魔女達の飲み会
観測者さんいらっしゃい~
注意
・初心者
・エミュ低
・日常系小説
横浜。
そこは東京都心からわずか30分に位置する大都市でありながら、外国客船が訪れる美しい港、開港当時の面影を残す歴史的な建造物群、そして街並みに溶け込んで配置された公園、開港の歴史を伝える世界最大の中華街などが、それぞれが調和し合い、洗練された美しさで訪れる人々を魅了する都市。
その都市にあるパシフィコ横浜会場では、日々少女達がフェスに向けて練習をしていた。
───パシフィコ横浜───
複数のライトスポットがステージに照らす中、少女達が歌っていた。
歌い終わるとほぼ同時に、スピーカー越しから聞こえる声───PIEDPIPERの声がステージに響いた。
「カット!」
その声にステージで歌っていた少女達───花譜、理芽、春猿火、ヰ世界情緒、幸祜は息を整えて飲用水を飲むと、PIEDPIPERが言葉を紡いだ。
「とても良かったよ!この調子で本番に向けて頑張っていこう!」
「「「「「はい!」」」」」
PIEDPIPERの言葉に花譜達は笑みを浮かばせると、PIEDPIPERは腕につけている腕時計を見た。
「もうこんな時間か・・・区切りがいいから今日はここでしよつ。皆お疲れ様、明日は休みだからゆっくり休んでね」
そう言うと花譜達はステージから降りて、控え室に向かった。
「皆お疲れ!」
控え室に着くや否や、理芽が元気な声で花譜達に言った。
「理芽ちゃんもお疲れ様」
「ありがとう花譜太郎!今日も可愛い歌声だったよ!さすが私の花譜ちゃんだよ!」
理芽は顔を撫で回しながらとろけそうな笑みをしていると、それを見ていた春猿火は呆れるように呟いた。
「まーたやってるよ」
「だね、よく飽きないよね」
「アレってライブの時いつもしてない?」
春猿火とヰ世界情緒、幸祜が各々が思ったことを口にすると、理芽はヰ世界情緒に向けて声を荒らげた。
「飽きるわけないでしょ!花譜太郎の頬は国宝級の柔らかさだから!誰も触らさせないから!」
声を荒らげると、理芽は花譜の身体に顔を埋めた。
「え?何?疲れてるの?」
春猿火が困惑げに言うと、花譜が口を開いた。
「えっと・・・情緒ちゃんほどじゃないけど、私と理芽ちゃん九月にライブがあって、その練習とフェスの練習が合わさってとても疲れてるらしいの」
「あーね・・・花譜ちゃんも大変だね」
「あはは、もう慣れたよ」
花譜も大変なんだなっと理芽を見ながら思う春猿火とヰ世界情緒の横で、ペットボトルの水を飲み干した幸祜が花譜達に向けてある提案をした。
「話変わるけど、明日皆休みでしょ?集まったんだから久々にどっかで飲まない?」
「お、いいね。飲もうよ!」
春猿火が反応すると、ヰ世界情緒がスマホで近くの店を探した。
「今の時間的に空いてるお店殆どないね。誰かの家で飲んだ方がいいと思うよ?」
「確かにそれがいいね。けど、このメンバーの中で誰が一番近いかな?」
三人が悩んでいると、顔を埋めていた理芽が花譜の身体から離れて三人に告げた。
「アタシの家がこの中だと一番近いからアタシの家で飲もうよ」
花譜が理芽の頬をつつくと、理芽は嬉しそうな表情を浮かばせた。
「ありがとうリメチ。それじゃあ皆着替えたら近くのコンビニでお酒とおつまみ沢山買ってリメチの家に行こう!」
春猿火の言葉に、全員が右腕を上げると声を上げた。
───理芽家───
花譜達は着替えると、近くのコンビニでお酒とおつまみやお菓子を大量に買い、理芽の家に向かうと各々が買ったお菓子を机に広げてお酒を手に取り、花譜が掛け声をかけた。
「それじゃあ皆、今日はお疲れ様。今日はいっぱい飲んで食べて疲れを癒そう!それじゃあ乾杯!」
花譜の掛け声に全員が手に持っていたお酒の缶を合わせて、口にした。
「はー!仕事終わりのお酒が美味しい!」
