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愛を知りたい死神  作者: 綾瀬 りょう


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コーラフロート

私はメロンソーダが大好きです

先輩はコーラフロートで私はメロンソーダフロートを頼んで、二人掛けの席に座っている。店内には優しいピアノの音色が流れている。

 懐かしい気持ちになる。私はその音を知っているような感覚になった。店内はほとんど埋まっていた。カウンター席が五人ほどで、四人掛け席などは四つ、二人掛けの席が三つある、こじんまりとした喫茶店。


 本当は違う店にしたかったのだが、最終的に私のお気に入りの喫茶店に行くことにした。お互いの家の位置が学校を挟んで正反対だった。さらに先輩は電車で通学しているみたいなので、あまり学校から離れない場所がいいねぇとなったので、私の秘密基地のような喫茶店でお茶をしている。

 弟ともたまに来るこの店は、結構気に入っている。

 先輩は大きな一口でアイスクリームを食べると、何気なく話してくる。


「友達いないアタシが言うのも何だけど、友達は大切にすべきじゃないかな」

 帰り際の九条に対する態度だと直ぐに分かった。私はメロンソーダを一口飲み、どう言葉にするか悩む。ウサギのことは話せないし、先輩のほうに興味が沸いてしまったと言えるわけない。


「九条さんって言うんですけど、好きな人がいるみたくて。その人と、一緒にいる時間を作って欲しくて気を利かせたつもりなんだけど、なんだか怒られちゃった」

「それは相手に頼まれたことなの?」

「違います。私が勝手に行動したんです。だって私もその人のことが気になるんです」

「恋のライバルじゃん」


 芳田先輩は楽しそうに笑い声をあげそうになるが、店の雰囲気的に直ぐ、口元を抑える。

 私のほうに顔を近づけ、内緒話をするみたいだ。学校の近くの喫茶店だけど、学生の姿はあまり見ない。少しリッチな喫茶店だからかもしれない。友達と出掛けることが無くて、お小遣いが貯まるから、私は月二回くらい来てたりするけど。


「この気持ちが、恋なのか私には分からないんです」

 そう、分からないのだ。宮本と九条が仲良くなってくれることは嬉しいが、愛しているという言葉を他の人に使うと想像してしまうと、悲しくなる。

 心臓のあたりがぎゅうっとなるのだ。

 私はアイスクリームとメロンソーダの接触していた部分をスプーンですくう。シャリシャリとしていて、バニラアイスにメロンソーダの味が移っている所が好きなのだ。芳田先輩もコーヒーを飲んだりアイスクリームを食べたりながら私の返事を待っているように見えた。


「昔から自分の気持ちに疎いのは、自覚しているつもりです。今まで友達もいなかったし、初恋なんてありませんでした。二人でお昼を食べてるときに宮本先輩が来て、なんだか一緒に食べることになったんです。どうしてそういう流れになったのか、分からなくて」

「へー宮本が、一緒にご飯食べてるんだ」


 興味はあまりなさそうにも見える反応。芳田先輩も一人でご飯食べているし。

「知ってるんですか?」

「知ってるも何も、同じクラスだもん。話したことないけど、少し前からお昼クラスの男子と食べないでいたから、皆不思議がってたんだよね。詮索すると怒るから誰もそれを知らなかったんだけど」

「そうなんですね」

「そう、だから宮本くんが望んでないなら勝手にいなくなるのは、不味いかもよ」

「どうしてです。私は芳田先輩とご飯食べたいです」

「それはどうして?」

「先輩に興味を持ったって言ったら怒りますか?」

 食べる手を止める。先輩の瞳が少しだけ鋭くなった。

「興味を持つのはいいことだと思うけどもし、興味を無くしたら私も捨てるの?」

 捨てると、考えたことが無かった。ウサギである九条を捨てたつもりはない。ただ先輩に興味をもってしまったから、話しを聞きたくなっただけなんだ。

「人間に対して捨てるも、拾うもないじゃないですか?」

「君は変わっているって聞いたこと、本当に変わっているね?人間観察が趣味なの?」


 アイスが溶けていき、ジュースが段々と白く色づいていく。お互いのグラスにも水滴がついてゆく。

「変わってるって、どこで話聞いたんです??人間観察は好きかもしれませんね」

 そうか、私は観察しているのかもしれない。人間とは何かを知りたくて、そのために生きている。

「運動神経が良いのに、どの部活からの勧誘も蹴散らわりには、大会とかに代理で、でなきゃいけなかった中学時代に、家族が応援に来ていた不思議な人って。人間観察好きとか自分で言っちゃうか」

 喫茶店の雰囲気を察したのか、先輩は俯くようにして肩を震わせている。その様子が笑っていることだと知ったら少し意外だった。

「先輩、家族が見に来るの誰でもあるじゃないですか。それに、人間観察しない人間なんているんですか?」


「そう言われるといないかもしれないね。でもそれをあからさまに言う人がいるのに驚いたんだよ」

やっぱり私には理解しにくい。人の枠組みは思っているよりも複雑怪奇だったのかもしれない。

 顔をあげる先輩は涙を手で拭いながら、ふぅっと、息を吐いた。

「そんな不思議な子に対して言うのもあれなんだけど、どうしてワタシに興味を持ったのか聞いてもいいかな?」

「似ている気がしたんです。先輩は大人ぶろうとしているのかなって。私が知りたいのは人の恋心についてです。まだ初恋もしたことなくて。九条さんには直接聞けないし、宮本先輩にも誰が好きかなんて聞いたら誤解されそうで。そうなると、先輩は同じ女性として質問しても大丈夫かなって」

「うん、アタシにはその理屈が全く理解できないんだけど」

「理解してもらわなくてもいいです。私が知りたいのは恋に落ちる瞬間。人はどのタイミングで恋に落ちるのか」


 メロンソーダを口にすると、氷も溶け始めていたのか、味が少し薄く、話を始める前に呑んでしまえばよかったなって後悔した。

 後悔は、後に悔やむと書く。先に悔やむことはない。事が起きてからでないと感じれない感情。

 言葉は不思議だ。意味が分かりやすくて、真理をついている。

 だから私は知りたいの。言の葉を大切にするからこそ、そうなる結論を。

「お昼のときの聞いてなかったの?アタシは小学校のころのトラウマがあるから、恋愛あんまり関係ない人生を歩んできたんだって」

「好きの感情を一ミリも感じないで生きてたんですか?」

 先輩の瞳が揺れる。

 これ以上踏み込んではいけないと思いながらも、一度きりの人生を、限られた時間を有意義に生きるためには挑まなければならない。

「先輩の分かる範囲で教えてください。恋ってなんですか?」

ここまで読んでいただきまして誠にありがとうございます。


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