第一章 再びこの世界で生きるという事 一章15 情報収集は基本
朝食を貰いに列に並ぶ。少年はまだこちらを気にする素振りを見せていたが、今日も麦粥を半分渡すとやっと力んでいた肩を下げていた。
まあ、信頼関係が初期も初期なので、ちょっとしたミスで待遇が変わったりする現場で働いていたら脅えもするだろう。
今日で四日目だ。草鞋も完成したので次は旅食作りだ。新しく仲間に加わった召喚獣の能力も確認しておきたい。
少年の体力も日に日に回復しているし、自分も魔術で体調管理をしている。
周囲との軋轢は今までより少ないが、不安要素は多分にある。
警邏の兵士の評価をもう一段階ほど上げておきたい。
やはりお涙頂戴作戦だなと考え、口の中の麦粥を飲み込んだ。
後は、警邏の兵士の配備場所が知りたい。そんなことを知っている情報通がいたら苦労はしないのだが……そうだ、と思いつく。
兵士たちの詰所にスパイを送り込もう。
ニセソなら距離があってもテレパシーで交信できる。植物なので余程目立つ場所に無い限り怪しまれることもないだろう。
人間のように目が無いので視覚情報は集められないが、圧力や音、風の動きなどは植物でもある程度わかるはずだ。確か前世の科学雑誌だったかにそんなことが書かれていたなと思い出す。
何か色々隠し要素がありそうだなと思いつつ、とりあえずおいおい調べていけばいいやとこの話しを置いておく。
ニセソを中心に、植物型召喚獣たちに兵士たちの情報を収集してもらうことにした。
詰所の周りをうろつく訳にはいかないので、人の良さそうな兵士に会いに来たという体裁で接近する。
日除けの呪いを今日も使いたいと言う申告だ。向こうが申告しろと言ったのだからなにも後ろめたいことはない。
一人で正面の見張りをしている兵士に用件を伝えると、一瞬嫌そうな顔をする。
まあ、向こうも朝食中だろうからなあ。見張りが一人なのも、奴隷たちが大人しく飯を食っているのを知っているからだ。
追い返そうと思えば追い返せるだろうが、向こうは申告に来いと言った手前、義務を果たさなくてはならない。
一旦扉の向こうに消えた兵士を見送ると、周りをさっと見回す。兵士は炊事場に二人だけ。なんと不用心か。
カードを三枚引き抜く、屋根の上、窓の側、扉から少し離れた場所の地面を目標にして、すかさず召喚術式を行使する。
平屋根の上にニセソが生えた。サイズは前回の盆栽サイズよりも小さい。どうやらある程度のサイズ変更ができるようだ。
まあ、受肉させるのに自分のマナも含まれているので、意思に従うのも当然と言えば当然か。
窓の側には日影を好みそうなシダを選択し、扉から少し離れた場所には葉っぱが目立たない、アスパラガスのような姿のトクサを生やす。
ちなみにトクサは地下茎を伸ばしているので地上部を引き抜かれても損壊は少ないらしい。
なお、シダとトクサを召喚した時に水の底に沈む幻覚を見たが、二度目ともなると身構えていられたので精神的なダメージは少なかった。
召喚と同時にアドバイスという名の一方的なマウントをとってきたニセソを軽くあしらう。頼もしくもあり、お節介でもあるこの植物。着々とツンデレ幼なじみポジションを狙ってくる強かさを感じる。
精神感応レベルの低い植物たちは、一度情報をニセソに集約させ、それをニセソが中継してくれる。
植物ネットワークの試運転だ。でもその基地局が性格に難があるので不安しかないが。
『ちゃんとしろよニセソ』
『言われなくてもするし』
拗ねた感じで返事が来る。
なぜちょっとしおらしいんだろうか。調子が狂わされる。
『お、おう、頼りにしてる』
一応フォローを入れる。なぜ植物にフォローを入れているんだろうか、意味不明だ。
「おう、お前か」
人の良さそうな兵士が扉から顔を出す。
日除けの呪いを使う許可を取りに来たと言ったら、すんなり了承を得られた。
「仲間には伝えておく。それにしても一昨日は驚いたぞ。急に骸骨が出たっつって後輩が詰所に飛び込んできたんだからな」
おかげで後輩はお笑い種だよと、兵士はくつくつ笑っている。
「他に何ができるんだ? オオカミに変身するとか、カラスに変身するとかできるのかい?」
完全に面白動物枠に入れられてしまったようだ。
「いや、できんぞそんなこと」
「そうなのか? でも手先は器用なんだろう?」
そう言うと自分の足を指差してくる。
「手芸が上手いんだな。それでオオカミの尻尾やカラスの羽根を作ってみるといいんじゃないか。きっと後輩が腰を抜かす」
かっかっかと笑って人の良さそうな兵士は扉の中に消えていった。
人を弄るのが好きな性分らしい。
『あんたのオオカミ尻尾姿見せてよ』
そんなメッセージがニセソから飛んできたので、ちゃんと働いたら見せてやると言ってやったら黙ってしまった。
ボケたんだからツッコんでくれませんかね……。
さあ、お仕事だ。少年からチラチラと視線が向けられている。
「少年も日除けの呪いしとくか?」
「いえ……結構です」
えー、涼しいのに。
「少年は暑くないのか」
くたっとした茶色の髪が汗で額にくっついている。
「暑い、です」
「なら、少年も白く塗らないか?」
少年の肌は茶褐色なので日差しが暑いだろうに。断じて肌の色で差別をしているわけではない。
こちらを見る少年の眼差しが、憐憫の色を湛える。
あっ、やっべ。鏡とかないから今の自分がどれほど滑稽か分かってなかったわ。
「すまん、もう訊かないからその目を止めてくれ」
その後、生化学魔術で脳内のセロトニン量をガン上げして心を無にした。
今日めっちゃ寝られるわ。(セロトニンからメラトニンが作られる。メラトニンは睡眠ホルモンと呼ばれる)