「だね!いくらでも飲めるよ!」
理芽と幸祜が美味しそうにお酒を飲むと、幸祜が花譜に声をかけた。
「そういえば花譜ちゃんってお酒よく飲むの?」
花譜はチビチビ飲んでいると首を振った。
「うんうん、久々に飲むよ」
「そうなんだね、無理しないでね。二日酔いは辛いよ」
花譜が頷くと、理芽が付け足すように言った。
「ホントだよ。二日酔い程辛いものはないよ」
「え?理芽ちゃん二日酔いになったことあるの?」
「あるよ。まぁアタシの場合は、二日酔いになっても花譜太郎の歌声で一瞬で無くなるけどね」
それを聞いていた春猿火は乾いた笑みを浮かばせた。
「リメチの身体どうなってるの?あ、花譜ちゃん真に受けないでね、リメチだけだからね、二日酔いに効くのは」
春猿火の言葉に、花譜は思っていることを見透かされていることに驚いていると、理芽は心配を含んだ声で驚いた。
「え?春姉は効かないの?どっか身体悪いの?」
「いや効く効かない以前に・・・待ってなんで私がおかしいってなってるの?おかしいのリメチの方だからね」
冷静にツッコミを入れる春猿火に対し、理芽は本当に不思議そうに首を傾げていた。
するとヰ世界情緒がチータラを食べながら皆に聞いた。
「そういえば、皆はどんなお酒買ったの?」
ヰ世界情緒の質問に誰よりも早く、花譜が答えた。
「私はほろよいのお酒だよ。理芽ちゃんが飲みやすいからオススメだよって言われたの」
花譜は理芽に向けて微笑を浮かべると、理芽は釣られるように微笑を浮かばせた。
「アタシは安定の梅酒だね」
梅酒を美味しそうに飲むと、春猿火が続けて言った。
「私はビールだね。普段は余り飲まないけど久々に飲みたくなったから買ったの」
おつまみであるスルメを食べると、幸祜が話題を繋げた。
「私はストゼロだよ。量が多くて飲みやすいからね」
ストゼロを飲むと、最後にヰ世界情緒が自慢げに告げた。
「私はこれだよ」
手に持っていたほろよいを机に置くと、机が揺れる程の大きいペットボトルを二つ机に出した。
花譜達が困惑していると、理芽が恐る恐る聞いた。
「えっと・・・情緒ちゃん、それは・・・」
「ん?業務用のウイスキーとサイダーだよ」
「「「「業務用ウイスキー!?」」」」
ヰ世界情緒の言葉に全員は驚く中、花譜はさっきまでの酔いが一気に覚めた。
「え?じゃ、じゃあそれは・・・?」
春猿火がほろよいの缶に指を指すとヰ世界情緒は花譜の方に顔を向けた。
「これは花譜ちゃんから貰った物だよ。ここに来る前に花譜ちゃんが買いすぎたからあげるねって言われたの」
「そ、そうなんだ・・・因みにそれって何リットルあるの?」
「えっとね・・・四リットルだよ」
「さすがお情・・・ラッパ飲みは危ないからしないでね」
「しないよ!私をなんだと思ってるの!?」
二人の会話を聞いて三人は思わず笑いだし、それに釣られるように理芽とヰ世界情緒も笑った。
それから数時間、花譜達は談笑しながら酒を飲んでいると、お酒で頬が赤くなった花譜はアルコールで気分が良くなって前々から行こうとしている場所の名前を零した。
「近いうちにバーに行こっかな・・・?」
「「「「!?」」」」
花譜の何気ない言葉にその場の空気は一瞬で凍った。
バーとは落ち着いた雰囲気の中で酒を嗜む場なのだが、その雰囲気の裏には男女の欲が蠢く場所の一つである。
花譜はバーに関する知識は落ち着いていて大人の雰囲気を味わえるという知識しか知らない。
男女の欲が蠢くそんな場所に、純粋無垢な花譜が行くと口にしたことに、バーに関する裏の知識を持つ物達はどのように説得しようか、頭をフル回転しながら考えた。
すると、その凍った空気の中で誰よりも早くその場を溶解させたのは───理芽だった。
「花譜ちゃん、バーに行きたいの?」
「うん。あの大人っぽい雰囲気でお酒を飲みたいからね」
