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第一章 再びこの世界で生きるという事 一章9 新たな初日を終えて

 そんなこんなで初日の労役を終えた自分と少年は、先ず水を飲みに行く。


 水は朝食の後、各々ヒョウタンの水筒や木の器に入れた分だけで過す。

 ノルマが達成できないと残業になったり、夕食の量が減らされたり、あと解放される期間が伸びる。


 労働奴隷は労役期間が満了すると開放される仕組みになっている。それが伸びるということは死ぬまで働けと言う事だ。怖いね。血も涙も無い。


 自分も少年も、昨日まで死にかけだったので労役満了は数十年先まで伸びていた。

 その前に死ぬと思われていたので食事の量も当然少ない。


 まあ、向こうからしたらノルマを達成できない奴隷は損失を産んでいる訳なので、コストを回収したい気持ちもわからなくもない――わけないだろ強制労働反対だよクソが。


 だが、今日は少年共々ノルマを達成していたので、食事の量がほんの僅かだが増えていた、気がした。元から最低なので大勢に影響がないため涙を誘う。


 夕食は少年と歓談(ほぼ一方的な自分語り)をしつつ、それとなく周りの奴隷ともコミュニケーションをとる。この周辺の地理を聞き出すためだ。

 それとなく話しが訊けて、奴隷たちの身の上話しなども聞けた。


 だが、皆満身創痍なので夕飯を食べ終えた順から、一人また一人と寝床に戻っていく。

 もちろん引き止めない。彼らの状態、そして境遇は自分もよくわかっている。


 少年も今日はもう限界だったようで、横になっている。

 そのままだと寝辛いだろうと思い、自分の寝床に使っている干し草を半分分けてあげた。


 それから寒くならないように魔術で身体を温めてあげた。

 布団乾燥機の要領だ。寝床の干し草からダニやらノミやらが逃げていく。


 どうせ暫くすると周りから集まってくるだろうが、寝付くまでは大丈夫だろう。今度ピレトリンでも合成して寝床中にぶち込んでやる。この世界のノミやダニに効果があるか分からないが。


 少年があっという間に眠ってしまったので、草鞋の材料と干し草を集めに外へ出る。

 空はまだ明るい。日は傾いているが、まだしばらくは視界良好といったところだ。


 警邏けいらの兵士の中から、人当たりの良さそうな人に事情を話す。


 小言付きだったが、目の届く範囲であれば採集を許可してもらった。

 さて集めるぞ。


 道具は昼間に拾った、オパール化した珪化木の破片だ。

 堆積岩よりも堅く、破断面が鋭いので採集ナイフとして使う。無いよりもマシだ。


 途中でめんどくさくなって砂を高速で動かしてやすりのように使う魔術を考えたが、そこそこマナを使うようだから止めた。

 不意打ちに使えるかもしれないが、使いどころが限られる魔術だった。


 それよりも植物組織内の水分を熱して気化させ、組織を膨張、破裂させる魔術を考えた。こちらはマナを左程使わないが、破片が弾け飛ぶのでちょっと危なかった。

 時間は少し掛かるが、石器で切るより速かった。


 何度か警邏の兵士に怪しまれたが、理由を説明したら微妙な顔をされた。

 元魔術戦士だったのは兵士も周知の事だ。普通はこんなところに墜ちてこないので、自分がここに来た当初の頃は彼らの間で話題になったらしい。

 今は死にかけのミイラ扱いだが。


 それでも自分の境遇に興味があるのか警戒されているのか、職務質問に近い詰問を受けた。

 隠すことでもないのでメインの職業スキルが全然使えなかったこと、身体能力がしょぼかったことを伝えたら同情された。この人は良い人だった。都合がいい人だがな!


 ということで干し草や草鞋の材料の蔦などを集めながら雑談をした。警邏の人は帝国領の属国出身で、ここの領主の下っ端兵士だとか。

 本当か嘘かは分からないが、装備が少しだけここの他の兵士よりいいので、隊長格だろうか?


