8話
スヤスヤと眠る兄、ルカの隣で、私はじっと彼を見つめていた。彼の寝顔は、まるで自分を見ているようで、不思議な気持ちになる。頬っぺたをツンツンと軽くつついてみても、彼は疲れているのか、深い眠りに落ちているようだった。
この安い宿に宿泊していることに、ルカは私に謝ってきたけれど、私は全然気にしていなかった。むしろ、以前のような生活よりも快適で、特に問題は感じなかった。
「へへ」
私は何度も何度もルカの顔を見つめていた。鏡を見ているかのような感覚。
ルカの顔は、まるで自分そのものを見ているようだった。彼の左目の下には小さなホクロがあって、そこに目を留めた私はクスッと笑ってしまう。
小さな発見かな?
その時、突然、ルカがパチリと目を開けた。
「ご、ごめんなさい、起こしちゃった?」
慌てて謝る私に、ルカはすぐに首を横に振る。
「ううん、寝れない?」
私は少し照れくさそうに答える。
「…‥う、うん、ちょっとだけ…まだね、夢を見ているようで…」
その言葉を聞いたルカは、何かを思い出したかのように静かにロケットを取り出した。指先でそのロケットを開けると、そこには男性と女性が映るその写真と緑色の髪をした少女の写真があった。
「左側にある写真は、父上と母上だよ」
「お父さんと‥お母さん…」
私はその写真をじっと見つめながら、呟いた。銀髪に青い瞳――それは父親譲りの特徴だろう。私はその写真の中の二人に、どこか懐かしさを感じていた。
「亡くなった母上は、氷の属性だったんだ。ルナは母上に似た魔力を持っているようだね、それにね、父上譲りの銀髪はなかなかいないよ?僕達はよほど魔力が強いということだから、自身をもって。君は強い子だよ」
ルカが静かに言った言葉に、私は胸の中に温かいものを感じる。
「私はお母さんと一緒‥強い、のかな」
そう呟いた瞬間、ルカは優しく私の頭を撫でてくれた。私はそれに応えるように、ルカの頭も撫でてあげた。その手のひらの温もりが、なんだか懐かしくて、心があたたかくなった。
「…誰かに頭を撫でてもらえるなんて、久しぶりだよ」
ルカがちょっと照れたように笑いながら言った。その声には、長い間感じていなかった安らぎのようなものが溢れていた。私は少し嬉しくなって、ルカを見上げる。
「私も…あの、嬉しいよ」
そう答えると、ルカは少し照れくさそうに微笑んだ。それが、私の心を温かく包んでくれた。
「緑色の髪をした少女はだれ?」
「僕の婚約者だよ。ソフィア・マゼンタ、聖力が少しあるんだ。聖女候補でもあるけど、すごーく怖いかな!」
そう嬉しそうに話すルカに私も釣られて笑う。
「いつか、その子と会えるかな?ルカ兄のお嫁さんだよね」
ルカは少し顔を赤くして、頷く。
「ソフィアとルナは良い友達になれると思うんだ。落ちついたら紹介するね」
「あ、私もね…いつか、ルカに会わせたい人がいるの。大切なお友達よ。ルカ兄と絶対気が合いそうだな」
「え、何それ?だれ!?男?」
「もう‥‥ねむく…おやす…ルカ兄」
「いや、まって!?ルナちゃーん?!起きて!?」
「うるさいですよ!ルカ様!」
そう窓からルカを叱るソルなど知らずに
私は深い眠りについた。