酒のせいで頬を赤らめながら笑みを浮かばせると、理芽ある一つの提案をした。
「花譜ちゃん、もし良かったらあたしと一緒に行かない?ほら、花譜ちゃん初めてだからバーのルールとか分からないでしょ?ルールを知ってるのと知らないのだと楽しみ方が全然違うよ」
理芽の発言に春猿火達は驚いた。
何故なら、一番そのような場所に行かせたくない理芽が行かせようとしていたのだ。
余りにも不自然な光景に花譜を除く一同は現実なのかもしくは酒のせいなのか、自身の耳を疑った。
春猿火達が自身の聴覚を疑っていると、理芽の言葉に花譜は納得した。
「確かに、そうだね」
「でしょ?後、バーって意外と複雑なルールがあるから何回か一緒に行こうね」
「うん、良いよ!」
花譜はバーに行ける嬉しさか、はたまた理芽と一緒に行ける嬉しさなのか、とても嬉しそうな表情をした。
その顔を見て、理芽は心の中で笑みを浮かばせながら安堵の息を吐いた。
(良かった、久々に花譜ちゃんとお出かけだ)
理芽と花譜は意外と二人だけで出かけることは殆どない。
もっと花譜と一緒に出かけたい理芽は何度も花譜を誘ったのだが、学生ということもあり同じ日に休みが取れなかった。
約束を取れたと思ったら花譜が他の人も誘おうっと言って断れなかったり、体調不良になったりと、二人っきりで出かけられることが殆どなく、どうやって二人っきりで誘おうか必死に考えていた。
そんな時、花譜が思わぬことを口にしてこれをチャンスと思い、一緒に出かけられる約束をした。
本当はバーなんてところに行かせたくないのだが、否定すると一人で行ったり誰かと一緒に行く恐れがあったので必死に否定する感情を抑えて、肯定した。
そのおかげで、一緒に出かけられることが出来て、理芽は余りにも嬉しさに思わずガッツポーズをしてしまいそうになった。
そんなことを露知らず、花譜は春猿火達の方に顔を向けた。
「皆も一緒に行かない?」
その言葉に理芽はドキッとすると、ストゼロを半分程飲んでいて、既に酔っていた幸祜が反射的に「行く」っと言おうとした刹那、それを察した春猿火が幸祜の口を抑えて首を振った。
「私達は大丈夫だよ。ちょっと雰囲気が苦手だからね」
「あと前に私達三人で行ったからね。二人で楽しんできてよ」
春猿火とヰ世界情緒の気遣いをすると、花譜は全員で行けないことに少し落ち込んだ。
「そっか・・・じゃあまた遊園地とかで皆で行こうね」
「うん、楽しみにしてるよ」
春猿火が言うと、理芽は片手で花譜の頭を撫でながら片手で梅酒を飲み、二人の気遣いに感謝した。
すると、ウイスキーをサイダーで割って飲んでいたヰ世界情緒が思い出しかのように口を開いた。
「そういえばバーで思い出したのだけどコスプレバーってのがあったような・・・」
その言葉に、幸祜は口を塞いでいた手を退かして口を開いた。
「コスプレバー!?それどこにあるの情緒ちゃん!」
目を輝かせながら聞いてくる幸祜の反応に驚きながら、ヰ世界情緒はスマホに手を伸ばして検索した。
「えっとね確か・・・新宿にあるらしいね。そこのお店、衣装のレンタル代が無料らしいよ」
その言葉を聞いた瞬間、幸祜は思いっきり立ち上がって宣言した。
「ライブ終わったらそこに行こうよ!絶対に楽しいよ!」
理芽の気持ちと先程の気遣いを無下にするかのような発言に、理芽が不機嫌な表情を必死に抑えていると、春猿火が冷静に説得した。
「待って幸祜ちゃん。まず先に普通のバーに行ってみたらどうかな?それから一緒にコスプレバーに行ってみたらいいと思うよ。ほら、何事もまずはノーマルからって言うからね。だよねリメチ」
春猿火の気遣いに気づき、理芽は頷いた。
「確かにそうだね。春姉の言う通りだよ」
それを聞いて花譜はコクコクと頷いた。
「言われてみれば確かにそうだね。うん、そうするよ。幸祜ちゃん、近いうちに行こうね」
「うん!楽しみにしているよ!」
