15話
オリバーは目を大きく見開き、必死に私を指さしながら叫んだ。
「…っ、はは、お、お前は、そうだ!偽物だろう!?母上見てください!氷の魔力で攻撃したんですよ!?ルカは炎属性、俺がーー」
その声は震え、驚きと不安が入り混じっていた。
あぁ……こんな奴にルカは……
私は少しだけ冷ややかな笑みを浮かべ、何も言わずにただ炎を手に宿す。
大丈夫、ルカなら怖がらずに前に進み余裕な態度を取る。
ー自分が絶対的な王者だとーー
炎の魔力が指先に集まり、燃えるような赤い光が私の手から輝き出す。それをオリバーに向けて軽く放つ。焦げ付くような熱気が空気を揺らし、炎は彼の顔のすぐ前でパッと弾けたが、決して彼に当たることはなかった。
炎の魔力を静かに彼に見せつけ、オリバーはその光景に言葉を失い、ただ目を見開いて立ち尽くしていた。
私は視線を上げ、近くにあった玉座を目にした。
その玉座は、この国の王だけが座ることを許された、尊い座。どんな者であれ、無断でそこに座ることなど許されない、特別な存在を象徴する場所だ。
私はそれに一瞬だけ目を留めて、メリンダを見て微笑む。
「何を勘違いされてるかわからないけど、クラナス公爵達はずっと僕といましたよ」
私は冷ややかな声で言葉を放ち、周囲の空気をさらに凍らせる。
「では、もう僕達はこの場からさりますね」
その言葉と共に、私はクラナス公爵達とともに静かに足を進めた。まるで何事もなかったかのように、堂々と歩みを進める私たちの背に、周囲の視線が集まっていった。
「ま、まちなさい!!ルカ!貴方、いつから氷の魔力なんてーー二属性持ちなんて聞いたことがないわ!!」
メリンダの声は震え、絶叫に近いものがあった。その目は完全に私を捉え、驚愕と疑念が入り混じった表情を浮かべている。彼女は、亡き父の妹でありながら、ルカを殺すよう命じた人物だ。
私は冷たくその視線を受け止め、静かに答える。
「……叔母上、出来の悪い犬達と出会ってから、使えるようになったんですよ」
その言葉を口にすると、オリバーは睨んでいた。
私は無言で玉座を指さす。
「僕の亡くなった母は氷属性だった、そうでしょう?それと、その【場所】は僕の場所ですよ」
メリンダの顔に一瞬、怯えが走るのを見逃さなかった。そう、あの玉座こそが、ルカにふさわしい場所なのに!
お前たちが軽々しく座り、触れてはいけない場所。
彼女の目は私の指先を追い、やがて何も言えずに黙り込んだ。
「それでは、居候の貴女は城の掃除をお願いしますね」
私はそう言い放ち、クラナス公爵達と歩き出す。静まり返った空気の中で、私たちが去る姿に貴族達のざわめきが広がった。
「見たか?あのお姿」
「二属性だなんて…!!遊び人かと思っていたが、これほど強いのか?あの威厳もまたーー」
その声は耳に心地よく響き、【ルカ】の存在が再び強く感じられた。
メリンダとオリバーは、悔しそうに顔をしかめていた。彼らの心の中で何かが崩れていくのを感じ取る。
一方、アリシアはまるで他人事のように言った。
「死んでないじゃない、変なのー」
その言葉に、メリンダとオリバーはさらに顔を歪めた。
「貴女は何を考えているのですか!!」
ソル君の声は、怒りに震えていた。その眼差しは私を鋭く刺し、言葉の一つ一つが鋭利な刃のように突き刺さる。
「ソル、落ち着きなさい」
クラナス公爵の落ち着いた声が、ソル君を制止する。だが、彼の中の怒りは収まりきらないようだった。
「クラナス公爵!しかしーー」
ソル君は言葉を続けようとしたが、私はその声を静かに遮った。
私達は屋敷に戻り、ソル君は依然として相当怒った様子だった。
「クラナス公爵、ルカの名誉と、そして夢を私は叶えたいの、私は【ルカ】として生きる」
その言葉を口にするのは簡単ではなかった。だが、今の私にとっては、もうこれ以外の道はないと確信していた。
