5話
遠くの町で、孤児院の火事が伝えられ、そこにいた子供たちが命を落としたことを町中が騒ぎ立てていた。その中で、帝国の旗を掲げた騎士団と共に現れたのは、あの赤い髪の少年、オリバーだった。
オリバーが街の人々に向かって笑顔で手を振ると、周りから歓声が上がった。
「あの赤い髪色の少年は…オリバー王子だ!」
「わずか10歳であの立ち振る舞い!気品があるな!」
「…でも、ほら、魔力がないのが残念だよね。ヒッ!」
町の人々は、まさに目の前にオリバーが立っているにもかかわらず、彼が知らないと思ってコソコソと話していた。その声が、オリバーの耳に入ってしまったようで、すぐさまその話を聞き取ると、街の人は慌てる。
「あ、いや、オリバー王子‥‥わ、わたしどもはーー」
「いや、君たちは悪くないさ」
オリバーは優しく笑いながら言った。
「俺に力がないのはわかっている、でもそれでも、この国を良くしたいと思っている。それだけさ。顔を上げて」
その言葉を聞いて、町の人々は驚き、感心していた。あぁ、この少年こそ、次期皇帝にふさわしい人物だと、誰もが思った。
町を通り過ぎたオリバーは、騎士団の一人に声をかけた。
「おい」
「なんでしょうか、オリバー王子?」
騎士団の者は、少し緊張しながら応じた。
「さっきの、小汚いおっさん、後で殺せ。」
「ハッ!」
その命令を下した後、オリバーは黒いブローチを手に取り、ニヤリと笑った。
「さーて、何処で何を遊んでるんだ、ルカくん」
彼はそう呟きながら、騎士団と共に、どこかで待っている『誰か』を探していたようだった。
「‥‥ん‥‥」
目を開けると、少し古ぼけた木の板の天井が見えた。私、寝ていたの!?
そう思い、驚いてガバッと勢いよく起き上がった。私はベッドの中にいたけれど、こんな私がベッドを使って寝ていていいのかな。
「‥‥とても美味しそうな匂いがする‥‥」
香りが私の鼻をくすぐり、その匂いに引き寄せられるように、私はドアを開けようと手を伸ばした。しかし、そのとき。
「ルナ!!起きたかい!?朝ごはんだよ!」
勢いよくドアから入ってきたのは、昨晩私にそっくりな男の子だった。私はドアにぶつかってしまい、その拍子少しフラついた。男の子は慌てて私に駆け寄り、すぐに謝った。
「え!?あわわ!ごめんよ!大丈夫?!」
「‥‥だ、大丈夫、です。」
私はなんとか答えると、男の子は一瞬、心配そうな顔をして私を見つめていたが、すぐに嬉しそうに笑顔を見せた。
「良かった!それじゃあ、朝ごはん食べていこう!今日は特別だよ、ルナ!」
そう言って、彼は食卓の方に手を振り、私を誘った。
食事を終えた後、男の子は私の前に座り、ソル君は静かに後ろに立っていた。私は少し緊張しながら、彼らの方を見る。
「君に話しがあるんだ、とても長い、長い話しを…聞いてくれるかな?」
男の子の声は少し低く、真剣そのもので、私はその言葉に少し不安を覚えた。でも、ふとソル君を見てみると、彼は穏やかにコクンと頷いていた。彼の顔には、どこか安心させてくれるような優しさがあった。
その時、私は確信を持った。私に似ている男の子――そう、私に似ている男の子を信用してもいい。直感的に感じたその思いに、心のどこかでほっとする自分がいた。
「僕はルカ・ベラズレル。この国の王位継承権をもつ王子であり、君の双子の兄でもある」
その言葉が、私の耳に届いた瞬間、私の心は一瞬で凍りついた。双子の兄…?
「…兄‥?」私は呆然と問いかけた。
男の子――ルカは、少し顔を曇らせ、静かに続けた。
「うん、‥‥気づくのが遅くなってごめんね…」
その言葉に、私の頭の中は混乱と驚きでいっぱいになった。まさか、私に双子の兄がいるなんて。どうして今まで知らなかったのだろう?目の前にいるこの男の子が、私の兄だったなんて…信じられなかった。
私はしばらくその場で固まっていた。頭が真っ白になって、言葉がうまく出てこなかった。でも、どこか心の奥で、何かが溶けていくような感覚があった。こんなにも近くに、ずっと探していた存在がいたなんて…
「本当に…私の兄さん?」
私は震える声で再び尋ねた。
ルカは、少し顔を背けてからゆっくりと頷いた。その瞳には、少しだけ寂しそうな色が浮かんでいた。
「うん、兄だよ。今まで会えなかったけど…これから一緒に過ごせるって思ったら、すごく嬉しい。嬉しいんだ!」
その言葉を聞いた瞬間、私はどうしようもなく涙がこぼれそうになった。双子の兄が、こんなところにいたなんて。
孤独を抱えていた私にとって、まるで奇跡のような出来事だった。