのドローンを打ち落とすついで(、、、)でこうなっただけだ。

 虫を叩き潰そうとして、たまたま、強く叩いてしまっただけ。



挿絵(By みてみん)


「……噓でしょ」



 リシェルのドローンは、一つ残らず消滅していた。ストックはもうない。

 ただ、あっても意味がないだろう。

 あの大戦艦に近づけたところで、銃弾を当てられる気はしない。よしんば当てられたとしても、ダメージが通るはずもない。



「……マジか」



 カイルも肩を落とし、地面にへたり込んだ。

 うつむいたまま、独り言のように言う。



「……希望は、用意されてると思ってた」


「……いや、希望なんてないですよ。あれはムリです。私もゾンビ軍団も消し炭です」


「絶望の中、わずかな希望を信じて足掻く人類こそがエンターテイメント。それが契約者様とやらの考えだ。だからアラン・スミスは、人類に生き残る術を用意するとは思ってた」


「……ですから、もう終わりなんですよ、人類」


「急にエイリアンが襲って来たと思ったら、全部アラン・スミスの仕込みかよ。ムーも多分、知らないうちに、ここに来るよう誘導されてたんだろうな」


「……アラン・スミスの仕込み? 何の話ですか?」


「たった一つの、希望の話さ」



 顔を上げたカイルは、笑っていた(、、、、、)

 巨大戦艦(イクリプス)(ゆび)さす。





挿絵(By みてみん)










「あれ、だいたい直径四キロある」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