表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/30

第一章 再びこの世界で生きるという事 一章21 鎖を纏う者

 少年を起こさないようにこっそり厩を抜け出す。

 詰所に行って人の良さそうな兵士が見張りをしていたので、宝石を探したいと申告した。


「宝石? ここじゃ出たことあったか?」

「許可を求む」

「せっかくの休みだろ? あるかどうかも分からない物に一日を費やすつもりか。……無駄になると思うんだがね。まあいい、許可する。うるさくするなよ」

「おうよ」


 と、まあ剣闘士言葉というか、全く教育がなっていないガサツな自分の言葉に嫌な顔一つしないお人好しの兵士。聖人君子かな?


 さて、そんなこんなで何か所かあるクズ石捨て場を探索する。

 地面には油の流れ出たような跡がいくつもある。石炭に含まれる石油成分が流れ出たのだ。


 これも手に触れて代償にすると回収できた。容器に余裕があったらぜひ欲しいところだが、石炭の方が鈍器として使えるので思い直す。いかんな、前世が石油製品に偏重していたせいでどうも執着してしまう。

 そんなどうでもいいことを考えながら宝座を埋めていく。石炭クズが泥炭のようになっている部分も回収できた。


 あちこちに纏まってあるので、あっという間に代償はフルゲージまで溜まった。宝座も蛍光グリーンになってピカピカしている。


 さて、宝石探しと言ったがその内実は化石探しだ。

 石クズに紛れて何らかの化石が見つかると目論んでいる。


 海没した植物化石群の地層なので、海の生物と陸の生物が混ざって見つかるはずなのだ。もしかするとサンゴなども見つかるかもしれない。



 気合を入れて探していると、煌めく石片を見つけた。

 黒いので石炭の破片かと思ったが、よくよく見ると強い光沢がある。


 菱形と楔が合わさったような数ミリ大のそれは、現生魚類でも古代魚とされるグループの鱗によく似ている。

 母岩が近くにあるはずと見て探すと、松毬マツボックリを平べったくした様相の化石が見つかった。


 残念ながら半身だけしか見つからなかったが、胸鰭と頭部、そして胴体と背鰭の一部が残っていたので魚類で間違いないだろう。

「初の脊椎動物の化石だ……す、すげぇ本当にあるんだ!」


 実はめちゃくちゃ驚いている。なんせ植物化石と違って動物化石(貝やサンゴ、微小節足動物などを除く)は非常に少ないのだ。


 興奮を抑えて、早速触媒にして召喚すると、クラヴス同様宝座が5つも暗くなった。

 やはり食性や生息環境の違う動物を召喚する場合、異なる代償では消費量も増えるようだ。


 そして海中の幻影が始まる。今回は魚竜や偽竜(海生爬虫類の一種)もチラリと視界に映った。


 もうもうと水中が土砂で煙り、圧迫感と体側面への衝撃、胴体が消えたかのような喪失感を感じたところで現実にピントが合う。


 目の前にはクラヴス同様、水の珠に収まった体長30cmほど、全体が黒褐色の魚の姿があった。

 カードに記されたその名はキャテナギール・イクティス……鎖を纏う魚と言ったところか。


 全身をガノイン鱗と呼ばれるエナメル質が発達した(魚の鱗は、歯のような構造のガノイン(硬鱗質)、デンティン(象牙質)、イソペディン、骨質などで構成されている)硬質な鱗に覆われている。


