2. ドーナツが黒歴史の原因であることは間違いない
お見合い形式は無理だと悟った。
一対一で向き合うなど、精神的に危険すぎる。
まだ大人数のパーティーの方がいい。
表面だけ取り繕えば、深く踏み込まれることはない。
世間体という防護壁がある。
未知との遭遇をしなくて済むだけでも十分だ。
そう思って、また参加してしまった。
そして私は、またもや会場の隅に避難している。
会場の隅には、敗者の集う場所がある。
——食事コーナーだ。
中央で華やかに談笑できない者たちが、無言で補給に専念する。
精神力を消耗した個体が自然と流れ着く、いわば避難所。
ここが安全地帯だった。
皿に藻ドーナツを山盛りにする。
見た目は可愛い。問題は中身だ。
一口。
甘いのかどうか分からない。
私には到底わかり得ない、繊細すぎる甘さが存在している気配だけがある。
あるいは存在していないのかもしれない。
もう一口。
分からない。
味覚が完全に置いていかれている。
近くにあったソースを手に取る。
表示は読んでいない。今は非常時だ。
全面にかける。遠慮はしない。
再び食べる。
いける。
方向性は消えたが、とにかく食べられる味になった。
素材の問題ではなかった。
調整不足だったのだ。
料理はソースが命である。
名言風に脳内で再生したところで、勇者が現れた。
同じ皿。同じドーナツ。
しばらくそれを見つめている人間がいた。
未知の物体を前にした顔だ。
一口。
止まった。
何かを必死に理解しようとしている沈黙。
つい観察してしまう。
その瞬間、彼がこちらを見た。
目が合った。
反射的に逸らす。
見ていましたと書いた札を首から下げた気分になる。
急に食べづらい。
さっきまで安全だった場所が、なぜか落ち着かない。
沈黙が落ちる。
一人で無言なのと、二人で無言なのは別物だ。
後者は空気が重い。
何か言うべきだと分かっている。
だが何を言えばいいのか分からない。
「……人、多いですね」
出てきたのは小学生並みの感想だった。
「はい」
短い返答。
拒絶ではないが、広がりもしない。
会話は終わった。
彼はドーナツにソースをかけた。
私と同じものだ。
一口。
首をかしげる。
さらにソースを追加。
もう一度食べる。
「……食べやすくなりましたね」
どうやら正解に近づいたらしい。
「単体ではなんとも言えない味ですよね」
「……ですよね」
思わず同意する。
「こういう味は」
彼は少し考え、
「インパクトが必要ですね」
と結論づけた。
専門家の分析のようで、妙に説得力がある。
沈黙が戻る。
だが先ほどほどではない。
同じ問題に取り組んだ者同士の、奇妙な連帯感がある。
名前も知らないのに。
彼は食べ終えると、軽く会釈した。
「失礼します」
「……お疲れさまでした」
自分でも何に対して言ったのか分からない。
彼は人混みの中へ消えた。
ドーナツへの最適解を導けたことに満足しながら、皿を返却口に置いたとき。
「すみません」
振り向くと、さっきの彼だった。
「先ほどのソースですが」
「はい」
「サラダ用のドレッシングでした」
言葉の意味を理解するまで少し時間がかかる。
「甘味ではなく、塩味と油の味だったようです」
「……」
「失礼しました…」
彼は礼儀正しく去っていった。
私だけがその場に取り残される。
非常時でも表示は読むべきだった。私のバカ。今すぐ地面に埋まりたい。
注:思ったことはありますが、実体験には基づきません。




