呪か祝いか
ーーふざけんなよ。
やり切れない感情で胸が焼かれそうな思いだった。
それは今の世の中においてありふれたニュースの一つに過ぎなかった。とある若者が面識のない女性を刺し殺した。ただそれだけのニュース。だが自分にとってはそうではなかった。
白木洋子は誕生日に松林隆一によって包丁で滅多刺しにされて殺された。
話が違うじゃないか。彼は父の呪いに逆らう結論を出したはずだ。死んだ父より生きている自分を優先したんじゃなかったのか。
“でも彼女への贈りものはもう辞めます。父の遺言には反しますが、それで彼女がもし死んでしまったら、生きている僕としては後味が悪すぎるので”
贈りものはもう辞める。父の遺言には反する。
いや、違ったのか。自分はもしや大きな勘違いをしていたのか。
“僕は、父の遺言を最後まで実行してしまっていいんでしょうか?”
六本目の包丁は贈られる事なく直接隆一の手によって使用された。父の呪いではなく、父を苦しめた事を自らの復讐として洋子を殺す事を隆一は選んだという事なのだろうか。
『縁を切るというより、むしろ縁結びの可能性もあるかもね』
結局久則の意図も分からない。洋子とのいじめの関係性から呪いを連想したが果たしてそれも本当に正しいのかは不明だ。
ただ並木の言葉は皮肉にも当たっていたのかもしれない。久則の遺言によって自身と洋子の切れていた縁、洋子と隆一という本来出会うはずのなかった二人が縁で繋がれ、そして全てが絶たれた。
『呪いか、祝いか。どっちなんだろうね』
限りなく呪いを孕んだように思える全ても、久則や隆一の中では違う解釈があったのかもしれない。何も分からないからこそ全ての景色が疑わしくなっていた。
本当に久則は遺言を残したのか。
全ては隆一の口から語られただけに過ぎない。
”遺言を燃やせ”と指示があったからもうないと言われたので実物は見ていない。
本当に久則が強い想いを持って遺言を残すなら、やはりもっとちゃんと詳細を記すのではないか。息子に託さず自身で実行するのではないか。そもそも死の間際に今更幼少期のイジメ相手にこんな遠回りな復讐を考えるだろうか。そんな事より残された息子の事を想った遺言を残すべきじゃないのか。
“いつかは何か言われるんじゃないかと思ってましたけど、こんな形は想像してなかったです”
彼の頭の中は彼にしか分からない。
考えれば考える程、闇の中に引き摺り込まれそうだった。