 ――魔術戦士は領主の近習や、特殊部隊など虎の子的存在だ。本来ならただの哨戒歩兵と身分も給金も違う。


 なので向こうは何とも微妙な表情だ。普段上で威張っている連中を思い出し、それと同等の存在が最下層で死にかけている様子を見て優越感に浸っている、というわけではない。

 この表情は、色々考えを纏めている時のものだ。


 こいつは使えるのか、とか。もし有用ならこいつを使って出世できるのでは、とか。

 でもここに墜ちるぐらいのへっぽこだし、やっぱ無理かとか思っているんだろう。


 まあ、おそらく現実的な着地点を見つけられず結局放置することになるだろう。

 当初もそんな噂が数日続いて、自分の働きぶりに興味を無くしていった人たちだ。


 ……こちらには関係の無いことか。むしろ侮ってくれた方がいい。


 とりあえず、同情を買う作戦の標的はこの人に決めた。少年を生かすためなのだ、悪く思うな。


 集めた物資を厩の寝床パーソナルスペースまで運び込むこと何往復か。程なくして日没が近付いてきた。

 警邏の兵士は交代の時間らしく、こちらの作業を散々急かして兵舎に帰っていった。お手数おかけしました。


 隠れ蓑として利用する気なので、なるべく友好的でいたいが、どうだろうか。


 さて、材料が十分に集まったので寝床から離れて水場の側で作業をする。


 木樋もくひの水場は奴隷用なので、夜番の警邏も前を通り過ぎていく。

 水を飲んでいるか体を洗っているかのニ択なのだから当然と言えた。


 水場の傍の灌木の茂み、ニセソの横に胡坐をかいて草鞋を編む。

 もう日が沈んで暗いが、赤外線を見られる魔術を考えて試してみた。

 赤外線の波長を桿体細胞で捉えられるようにしているので身体機能拡張魔術、とでも言うべきか。単に身体強化魔術と呼ぶべきか悩むところ。

 どっちでもいいか。


 眼球の中で光を増幅することも考えたが、猫の目みたいに周りから見えそうなので、実装以前に却下した。

 そもそも目が光っているなんて知れたら、獣人か獣付きとして槍玉に上げられるので軽率に行動しなくてよかったと思う。


 草鞋をあみあみしながら、寝床用の草を魔術で乾かす。ついでに掌ほどの長さの枝を一本、朝食用に確保した。こちらは朝考えていた食料を増やす魔術の試作品だ。


 片足編めたので一段落。そろそろ寝るかと立ち上がる。流石に朝からずっとマナを使い続けていたので限界かもしれない。まあ、この気分の悪さは飢餓状態であるのが主要因かもしれないが。


 厩に戻る途中ふと思い出す。

 ニセソがまだ召喚したままなのでカードを見ると、外側の後光が一つ消えていた。


 日の出前から日没後までなので、およそ半日を過ぎたぐらい。植物なのでマナの消費量がものすごく少なとか、あるかもしれないがまだわからない。


 テレパシーでおやすみと伝えると、起こすなと食い気味に返ってきた。

 うーん、邪険に扱われてしまった。あれ、自分って使役者じゃないの?


 寝床に戻る。

 赤外線視で危なげなく自分の寝床に戻り、新しい干し草を敷いて横になる。


 明日は今日とほぼ同じ行動をとる。水を温めてあげて、食事を渡して、安眠してもらう。そして少年と沢山コミュニケーションをとっていきたい。


 今日の会話で年齢もわかったし、年下だったので同じ距離感で大丈夫だろう。

 できれば友人と呼べるくらいには仲良くなりたいが、流石にそこまで他人を信頼できないだろう。


 ゆっくり信頼を築いていこうと思う。


 ああ、それにしても疲れた。

 やっぱり栄養が足りていないからか、疲れやすくなっている。

 ビタミンB群を合成しつつ、疲労回復用にタウリンも微量増やして寝ることにした。


 こういう体内の化合物を増やし過ぎると致死量を超えるかもしれないので気をつけなきゃなぁ、と思っている間に眠っていた。

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