二人が微笑ましい笑みを浮かばせていると、春猿火がヰ世界情緒に話しかけた。
「そういえば情緒たん。コスプレって具体的にどんなのがあるの?」
「えっとね、ちょっと待ってよ」
ヰ世界情緒がスマホを操作すると、花譜達のスマホの通知が鳴った。
見てみると、それはヰ世界情緒からだった。
開いてみるとコスプレバーの公式サイトであり、見てみると、そのサイトから数百種類のコスプレ衣装があると書かれていることに全員が驚いた。
「え!百種類!?」
「みたいだね。調べた私もびっくりだよ」
「凄いね・・・」
スクロールしながら見ていると、花譜が嬉しそうな声を上げた。
「あ!皆!魔女のコスプレあるよ!」
「え?どこにあるの花譜ちゃん?」
理芽は花譜のスマホを覗くように見ると、花譜は理芽の方にスマホを向けた。
「あ、ホントだ。どれも可愛いね」
「でしょ!」
笑みを浮かばせながら理芽以外にもスマホを見せると、春猿火が衣装を見ながら呟いた。
「スカートにズボン、ショートパンツ・・・色とりどりで種類が豊富だね」
その言葉を聞いたヰ世界情緒は独り言のように呟いた。
「魔女も多様性の時代に追いついたんだね」
「何そのパワーワード」
春猿火のツッコミにヰ世界情緒は小さく笑った。
しばらく見ていると、理芽があるものに目に入り、操作する手を止めた。
理芽が目に入ったものそれは───ウエディングドレス。
それを見て、理芽は花譜の方にバレないように目を向けた。
花譜を見ながら花譜がウエディングドレスを着衣して微笑む想像を浮かばした。
(───理芽ちゃん)
理芽はその想像に、「その笑顔は絶対に守る」という決意と「幸せになってね」と哀愁を漂う表情をしていると、幸祜がある衣装を見て目を輝かし、花譜達にスマホを見せた。
「ねぇみんな、この衣装着てみたくない?」
幸祜が花譜達に見せたのは───男装の衣装。
それを見て、花譜は疑問符を頭に浮かべながら幸祜に聞いた。
「幸祜ちゃん?これって男性の服だよ?」
「うん、そうだよ」
「私達女の子だよ。男性の服を着るのは・・・」
戸惑いながらそう告げると、幸祜は大きくため息を吐いた。
「はぁ・・・花譜ちゃん分かってないよ・・・!」
すると幸祜は酔いのせいかもしくは共感してほしいのか、はたまた両方なのか、懐からメガネを取り出すと男装について語った。
「いい花譜ちゃん、確かに女の子が男の子のコスプレをするのは少し変わっているのは分かる。私も始めはそうだった。ただのコスプレやボーイッシュと大して変わらないと思ってた・・・けどね、それは違うんだ」
幸祜はスマホを操作すると、執事服を身に纏ったかっこいい男性の画像を花譜に見せた。
「ねぇ花譜ちゃん、この子見てどう思う?」
「え?かっこいいと思うよ」
「よね。実はこの子───」
「女の子なんだよ」
「えっ!?」
その言葉に花譜は思わず声を上げた。
幸祜がスマホをスクロールすると、可愛い女の子の画像が写し出された。
先程の写真を見ると同一人物であり、どこからどう見ても男性であり、スマホを借りて何度も左右にスクロールしながら二枚の画像を見比べた。
「どう花譜ちゃん驚いた?」
花譜は驚愕をしながら頷いた。
「スゴすぎるよ。何度見ても女の子が着ているなんて思わないよ。男装って凄いんだね」
その言葉を聞いて幸祜は目を輝かせて嬉々とした声色で声を発した。
「でしょ!男装って凄いんだよ!可愛い女の子がかっこいい男の子になるのギャップがあって良いよね!ハマるよね!」
「分かるけど、私はまだハマらないから・・・」
「えーそうなの?」
幸祜は若干落ち込みながら花譜に貸したスマホを返してもらうと、それを一部始終見ていた理芽はある事を想像した。
(男装か・・・)
顎に手を置きながらは笑っている花譜を見つめた。
(男装・・・花譜太郎・・・執事服・・・)