クラナス公爵は静かに私の言葉を受け止め、その目で私をじっと見つめた。しばらくの沈黙の後、彼は静かに答えた。
「…これは‥険しい道ですよ、貴女様が今なさろうとしているのは、とても険しく、厳しいです」
その言葉に、私は一瞬もためらわなかった。
ルナとしてではなく、ルカとして。すべてを背負い、歩むべき道を選んだ私の覚悟。
クラナス公爵は一瞬、目を閉じ、そしてゆっくりと頷いた。コクンと小さく頷くその仕草には、私への信頼と共に、覚悟のようなものも込められていた。
私の存在を知っているのは、クラナス公爵達だけ。
そう、ルナは死んだ。
今、私が生きているのは、ルカとして。私はあの日、あの場所で誓った。奴らを、必ず打倒すると。
そして、その道の先に、王として立つことが私の使命であると。
真夜中の静寂が屋敷を包み込む中、私は窓際に立ち、クラナス公爵達が警備を強化している様子を遠くから眺めていた。
夜風が静かに私の短い髪を揺らす中、
ふと背後から、静かな足音が近づき、ソル君が立っているのがわかった。
「…髪を切られましたね」
彼の声は静かで、少しの驚きと共に、どこか悲しげな響きがあった。
私は軽く頷き、髪を撫でながら答える。
「うん、似合ってるでしょう?」
言葉に少しだけ冗談を交えて、ソル君を気遣うように笑みを浮かべた。しかし、その笑顔の奥には深い思いが隠れていることを、彼は気づいているのだろう。
「…ずっと長くすると、ルカ様とお約束したじゃないですか」
ソル君の言葉には、ほんの少しだけ不満がにじんでいた。だが、その声の中には心配も隠れていた。
私は少し肩をすくめ、視線を遠くに向けたまま、静かに答えた。
「そうだね、もう可愛いドレスも着れないし、三つ編みはできないね」
その言葉は、どこか切ないものを含んでいた。長い髪に込められた思い、そしてそれを切らざるを得なかった決断に対する哀しみが滲んでいた。
「こんな事…ルカ様は望んでませんよ」
ソル君の声は、今度は深く沈み込んでいた。彼の目は私を見つめたままで、言葉が私の心に重く響く。
その言葉に、私は無意識に目を閉じ、静かな息を吐いた。
「……ソル君…‥‥私‥‥ちゃんと、ルカになれてた?」
涙が溢れそうになり、言葉を飲み込んだ私の目から、次々と涙がこぼれ落ちる。
その時、ソル君は無言で私を抱きしめてくれた。彼の温もりが、冷えた身体を優しく包み込む。
その胸の中で、私は堰を切ったように涙を流した。これまで抑えていた感情が一気に溢れ出し、涙は止まることを知らなかった。
ただ、ソル君の腕の中で、少しでも安らぐことができた気がした…‥。
泣き止んだ私はソル君に告げる。
「私は奴らを許さない…ルカ兄を殺した奴、全員‥‥ズタズタに引き裂いてやるの‥‥。私は今から悪い子になる、だからソル君…‥‥」
ソル君は一瞬、何かを決意したかのように、私を再度ギュッと抱きしめた。その力強さには、私への深い信頼と覚悟が込められているのが伝わった。しばらくそのままでいた後、彼はゆっくりと膝をつき、私を見上げた。
「ならば私も貴女とともに‥‥堕ちるとこまで一緒にお供いたします」
その言葉は、どこか誓いのように響いた。彼の目は真剣で、迷いのかけらもなかった。彼の決意を感じ取り、私は胸が熱くなるのを覚えた。
私は少し息を飲み、固い表情で答える。
「ソル君、教えて、私が知らないルカの好み、仕草、強さ、全て…‥叩きこんで!」
もう、戻れないと知りながらも、それでも前へ進むしかない。
ソル君は深く一礼し、静かに答えた。
「…仰せのままに、、、ルカ様」
その声には、彼なりの誓いが込められていた。
その瞬間、私たちの間に新たな絆が深まった気がした。
どんな困難が待ち受けていようとも、私は…‥悪魔でも死神でもなんだってなってやる!




