12話
城内ではオリバーが母親に、炎の力を見せるとメランダはオリバーを褒め称えていた。
「さすがだわ!私の息子!ルカは死んだのね!ならば!貴方が王太子だわ!あのクラナス公爵はさぞ無念でしょうね!あはははは!」
そう笑い声がひびいていた。
一緒にいる時間は短かったけれど、それでも私は確かに感じていた。
ルカは私の大事な家族であり、双子の兄だ。
これからずっと一緒にいられると信じて疑わなかった。
ずっと、ずーっと、仲良くみんなで幸せに…そんな日々が続くと、心の中で何度も思っていた。
なのに――
ルカはどんどん、前へ、前へと進んでいく。
私はその背中を見送りながら、取り残されているような気がして、どうしても追いつけない気がして、胸が締めつけられる。
「置いていかないで…!」
私の心の中でその言葉が何度も繰り返される。
そして、その瞬間――
「はっ!」
目を覚ますと、見知らぬ豪華な部屋の中で、私は一人、寝かされていた。
周りには金の装飾が施された家具と、柔らかな光が差し込む窓があった。
あの安心感があるはずの温もりは、もう感じられない。
私は一体、どこにいるのだろう――。
ガチャリ、と重いドアが開き、見知らぬ女性たちが数人、静かに部屋に足を踏み入れた。
私は驚き、身構える間もなく、即座に反応して氷の魔力を手に込めた。
「キャア!」と女性たちの一人が叫び声を上げる。彼女たちは恐怖のあまり、足を踏み外して後ずさりした。
「貴女たち、誰!?」
私は鋭い目で彼女たちを見据え、手から氷の刃を飛ばす。
部屋の中が一気に騒がしくなる。氷の攻撃が床を切り裂き、冷たい空気が急速に広がる。私は身構えたまま、彼女たちの動きを見逃さないようにしていた。
「ルナ様!」
その時、ソル君の声が響いた。急に目の前に現れたソル君は、私を静かに呼び止める。
「…ソル、君…?」
私は息を呑み、氷の力を緩めながら、彼の言葉を待った。
「彼女たちはメイドです」
ソルは静かに説明する。
「ここはクラナス公爵邸です。心配しなくても、敵ではありませんよ」
その一言で、私はようやく落ち着きを取り戻すことができた。目の前の女性たちは、恐怖を感じているものの、攻撃するような意図はないようだ。私は自分の魔力を収め、深呼吸をする。
「申し訳ありません…」
私は軽く頭を下げて、メイドたちを見つめる。その時、静かにドアが開き、見知らぬ男性が一歩足を踏み入れた。彼は眼帯をしており、その姿はどこか威厳が漂っていた。もしかして、ルカが教えてくれた人物かな?
「クラナス…公爵様?」
私は口を開き、思わずその名を呼んだ。
彼は私の声を聞いて、驚いたように目を見開いた後、ゆっくりと膝をつき、優雅に挨拶をした。
「姫様、ご無事で何よりです。ですが、今は貴女とゆっくりお話しするわけにはいけません。貴女様の身を守るためにも、すぐに安全な場所へとお連れいたします、この国は‥‥戦争となるでしょうから‥」
その言葉に少し戸惑いながらも、私は心の中で焦りを感じ始めた。
ルカのことが心配でたまらなかった。
「あの…ルカ兄は? どこですか?」
私は問いかける。
「傷口を塞いだので、たぶん大丈夫だとは思うんですが…」
クラナス公爵は黙ったままだった。何も答えてくれないその姿に、私は不安が膨れ上がった。
「…ねえ…ルカ兄はどこですか? ソル君… ソル君はわかる?」
私は声を震わせながら続けた。
「ルカ兄とね、木の実を沢山取って、あとでソル君用にも取ってあげたの、ソル君…」
その瞬間、ソル君の声は微かに震えているのがわかる。
「ルナ様、落ち着いてください。」
「ルカ様は…」
ソル君は言葉を選びながら、静かに私に告げた。
「ルカ様は…お亡くなりになられました。」
その一言が、私の心を凍りつかせた。言葉が出ない。ただ、耳の中でその言葉が何度も繰り返される。頭が真っ白になり、足元が崩れそうになった。
死んだ?ルカが?
「…‥あぁ‥‥あ!わ、私が殺しちゃったんだ!ルカ兄は私を庇ってたの!!かばって…て、わ、私何もできな…‥うぇっ…」
ソル君は公爵に目を配らせて、部屋にいる者たちを追い出してくれた。何度も何度も何度も何度も、泣いて、吐いてる私の背中をずっとさすってくれていた。




