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家に帰ってママの……

作者: 雉白書屋

 とある町のとある学校。その校舎裏に集まった不良たち。

野次馬で作られたその囲いの中、殴り合う二人。

 その戦いも、もう終わりを迎えようとしていた。


「オラァ!」


「で、出た! 鬼束先輩の関節決めからの投げ!」

「これはもう無理だろ!」

「身の程を知れやぁ! 転校生ぃ!」


「ぐ、ぐぅ……」


 ……よし、あの野郎、もう立てねえようだな。やった、やったぞ。ついに言える。

最近、この俺に喧嘩売ってくる奴がいなかったから言えずにいたあのセリフ!

一度言ってみたかったんだ。さあ、言うぞ……。


「……フン、てめぇなんざ相手にならねえんだよ。

大人しく家に帰ってママのおっぱい――」


「俺はぁ! 負けられねぇんだよ!」


「あ、あいつ! 立ちやがった!」

「ケッ! どうせまたすぐ倒されるさ!」

「やっちまってくださいよ! 先輩!」


「チッ、オラヨォ!」


「ぐぅ!」


 ……よし、今度こそ決まったな。じゃあ、言うぜ。それで立ち去るんだ。カッコよくな。


「お前はもう、家に帰ってママのおっぱいで――」


「うおおお!」


「あ、あいつ、また立ったぞ!」

「完璧に終わったと思ったのに!」

「すげえかもしんねぇ!」


「はぁ、はぁ、倒れてらんねぇんだよぉ……このガッコのてっぺんとるまではなぁ!」


「く、クソが! オラララァ!」


「ぐあ!」


 ……こ、こいつ、カッコいいセリフを俺よりたくさん言いやがって!

よし、今こそ俺も……いや、待て。俺のセリフ、本当にカッコいいか? 


「……ママのおっぱい……うーん」


「うおおおおお!」


「あいつ! また立ちやがった!」

「沈まねえな!」

「戦艦大和って呼ぼうぜ!」


「はぁはぁ、ははっ大和は沈んだぜぇ? 俺は違うがなぁ!」


 クソッ! 戦艦なんてカッコいいあだ名を、しかもそれを断るなんて!

こいつ、強ええ! いや、実際さっきより強くなってやがる! 拳が重い!

 クソッ、だが俺も負けてらんねぇ! カッコいいセリフを言うまでは! 

 うちに帰ってママのオラァ!


「おっぱい!」


「うぐ!」


「あいつ、倒れ……ねぇ!」

「あいつ! 鬼束さんの本気の一撃をとうとう耐えやがった!」

「おっぱい?」


「はぁはぁ、さっきからなんだ、てめぇ?

おっぱいだ? へっ、そんなにママが恋しいかよ!」


 クソッ! 間違えた! おまけにこいつ、また強く! 

……いや、俺が迷っているからか?

『うちに帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな』

このセリフがカッコいいかどうかを!

 いや、悩むな! 今は奴を倒すことだけに集中するんだ!


「オラアアパアアイ!」


「ふがぁ!」


「あいつ、今度こそ、終わっ……てねぇ!」

「むしろ余裕そうだ!」

「おっぱああぁぁい!」


「はぁ、はぁ、へへっ、骨のあるやつだと思ったのによぉ、そんなに気になるなら

家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶて――」


「うおおおおおおお! 先に言うなああああ!」


「うっ!」


「すげえ一撃だ!」

「さすが鬼束さん! 今度は倒れたぜ!」

「ナイスおっぱい!」


 お、俺より先に言おうとしやがって……。

だが、奴もこれでお終いだ。よし、言ってやる。

二番煎じ感があるが、言うぞ、言うぞ……。


「お、お前が、家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶって――」


「しゃぶれねえんだよ!」


「たっ、立ったああああ!」

「すげーぞ転校生!」

「おっぱいだ!」


「クソが! しつけぇんだ……ん? お前、泣いて……」


「……しゃぶれねえ、もうしゃぶれねえんだ。

うちのお袋は病気で死んだんだからなぁ……でも約束した。一番になるってよぉ」


「……俺も母ちゃんがいねえ。ガキの俺を置いて出て行っちまった。

はっ、あの感じ、もう戻らねえさ」


「そうか……」


「ああ……」


「母ちゃん……」「母ちゃん……」



 この日をきっかけに彼らは仲良くなった。

そして、一番になるの意味を履き違えていたことに気づいた転校生は

勉強に励み学校のトップの成績に。

 つられて勉強に励んだ彼もまた、良い高校に入ったのであった。

 

 サンキューマザー。

 フォーエバーマザー。

 母の日おめでとう。

 そしてありがとう。

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