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一話

星空を見上げると、私はふと思う。この広い世界のどこかには、私の知らない世界が広がっているのだろうかと。時々、夢の中で、もう一人の自分に出会っているような感覚に囚われる。彼は一体誰なのだろう。けれど、その子はとても暖かい。まるで太陽のように、私を包み込んでくれるのだ。夢の中でもいいから、君に会ってみたいな…。


その日の夕暮れ時、私は錆びれた街の通りを歩いていた。冷たい風が吹き、街の喧騒の中でも、心の中だけが静かで私は寒さに耐えていた。


「寒い…」私の心の中で、呟くようにその言葉がこぼれた。


街の中には人が溢れていても、私はひとりぼっちだった。楽しげにお茶を飲む人々、笑顔で手を繋いで歩く親子。誰もが幸せそうで、私はそれを遠くから眺めているだけだった。


そんな景色を見ていると、どこかで胸が締め付けられるような気がした。


「おい、聞いたか?ルカ王子がまた家出したみたいじゃないか。すぐにまた遊び回って消えたんだとさ」


「あー、ホントに残念な王子だよ。パーティーにも出席せず、税金で遊び回ってるんだとさ。顔も見たことないけどな」


「ルカ王子が次期国王か?でも遊びほうけてばかりで、ろくに勉強もしないんじゃないか。後継者はオリバー様だろう!それに妹姫アリシア様も、聖女のようで可愛らしいしさ」


耳に入った会話が、胸を重くした。街で花を売っていると、誰もが無視して通り過ぎる。それでも私は必死に笑顔を作って、歩き続ける。


「ちっ、薄汚い子供がきた。消えろ」と、どこからか冷たい言葉が飛んでくる。誰も私に目を向けることはない。誰も、私を気に留めることはない。


その日の夕方、私は孤児院に帰ることになった。院長先生が入り口で待っていた。


「この汚らしい子だね!暗いし!ほら!さっさと掃除しなさい!」

院長先生の声が耳をつんざく。


「まったく!死んだ妹があんたを連れてきたから面倒なことになったんだ!」


バシッと、頬を叩かれた。蹴られる毎日に、もう慣れてしまっていた自分が嫌だった。


身寄りもなく、私はずっとこの孤児院で暮らしている。親に捨てられたから、どこにも帰る場所はない。私が皆から呼ばれている名前は、「死神」だった。


オレンジ色の髪とそばかす顔を持つ男の子、トーマスは、この院で最年長であり、私を嫌っていた。毎日、嫌がらせをしてくる。今日もまた、私の髪を引っ張ってきた。


「おい!死神!俺たちの分も拭いておけよ!」


「トーマス、また死神のことをからかってるの?ほら、私の分もね?院長先生が帰ってきたら、叱られちゃうから!きゃははは!」


トーマスは、私の髪の毛を引っ張って、悪戯っぽく笑う。その顔に、怒りが湧き上がる。でも、私は何も言えなかった。


「や、やめて…トーマス、痛いよ‥」


「死神はいつ死ぬんだ?あはは!」


涙がこぼれそうだったけれど、何も言わずに耐えるしかなかった。


「…っ‥うぅ…」

「泣くなよ!鼻水も出てるじゃねーか!」

「でも鼻水は出るものだよ。」

「俺は出ないね!」

「えと、でもねトーマス、出てるよ?」

トーマスは、顔を真っ赤にして、私を突き飛ばすと、走り去った。


私は死神と呼ばれる理由を知っている。動物を可愛がっていると、いつもその動物が死んでしまうことが多かったからだ。みんなは私を恐れ、死神だと呼ぶようになった。


その後、皆は遊びに出かけ、私は一人で窓の掃除をしていた。そんなとき、誰かが再び私の髪を引っ張った。私は盛大に転んでしまった。


「ばーか!死神!」


せっかくバケツに水を入れたのに、すべてがこぼれてしまった。


お腹がぐぎゅるる~と鳴る。いつか、大きなお肉を食べてみたいな、そんな夢を心の中で描く。いつか、温かいものに囲まれて、笑顔を見せられる日が来ることを願いながら。


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