4話
わかった!私この子に殺されるんだ!
私は震えていた。体中が冷たく、心臓が激しく打ち鳴らされるような感覚に包まれていた。男の子が何を考えているのかはわからない。でも、どうしてか、彼は私の手をギュッと握ってくれた。まるで、私が震えているのを感じ取ったかのように。
私と彼は見つめ合った。同じ青い瞳を持っている。私と同じ…。
ハッ!!
私の手を触れたら…!触れることで、私の冷たい氷のような力が彼に伝わってしまうんじゃないのかな?!
ドン!
驚いて私は男の子を押しのけてしまった。
「‥‥あっ‥‥ご、ごめんなさい‥‥わわわたしの手、汚ないから‥‥ご、ごめんなさい!」
私の声は震え、目の前の男の子を見つめることができなかった。恐怖に駆られ、私はその場から逃げ出すように森の中に走り込んだ。
「あ!待って!そっちの森は魔獣もいるんだ!くそ、ソル!あとは頼む!あの子を追ってくれ!」
銀髪の男の子は急いで近くにいた鴉に命令を下した。鴉はその指示に従い、空へと舞い上がった。
私は無我夢中で走っていた。足元も見えないくらい、暗くて何もわからない。心臓の音が耳の中で鳴り響き、息が荒くなる。
「ハアハア‥‥ハアハア‥‥ひっく‥‥っ」
どうしよう。真っ暗な世界の中で一人ぼっち。怖くて仕方がない。こんな世界で、私は…もしかして、院のみんなと同じように死んでしまうのかな。
「‥ッキャア!」
突然、足を踏み外して転んでしまった。痛みが走り、恐怖がさらに増す。足から血が流れている気がするけれど、暗闇でよくわからない。
「‥‥いたい‥‥‥ふぇ‥‥えぐっ‥」
その瞬間、周りがひんやりと凍り始めた。私の感情が冷たく、凍りついていくのを感じる。
誰も私を必要としない。寂しい。どうして私はこんなにもひとりぼっちで、こんな世界に放り出されなければならなかったのかな。お母さんやお父さんは、どうして私を捨てたんだろう。
涙がこぼれ落ち、ポタポタと音がした時、バサバサと羽音が響く。
その音に驚き、顔を上げると、曇り空が少しだけ晴れて、月明かりが差し込んできた。その月明かりの下に、一匹の鴉が現れた。
「‥‥からす、さん‥‥?」
鴉は私をただじっと見つめ、何も言わずに膝の上に乗った。ハッ!私は思わず手を引っ込めた。動物に触れたら死んでしまう!
「だ、だめだよ、私の膝にのっちゃ、き、君も‥‥私に殺されちゃうよ‥‥!あとね、私ずっとお風呂に入ってないの!うん◯くさいもん!」
私は必死に鴉に向かって叫んだ。しかし、なぜか鴉の目は、まるで「そんなこと気にしなくていいよ」というように、残念そうな表情をしているように見えた。
「カァ‥」
その鳴き声とともに、鴉はただ私を見つめ続けていた。まるで、私を安心させてくれるような眼差しで。
鴉は死なない。私が触れても死なない。そんな気がして、私は少し安心した。
「‥‥‥鴉さん、、、あなたは、私がこわくないの?」
私がそう尋ねると、鴉は何も言わずに、ただじっと見つめるだけだった。その静かな眼差しに、少しだけ心が軽くなった。何だか、この鴉は私の味方みたいに思えてきた。
「‥‥えっとね、私たち、お友達なれる?」
勇気を出して、私はニッコリと笑いかけながら、鴉の頭を優しく撫でた。その時、突然、背後からガサッという音がした。驚いて振り返ると、巨大な狼が現れた!
「グルルル‥‥」
その狼の目は冷たい光を放ち、じっと私を見つめていた。私は恐怖で声も出せず、ただその場に立ち尽くしていた。
「‥‥あ‥‥っ」
私は咄嗟に、鴉を空に向かって放そうとした。すると、狼が一気に私に向かって突進してきた!
「か、か鴉さん!にげて!」
私が叫ぶと同時に、狼は猛スピードで駆け寄り、牙をむき出しにして私に迫ってきた。私は目を閉じ、もうダメだと思った。
その時――
「なるほど、やはりルカ様に似ていますね」
「‥‥へ?」
突然、曇り空が晴れ、満月が輝く夜空の下、目の前に現れたのは、全身黒い服を着た黒髪の男の子だった。彼の姿は、先ほどの鴉に似ているような気がした。
男の子は狼を一撃で倒し、その強さに私は思わず目を見開いた。私は固まってその場に立ち尽くしていたが、男の子は私の方を振り向き、跪いた。
「あ、あの‥‥」
そっと近づく男の子に私は後ずさりをしたが、彼は怒鳴ることなく、ただ優しい声で言った。
「‥‥貴女様を傷つけたりしません」
「ほ、ほんと?」
私が恐る恐る尋ねると、男の子はコクンと頷いた。少し安心して、私は怪我をした足を男の子に見せた。暗闇でも彼はその足をしっかり見ていた。
「動かないでください」
「は、はい‥‥」
男の子は私が転んで怪我をしたことに気づき、優しくハンカチで手当をしてくれた。誰かに手当をされるのは、初めてだった。
「ありがとう‥‥あの、鴉さん?」
「ソルです。私の名前はソルです」
男の子は少しぶっきらぼうだけど、手はとても温かかった。月明かりのせいか、ソル君の瞳はお星さまのように輝いていて、とても綺麗だった。
悪い子じゃない、かもしれない‥‥?
その時、私の頭がクラクラし、意識が遠のいていった。