第一章 再びこの世界で生きるという事 一章14 身内に敵がいたら
なんやかんやあったが夕飯の時間がやってきた。
水場でこれ見よがしに手を洗う自分と、その隣(上流側)で深皿に水を汲んで、魔術で温めてもらうのを待っている少年。
心なしか視線が生暖かい。人前で股間触るのって小さい子がやることだもんなぁ……。
ガチへこみしている所にニセソからも、なんで他の植物増やしたの? 私じゃ不満? ねぇ、理由を教えてよ。と、ドスの効いたテレパシーが飛んできた。
え、こわ。なんでこの植物独占欲高めなの?
少年の深皿を受け取り、いつものように白湯にして返す。
今日も暑かったのでちょっとぬるめにした。体温と同じくらいがいいので。
その間、ニセソにそろそろマナ切れだけど異常はないか訊いてみる。
話しを逸らされて怒るかもと思ったが、意外にも怒られなかった。
ふーん、ちゃんと見てるじゃん。となぜか上からくる。
うっす。あざっす。
『こっちにも慣れたから、代償は前回の半分でいいよ――だからと言って他のコ出さないでよね』
理由を訊くと、召喚獣は長く現界させていると、自らを現代の環境に合わせて調整し、受肉に掛かる代償を削減できるのだとか。
その際、本来不要である食事を摂ったり、睡眠をすることで生き物としての定義、謂わば経験値が溜まっていくとのこと。
だから初日より流暢なテレパシーを送ってくるようになったんだなと納得する。
カードを見ると精神感応のレベルが2に上がっていた。
さらに召喚獣の名前の横にある100.000%という表記が200.000%になっていた。どうやらこれは受肉率や情報確度も含めた、存在確度であった。
存在確度についてニセソに訊いてみると、ちゃんと生き物として存在していますよ。世界に認められていますよ、という事らしい。
あれかな、量子力学かな? 観測されて初めて現象や存在が確定するって言う。
三日でそこまで増えるのだろうかと思ったが、この地がそもそも彼らの墓場、情報が眠る土地だ。代償の上に根を生やしていたようなものだ。
丸三日、植物として生活し、召喚獣として主人とふれあい(?)を続けたことも経験値となったそうだ。
ちなみに精神感応lv2の効果は、情報量増加と交信距離延長だった。
交信距離が延長した結果、炭鉱内ではどこでも交信が可能となった。
しかしそれが弊害となった。ネットストーカーに粘着されているみたいに一方的なチャットが脳内に流れ続ける。召喚者を精神的に苦しめる召喚獣とかなんだよ。病みそう。
そしてLV3になったらカード化してても交信できるようになりそう、と心なしか嬉しそうに告げられた。
止めてくれニセソ、その攻撃は俺に効く。
そして気になっていたことの一つ、語彙がなぜ豊富なのか訊いてみると、知識や知能は召喚者に依存しているのだとか。
伝えたい言葉を勝手に召喚者が翻訳している、という事らしい。自分の脳を勝手に使われている気分だぜ。テンション下がるなァ!
こうして夕食を貰っている間も、少年と一緒に無言でもぐもぐしている間も、流暢に一方的な会話を楽しむニセソに脳を直接攻撃され続けた俺は、寝床で少年に膝枕をしてやりながら草鞋を編んでいた。
きっと無意識に癒しを求めたのだろう。すまんな少年。同性のガリガリな膝で我慢してくれ。もちろん少年は既に夢の中だった。
朝。気が付いたら払暁が迫っていた。
完全に寝過ごした。本当は真夜中にアンモナイトと思われる古生物を召喚するつもりだったのに。
まさか身内の中に敵がいるとは思わなかった。昨晩は少年用の草鞋を作っている間中、ニセソから絨毯爆撃並みの質問攻めにあい、いつの間にか精神攻撃に変わっていた時には気絶寸前だった。
気絶したんだが。
で、今は少年にがっしりしがみ付かれた状態で寝ている。膝枕をしていたので同じ寝床にいたとはいえ、まさかここまで距離が近くなるとは。
まあ、朝は寒いもんなぁ。無意識に温もりを求めるのは友好度云々ではなく仕方のないことだ。
このままだと水場にも行けないので少年を起こすことにした。
どうせ水場で顔洗ったり白湯を飲んでる間に朝食が始まるのだ。寝坊するよりも早起きして体を解しておいた方がいい。
寝起きの少年に新しく作った草鞋を履かせて、水場へ向かう。
まだ寝ぼけているのか自分の横っ腹に腕を回して引っ付いて歩くので歩きづらい。
四日目にしてものすごい距離が近付いたことに喜ぶべきなのか、それともこの飼い馴らされた子犬のような無警戒さを心配するべきなのか。
白湯を飲ませている間にカードをチェックする。
ニセソの後光は完全に消えていて、さらに再召喚可能という文字が名前の下に表示されている。
まあ、しばらく召喚する気がないのだが。代償のストックもやや心許ない。
仕事中に勝手に貯まっていくのだが、半分しかないので先ずは最大まで貯めることにする。
白湯を飲んで顔を洗った少年はちょっとシャキッとしている。どことなく動きがぎこちない。
「あ、あのあの、昨晩はその……ごめんなさい」
「少年が謝るこたーねぇよ。すまんな、俺も疲れてたみたいで少年の寝床で寝ちまって」
「いえっ! ……いえボクの方こそ、えっと、何か粗相とか、あの、してないかなって……」
喋っているうちにどんどん縮こまっていく少年に、殴られたり蹴られたり頭突きされたりとかは無かったから安心しろ、と言っておく。
寝相の悪い奴は夢の中で何かとバトルしてるからな。剣奴時代、宿舎にそんな奴が結構いたのを思い出す。
急に名乗りを上げたり、寝具を蹴り飛ばしたり、おもむろに走り去って壁にぶつかって盛大にぶっ倒れたりした奴らの顔を生涯忘れることはないだろう。
さて、何時もの朝食を食べたら仕事の時間だ。追加の化石が出ることを願って、なにかの骨でできた鶴嘴を岩盤に突き刺した。




