10話
「そうそう、ルナ、きちんと制御でき始めてるよ。小さな氷になったね」
「ふう…」
あれから数日間、私とルカは森で過ごしていた。ルカの暖かい炎の魔力にサポートされながら、私も氷の魔力コントロールをして、少しずつ制御できるようになる。
「よし、ご飯にしようか」
「あ、あのね、この木の実、食べれるかな」
私は木の下で見つけた実をルカに見せる。実がまだ緑色だったけれど、ルカの顔を見上げると、その目が優しく輝いているのがわかる。
「ルナはなんでもわかるんだね。うん、煮詰めてジャムにしてパンに塗って食べるのもいいね」
ルカは私の手にある実をじっと見つめると、すぐに料理のアイデアを思いついたように楽しそうに言った。その姿を見て、私は嬉しくなった。こんな小さなことでも、ルカが喜んでくれるなら、それが私にとっても幸せなことだ。
こんな私でも、少しはルカのお役に立てれば嬉しいなと思って、手に持った木の実をルカに渡しながら心の中で願う。
「ルカは‥‥あの、王様になるんだよね?」
私は少し躊躇しながらも、ルカに質問を投げかけた。王様になるという事実を、なんとなく想像しきれなかった。ルカが王様として国を治める…それが現実になるなんて、まだ実感が湧かない。
「ん?ルナでもいいよ?」
ルカが軽く笑いながら言ったその言葉に、私は驚き、思わず顔を真っ赤にして首を横に振った。
「えっ、いや、いや!そんな急に‥‥」
つい最近まで孤児院で暮らして、王国の姫だなんて言われても、正直、まだピンとこないのだ。
「ルカが王様になるんだよね…?」
私はもう一度確認するように呟いた。
ルカはクスッと笑い、私の頭を優しく撫でてくれた。その手のひらが温かくて、心が少し落ち着く。
「あはは!嘘だよ。王位継承権は男しかもてないんだよね。ルナにこんな重いことをさせないよ!君が‥‥民達が楽しく、より良い暮らしができるように僕は王となる。なってみせるさ」
その言葉に、私は胸がドキリとした。ルカの目は真っ直ぐで、しっかりとした志が宿っていた。自信に満ちたその瞳に、私は思わず見惚れてしまう。
ルカが言う通り、彼は王として民を導く覚悟を決めているんだ。それに対して、私はただ見守るだけだと思っていたけれど、心の中で何か、もどかしさとともに力強い思いが湧き上がってきた。
私も何かできたらいいのに…。
そう心の中で呟き、目を伏せたけれど、ルカが私の頭を再び優しく撫でる。
「大丈夫、ルナ。君も僕と一緒に、みんなを幸せにできる人だよ」
ルカの言葉が、私の胸に温かく響いた。少しだけ背筋が伸び、心が軽くなるのを感じる。
そうだ、私も頑張るんだ!
「わ、わたし!」
「うん?」
「ルカが良い王様になれるように、ずっとそばにいるね!まだ将来とかわからないけれど、沢山沢山勉強して強くなって、それからーーあ、ご、ごめんなさい」
なんだか熱く語る自分に恥ずかしくなり俯くと、ルカは何故か少しだけ泣きそうな顔をしていた。
「ルカ兄?」
私は少し不安そうに、ルカの顔を見つめた。彼はじっと遠くを見つめ、どこか遠くの世界に思いを馳せているようだった。
「……一人じゃないと、改めて実感しているところ。僕って、幸せ者だなあって」
ルカがふとつぶやいた言葉に、私は驚きと共に胸が温かくなるのを感じた。彼はいつも自分の役割を果たすことにばかり集中しているから、時々こんな風に素直な気持ちを言葉にすることは少なかった。
でも、今こうして一緒にいることが、私にとっても幸せなんだと感じる。
「わ、私も!私のほうが幸せだよ!」
思わず、私は笑顔を見せながらそう言った。その言葉に、ルカはほんの少しだけ微笑んだ。その微笑みが、どれだけ私にとって力強いものであるかを感じていた。
しかし、その静かな幸せの瞬間は、突如として壊れた。ルカがハッ!と何かに気づいたかのように立ち上がり、すばやく炎を使って壁を作り始めた。
「な、なに!?急に、何が起きるの!?」
私は驚きのあまり、思わず声を上げるが、ルカはすぐに私に振り向き、冷静に言った。
「矢だ、すぐに隠れて!」
ルカは私を、少し離れた木の影の上の方まで置いてくれた。
その瞬間、空気がピンと張り詰めるのを感じる。
急に視界に矢が飛び込んできて、ルカのいる場所を目指して無数の矢が飛んできた。私は驚きと恐怖で足がすくんだ。
「ルーー」
私は叫ぼうとしたが、ルカは静かにするようにと目で訴えてきた。彼の瞳は冷静で、すでに状況を把握しているのがわかる。その冷静さが、逆に私を不安にさせる。だけど、、、今は彼の指示に従うしかない!!
私は息を殺して、木の陰に身を寄せた。ルカは炎の壁を強くして守りながら、矢が飛んでくるのをひたすら避ける。
どこから飛んできているのか、目の前にある矢の数が多すぎて、ひとときでも目を離すことができなかった。
「やーっと見つけたよ、ルカ。何髪色を変えてるんだ」
沢山の騎士達に囲まれて現れたのは、赤い髪色の少年だった。
ルカは冷たい目でその少年を見据えた。赤い髪が風に揺れ、その少年は、今まさにルカの前に立ちふさがっていた。
「なんだ、雑魚オリバーじゃないか」
ルカの言葉は、鋭い刃のように空気を切り裂いた。少年の顔に怒りの色が走り、その瞳が一層鋭く光る。彼の名はオリバー。王族の血を引く者として、ルカとは対照的に魔力を持たない彼は、ずっと自分の力不足を感じているようだった。
「な、なんだと!?昔からお前は魔力がない俺を馬鹿にしやがって!」
「事実だろう?君は頭が弱いのか?」
オリバーの声が震え、言葉を絞り出すように叫んだ。
「あいつを殺せ!!!」
その言葉には、長い間抱えてきた嫉妬と恨みがこもっていた。彼はルカを心底憎んでいたのだろう。
しかし、ルカは一切表情を変えず、ただ冷ややかな視線を送りながら、攻撃を交わしていく。
す、凄い…ルカはこんなに強いんだ!!