三つの言葉を合わせると、執事服を着た花譜を想像して、理芽は力強く頷いて幸祜の方に近づいた。
「幸祜ちゃん」
自身の名前を呼ばれて声が聞こえた方を振り向くと、理芽は幸祜に向けて手を伸ばした。
「男装、良いね」
理芽の言葉に幸祜は再度目を輝かせて、理芽の手を握った。
「よね!男装良いよね!」
「うん!バリ良いよ!」
二人が笑みを浮かばせながら握手をしていると、それを見ていた春猿火はビールを飲みながらヰ世界情緒の耳元で声をかけた。
「情緒ちゃん、リメチさぁ、絶対に花譜太郎のことを考えたよね」
「どうだろう?もしかしたら純粋に男装が良いって思ったんじゃない?」
「あー・・・リメチならありそうだね・・・ところで情緒ちゃん、あとどのくらい残ってるの?」
「あとこれだけだよ」
ヰ世界情緒が持っていたグラスを見せると、目を丸くした。
「・・・え?嘘でしょ?」
ヰ世界情緒が買った業務用ウイスキーは約四リットル。
ウイスキーを飲む際、ウイスキーの割合は一にし、サイダーは三から四の割合にすると、約八十杯になる。
もしも一日一杯を飲むと、約三ヶ月で飲み干す計算になる。
つまり、ヰ世界情緒は短時間で約三ヶ月分のウイスキーをその小さな体に入れたのだ。
その計算をしたかは分からないが、春猿火は約四リットルの酒を飲んだ事に絶句した。
しかし、当のヰ世界情緒は恥ずかしそうに頬をかいた。
「えへへ、いつもは全然酔わないけど、こうして皆と話しながらお酒飲むと、いつの間にか少し酔ってきちゃったよ」
「そ、そうなんだね・・・えっと・・・身体大丈夫?吐き気とかない?」
「うん、大丈夫だよ。それにこんな量じゃあ私からしたらほろよい程度だよ!」
ヰ世界情緒は胸を貼りながら自慢げにそう告げた。
「さてと、それじゃあ二本目いきますか」
そう言うと、ヰ世界情緒は二本目の業務用ウイスキーを取り出してサイダーが入ったペットボトルに手に取ったが、中身はもう無くなっていた。
「あ、ないや、まぁいいや」
仕方がないとばかりに呟くと、ヰ世界情緒は業務用ウイスキーをグラスに入れずに、そのまま口につけてラッパ飲みを始めた。
それを見た春猿火は止めることができず、ただただヰ世界情緒に怯えていた。
(明日・・・朝一で絶対に情緒ちゃんを病院に連れていこう・・・)
そう固く決意しながら春猿火は怯えを消すために酒を煽った。
それから酒を飲みながら花を咲かせていると、いつの間にか深夜三時が回っていた。
理芽と春猿火、ヰ世界情緒はまだ飲んでいたが、花譜と幸祜は気持ちよさそうに寝ていた。
幸祜は頭に枕を置いて掛け布団をかけながら寝ていて、花譜は理芽の膝で頭を撫でながら寝ていた。
「ふふ、可愛いね」
頬を赤くしながら梅酒を片手で飲んでいると、春猿火はふと思ったことを理芽に聞いてみた。
「前々から思ったんだけど、リメチって花譜太郎に対して距離近いよね?」
「・・・え?」
いきなり言葉に理芽は酒を飲む手が止めた。
「そうかな・・・?」
「いや、距離が近いというかどっちかと言うと過保護かな・・・?」
春猿火はビールで喉を潤して、今までの事を思い出しながら語った。
「例えばさっきのバーのことだったり、花譜太郎がいないかキョロキョロと探したりして見つけると嬉しそうに駆け寄ったり・・・」
春猿火の言葉に付け足すようにヰ世界情緒が口を開いた。
「あと会う度に何かお菓子をあげたりとか、話している時やたら近かったりとか、あとは・・・」
「ちょっと待って」
ヰ世界情緒の言葉を遮るように言葉を止めた。
理芽の方に顔を向けると、赤くなった顔を手で覆っていた。
「どうしたの理芽ちゃん?」
小首を傾げながら聞くと、理芽は小さな声で呟いた。
「よく・・・見てるね・・・」
その言葉に二人はお互いの顔を向けた。
「・・・そりゃあまぁ・・・」