 菱形の鱗が連なるその姿がチェインメイルを着ているかのように見える。どうやらこの見た目が名前に反映されたようだ。


 流線型の体に、鋭い胸鰭を持ち、背鰭や尾鰭も鋭く尖っている。実に攻撃的な見た目だ。

 色は全体が黒褐色で、灰白色の斑模様になっている。


 腹部もガノイン鱗に覆われているが、動きは俊敏かつ鋭角。

 スキルを確認すると水域操作、硬化、精神感応の三つを持っていた。


 硬化――文字通り解釈するならば、鱗など体組織を硬くするスキルだろうか。

 まだ初期ステータスなので何とも言えないが、初期スキルに攻撃系のものがないので、防御特化型の召喚獣なのかもしれない。


 こうして、新たな召喚獣を手に入れた自分は、夕飯の時間まで探索と代償の収集を行った。

 しかし、現実はそんなに甘くはなく、追加の動物化石は得られなかった。



 夕飯の時間がやって来た。かまどに火が入れられ、いつもの麦粥と干しブドウが出された。

「おにいさんは、食べないの?」


 今日も麦粥を半分渡そうとしたところ、少年がぽつりと呟いた。

 困ったように眉を下げている表情は、いつもの凛とした鋭い眼つきが、年相応の幼さになる。


「心配すんな。少年は体力を戻すことだけ考えてくれ」


 本来ならば、日の出と共に出発すると日の入りごろに到着する村を目指すのだが、今回は行き先をかく乱するために逆方向へ一旦進み、そこから街道を避けて迂回し、川沿いを北上する予定だ。


 よって、キャラバンが滞在する北の村までおおよそ二日と見積もっている。

 自分一人なら深夜でも歩き続けるが、少年は日の入り後には眠ってしまうだろうから、潜伏と移動を繰り返すことになる。


 そもそも少年の道案内を頼りにするので、少年が眠ってしまうと様々な面で粗が出てしまう。

 例えば、空間認識能力が高い少年は、人の視界が感覚でわかるらしく、遠くからでも視認されない進路を導き出せるとのこと。


 当然、道無き道を進むこともあり、方向感覚や周辺の景色を覚えるセンスがなければ、確実に迷ってしまう。


 今回の逃避行は少年がいてこそ成り立つと言っても過言ではなく、自分はそれを護衛するだけの存在だ。


「道中の飯は俺が用意するが、口に合うかわからん。今のうちに食い溜めてくれたらいい」


 そういうと、少し考えてから少年はにこりと笑った。


「おにいさんの作ったお料理、たのしみ」

 少し照れ臭くなって、少年の頭を乱暴に撫でまわすことにした。


 水場で食器を洗っていたところ、いつもの人の良さそうな兵士が声をかけてきた。

「どうだ、宝石おたからは見つかったか?」


 口角が上がって歯が見えている。どうやら分かり切った答えを期待しているようだ。

 そのニヤケ面にどう返そうかと考え、はたと思いつく。


 おもむろにヒョウタンケースに挟み込んでいた、乳白色の濁った石片を出して見せる。

 兵士はきょとんとするも、直ぐに石片に近寄って目を眇め、はぁ、と露骨に溜息を吐いた。


燧石ひうちいしかよ。いや、価値がないわけじゃないが、幸を拾ったとは言わないな」


 一応期待はしていたのか? まあ、横取りしようと企んでいたのかもしれないが。


「もし俺が宝石を拾っていたら、どうする?」

「あん? そんときゃ兵士一同で祝い酒でも振舞ってやらぁ。鉱山で宝石を拾った奴らには、幸を分けてもらうためにはなむけをやるのが仕来しきたりだからな」


 要するに、さっさと売っ払って倍返しに来いってことらしい。


 兵士は市民権や身分が約束されているから、宝石を売って得た金が税金として大方が引かれてしまう。

 宝石は身分も後ろ盾も無い人間が、運だけで市民権を得られる手っ取り早い手段の一つだ。


 もちろん宝石の価値は流行や希少性、加工技術のある国か否か等で左右されるため、一括りにはできないのだが――無一文の奴隷にとって、宝石の原石は文字通り宝の石なのだ。


「ま、いずれ良いことがあるだろう。それに最近、なんかお前だけ元気そうだしな。持病でも治ったか?」

「さあな」


 そんなことはあり得ないのだが、なんだかんだで神もいるし魔術もある世界なので、深くは考えない人間も多い。


 兵士は、まあいいや、と心底どうでもよさそうに呟くと、欠伸をしながら去って行った。

 ここはそういう場所なのだ。最底辺とは一考の余地もないほど、どうでもいい世界なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