19話
僕の父上は、騎士団を率いる天才剣士として名を馳せ、周囲から深く信頼されていた。その剣技の腕前は誰もが認め、何度も戦場で勝利を収めた。父の姿を誇らしく思いながらも、同時に重くのしかかるプレッシャーに押し潰されそうな気持ちを抱えていた。
そんな時、どこか遠くから声が聞こえてきそうで、心が押しつぶされる気がした。僕は、いつしか家に閉じこもるようになった。
父はそんな僕を叱ることなく、逆に優しく接してくれた。母も何も言わなかった。ただ、いつも静かに見守っているだけだった。
ある日、僕はいつものように亡くなった祖父の部屋に引き篭もっていた。そこは古びた家具や、長い年月を感じさせる書物が並んでいた。
ふと、目に留まったのは、一つの古ぼけた手鏡だった。その鏡は埃をかぶっていて、汚れていたけれど、なぜか気になって手に取ってみた。
手鏡の中には、ぼんやりと何かが映っているような気がした。その瞬間、目の前の鏡の向こうから、はっきりと声が聞こえてきた。
「え?!」
驚いて鏡をよく見ると、その中に微かに映るのは、長い銀髪を持った少女だった。彼女の姿はぼんやりとして、はっきりとは見えなかったが、その美しい髪がどこか幻想的で、目を離すことができなかった。
「女の子?」
思わず声を漏らすと、鏡の中から返ってきたのは、驚いたような声だった。
『え?!オバケ!!』
その声が、僕をさらに驚かせた。思わず鏡を手放しそうになったが、何か引き寄せられるように、鏡に目を凝らし続けた。
それがルナとの出会いだった。
ルナは何処かの孤児院の子らしいけど、環境は最悪だと僕でもわかる。ガリガリに痩せて、髪はボサボサ…だけど笑顔がとても可愛いらしい少女だった。
僕の唯一の拠り所のルナに会いたい、彼女の孤児院は何処か調べても肝心のルナは文字が読めないので、何処にいるかわからなかった。鏡もルナは真夜中でしか話すことができず、何処にいるか見せてもらうには、厳しかった。
楽しい話しをしている間に、ルナは深い眠りについたのを確認し、僕も寝ようとしたときだ。
鏡越しで子供達の声が少し聞こえてきた。
「ミネルバ院長が帰ってきたぞ!」
夜更かししていたであろう子供達の声が聞こえてきた。
ミネルバ……
その名前を頼りに片っ端から、孤児院の院長の名前を探した。
そしてようやく…ようやく見つけた!ルナを助けられる!
君は驚くだろうか、王子様のように現れて沢山まだ君が知らない物を見ていきたい。僕を強いと言ってくれた君に早く、早く会いたいな。
君が過ごしやすいように、部屋も用意した。きっと君は断るとは思うだろうけど……それでも影ながら支えていきたいと決めたから。
そう安堵した時だった。
珍しく夕方頃にルナからの連絡があり、僕は嬉しかった。
それと同時に『助けて!』とルナからの悲鳴が聞こえる。
一体何があったのだろうか!?彼女を早く助けにいかなきゃ!!
だけど……着いた頃には遅かった。真っ黒に焦げた跡。
あぁ…彼女は……亡くなったんだ。
微かに焼け跡から魔力を感じた。
「…‥魔力を感じる…炎…」
「炎の魔力を感じるのか?……シオン、お前はやはり天才だな」
父はその言葉に感心した様子で言ってくれたけれど、今はどうでもよい。
「しかし、炎か――炎となるとルカ王子しか使えないはずだよ、勘違いだろう。さあ、もう帰ろう。遠くまで来たが、何もない」
その言葉に僕は父を見る。
「……ルカ王子……?会ったことはないけれど…」
その時、焦げた跡からキラっと光る物を見つけた。焼け焦げた。手鏡だった。
鏡はもう割れてない。
「……この悪ふざけはルカ王子がしたことなのであれば………!」
もし、この火事の原因が……理由もなく孤児院の子達を、、そしてルナを殺したのが……その王子なら僕は……絶対に許さない!!
「まあ、これは……盗賊達か、いや、確かその道先で亡くなったミネルバ院長が借金をしてか何かがーーシオン?聞いてるか!?」
まだだ。何かあるに違いない。
ルカ王子、あの人物はまだ一度も顔を合わせたことがない。ただ、彼についての噂は、まるで一人歩きするかのように広まり続けていた。
そして、耳にするのは常に彼の成功話ばかりだった。
彼女を殺した犯人はルカ王子ではないかという無意識に頭をよぎった。
彼の名はすでに、恐れられ、敬われる存在となっていた。
それにしても、あの銀髪……。銀髪は魔力が非常に高いとされており、先代の王もまた銀髪を持っていた。だからこそ、僕の中で一つの疑念が湧いてきた。もしかしたら、ルナは王族に関わる血筋の出身だったのではないか。
時々、そんな血筋を持つ者が現れることがあり、王族に非公式の存在として扱われてきた歴史を僕は知った。
そのルナという存在が、もしも本当に王族の血を引いているのだとしたら、ルカ王子が彼女を知り、邪魔だと感じたのも納得できる。
ただでさえ、オリバー王子と敵対してるのに。魔力が高い女性は目障りなはず。
そして、現在、僕の前についに現れたのは、ルカ王子だった。
彼の姿は、僕とほぼ同じ背格好、彼が持っているあの銀髪だけは何か違った。彼の髪は月のように冷たい光を放ち、儚げで、まるで静かな湖面に映る月の光のように、無言で優しく照らすような存在感を持っていた。
その時、僕は思わず息を飲んだ。
その優しい雰囲気、落ち着いた瞳、そしてどこか遠くからこちらを見つめているような感覚だった。
ルナは僕の大事な……初恋の子に、似ていたのだから。