「長い付き合いだからね。嫌でも気づくよ」
「だね。あんなに仲良くしているのを見せられると・・・」
すると理芽が二人に恐る恐る聞いてみた。
「・・・因みに・・・それって何人知ってるの・・・?」
「えっとね・・・スタッフの中にファンクラブができるくらいは知ってるね」
「それもう全員知ってるじゃん!!!」
飲んでいた梅酒の缶を勢いよく机に叩きつけて、真っ赤になった顔を隠すようにフードを被った。
恥ずかしさで顔を隠す理芽に春猿火は慰めた。
「ま、まぁまぁ、ファンクラブイコール全員知ってるとは限らないから・・・」
「・・・じゃあ何人知ってるの・・・」
「えっと・・・9.5割ぐらい・・・」
「ほぼ全員じゃん!なんで残り0.5は知らないの!?もうその割合までいったのなら全員知ってよ!!」
「お、落ち着いて理芽ちゃん。ほら、花譜ちゃん起きるよ」
「!」
ヰ世界情緒の言葉に理芽は花譜の方に顔を向けると、花譜はスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていた。
それを見て、理芽はホッと胸を撫で下ろて落ち着きを取り戻した。
「えっと・・・それで二人はもう少し距離を離した方がいいってことかな・・・?」
寂しそうな声で聞くと春猿火は首を振った。
「いや、そんなことはないよ。てかもう慣れたから逆に距離離すと凄い違和感感じる」
「だね。けど見てみたいよ」
するとヰ世界情緒は、突然不思議なことを聞いてきた。
「ねぇ理芽ちゃん、もしも花譜ちゃんと距離離すとしたらどんな風に離れる?」
「え?そうだね・・・さっきのバーで例えるなら、一緒に行くんじゃなくて後を追って近くで見守るかな?」
「それストーカーじゃない?」
「ストーカーじゃないよ。ただ気配を消して家に帰るまで見守るだけだよ」
「リメチ、それ世間ではストーカーって言うんだよ」
「ストーカーじゃないもん」
可愛らしく頬を膨らませていると、ヰ世界情緒が業務用のウイスキーを飲み、理芽が言った言葉を思い出して口にした。
「理芽ちゃんさっき気配を消せるって言ったけどそんなことできるの?」
「え?できるよ」
当たり前かのように言う理芽に、春猿火は乾いた笑みを浮かばせた。
「なんでそんなにはっきりと言えるの?」
その言葉に、理芽は恐ろしい事を口にした。
「え?だってあたし、前に花譜ちゃんを尾行したもん」
「そうなん・・・え?」
「理芽ちゃん・・・なんて・・・?」
余りにも衝撃な言葉に、春猿火とヰ世界情緒は自身の耳を疑い、聞き間違えであって欲しいと思ったが──────
「前に花譜ちゃんを尾行してたよ」
──────聞き間違えじゃないことが分かると、二人は言葉を失った。
二人がなんて言えばいいのか考えていると、理芽は飄々と語った。
「いやねぇ、街中歩いてたら偶然花譜太郎を見つけたんだよ。それでどこに行くのかなって思いながら後を付けて行ったら、カフェに向かっていったの。何を頼むのか気になって花譜太郎の顔が見える近くの席に座って眺めていたら、いちごがたくさん乗ったパンケーキを頼んでいたの。一口食べると、ほっぺが落ちそうなほど美味しそうに食べているのをしていたから、あたしも食べたくなってそのパンケーキ食べてみたんだけど、確かにあれはほっぺが落ちるほどの美味しさだったよ。それからパンケーキを食べ終わると、次に本屋に寄ったね。花譜太郎漫画好きだから漫画何冊か買ってたからあたしも買おっかなって思ったけどあたしが読んだことない漫画で、しかも途中からだったから、後で花譜太郎に漫画借りよって思って漫画は買わなかったよ。それからはどこにも寄らず自分の家に帰って行ったね。何もトラブルが起きずに帰れて良かったよ」
理芽が楽しそうに話しているの聞いていた春猿火とヰ世界情緒は頭を抱えていた。
((完全にストーカーじゃん・・・!))
思ってた以上にストーカーをしていて、二人は話を遮ることが出来ず、言葉が出なかった。
(ちょっと待ってマジでストーカーじゃん!嘘でしょリメチ!)
(いやいや何してるの理芽ちゃん!いや本当に何してんの!?)
(百歩譲ってついて行くのは良いとして同じ物を頼むのはヤバすぎるよ!犯罪感ヤバいよ!)
(そもそもなんで花譜ちゃん気づかないの!?鈍感なの!?鈍感もいいところだよ!普通気づくでしょ!もしかして本当に理芽ちゃん気配消すの得意なの!?だとしたら怖すぎるよ!もう忍者じゃん!)
(てか何ちゃっかり最後まで見届けているの!?怖いよ!怖すぎるよリメチ!)
(待ってこれPさんに言った方がいいかな?いいよね?全然いいよね!?話していいよね!?)
二人は恐怖と葛藤に呑まれていると、理芽は梅酒を飲んでケロッと言った。
「まぁ全部嘘なんだけどね」
「「嘘なんかい!!!」」
恐怖と葛藤が一気に消し飛ぶほどの安堵感を感じながら二人は心の底からホッとした。
「リアル過ぎてどうしようか本気で考えたよ・・・正直怖すぎて泣きそうになったよ」
「私も・・・Pさんに話したらいいのか迷ったよ」
「アハハ、二人ともいい反応だったよ」
二人の表情を肴にしながら梅酒を呷り、梅酒の缶を机に置いて欠伸を零した。
「眠くなったからあたしはそろそろ寝るね。二人も早く寝なよ。それじゃおやすみ」
理芽が花譜の隣で身体を横になると、一瞬で眠りについた。
春猿火とヰ世界情緒は理芽の嘘のせいで酔いも眠気も消え去った。
残された二人は、飲み終えた缶を洗い、机を綺麗にするとさっきの仕返しとばかりに、理芽の顔に落書きをした。
それから数週間後、フェスの日がやってきた。
───パシフィコ横浜・会場内───
正午の猛暑。
セミが鳴り響く外を隔てる会場の中では今日この日を待っていた観測者達が、嬉々とした声を発しながら仲の良い観測者達と話していた。
そんな光景を花譜は会場の裏で眺めていた。
「相変わらず凄いね」
さっきまで座っていた椅子に向かいながら理芽達に向けて呟いた。
それを聞いていた理芽は笑みを浮かばせた。
「そうなんだ。テンション上がるね」
「確かに上がるけど・・・」
「緊張の方が勝つね」
「だね。正直まだ慣れないよ」
各々が思ったことを口にすると、男性スタッフが花譜達に開始の言葉を伝えた。
「そろそろ始まるので配置に着いてください」
「分かりました。皆行こっか」
花譜が配置につこうとすると、理芽が花譜達に声をかけた。
「ねぇみんな、円陣組まない?」
「え?円陣?」
聞き馴染まない単語に花譜は小首を傾げた。
「うん。部活の試合でよくやってたから久々にしたいなって思ったの」
それを聞き、花譜は微笑を浮かばした。
「いいね、やろう」
「円陣なんて中学生以来全くしてないよ」
「女の子は余りやらないからね」
「円陣なんて懐かしいな」
五人は円陣を組むと、円の中心に手を合わせた。
「じゃあ花譜ちゃん、掛け声お願いね」
花譜は深呼吸をして、士気を高める掛け声をかけた。
「フェス、頑張るぞ!」
「「「「おー!」」」」
声を合わせると五人は手を上げて、配置についた。
そうして花譜達は舞台に上がり、目の前にいる観測者と画面の奥にいる観測者に歌を届けた。
最後まで読んでくださりありがとうございます
どうでした今回の神椿小説は?
魔女達のありそうな日常小説
リアルでも皆で会って楽しく話してお酒を飲んで楽しんでいて欲しいですね
次回投稿する小説も是非読みに来てください