第一章 再びこの世界で生きるという事 一章13 ハズレ
翌日、日の出前に起床した。
周りは寝静まっている。今朝もいつも通りやや冷えるので、少年に暖気をふわりとかける。
水場に行き白湯を一杯。朝はこれだ。
召喚獣第一号のニセソにも暖気をかけてやる。今日は気が利くじゃないと言われた。こいつーーーーー^^
後光は残り一重になっている。今晩あたりで最初の召喚分を使い切るのか。いろいろとどうなるのか気になる。
さて、朝食までクズ石捨て場を探索する。
無数に転がっている石の表面を見ていく。いくつか団塊の特徴に合致する岩石が見つかった。
団塊の中には、時に化石が含まれていることがある。
割って調べたいが、早朝だし破砕音がうるさ過ぎるのでできない。そもそも無断でうろついているのでバレたら今度はただでは済まされないかもしれない。
割るのは諦めて、団塊を自分と少年がいつも働いている場所に運び込んでおく。
さらに探すも、残念ながら見つかるのは植物片だけだった。
一応召喚術の触媒として使い、各植物化石に黄緑色に輝く一等星一つ分の代償を供給してみる。
今回はカード化した状態で召喚をキャンセルしてみたところ、上手くいった。
そして新たに手に入れた召喚獣のカードを見る。シダ、イチョウ、ソテツ、トクサと三畳紀末からジュラ紀黎明期くらいの植物相が勢揃いした。
と言ってもシダ類が5種、イチョウ類2種、ソテツとトクサが1種ずつだ。もちろん召喚できたという事は全て絶滅種なのだろう。まあ、当然か。
計8種の召喚獣(植物)を揃えたため、コツコツ貯めた代償が一等星二つ分になってしまった。
ここまで動物化石を発見できていないので、少し焦れる。
地球であれば三畳紀からジュラ紀には、大型爬虫類の翼竜や多様化した恐竜たちがいた時代だ。海には魚竜や首長竜もいる。
異世界ではどうだったのだろうか。とても気になる。
残念ながらその姿は未だに望めないのだが。
焦っても仕方が無いので一息つく。そろそろいい時間だ。白湯を飲んで寝床に戻る。
それにしてもこのままカードが増えていくと嵩張ってしょうがない。現状カバンや袋など持っていないので、収納スペースに限界がある。
せめて召喚獣のカードが小さくならないかなと念じたところ、サイズが半分くらいになった。
それから、重ねて念じたら磁石のようにくっ付いた。これなら今の枚数であれば腰巻の内側にしまっておいても目立たないだろう。
これもジョブスキルの一種なのだろうか……謎だ。
空が白み始めるころには、少年用の草鞋の片足が完成した。うん、順調だ。手先も鈍っていない。
製作を続けようとしたところ、視線を感じてふと顔を上げる。
そこには寝起きで不機嫌そうな警邏の兵士が、ということはなく、少年がじっとこちらを見ていた。
周りはまだ寝ているので手を挙げて挨拶すると、少年もおずおずと控えめに手を挙げて挨拶を返してくれた。
交流三日目にもなるとそこそこ打ち解けるものだなと、しみじみ思う。
折角なので草鞋の編み方を教えてみる。
「作ってみるか?」
周りはまだ寝ているので小声で聞いてみると、少年はこくりと肯いた。
編み方を教えるため少年の隣に移動する。胡坐をかいて、材料と見本の草鞋を手渡す。
それから編み方の基本を見せて、続きを促す。
分からない所は手を添えてそっと誘導する。
最初は手の動きがぎこちなかったが、しばらくすると慣れてきたのか一人でもすいすいと編んでいた。
手先が器用なのかもしれない。
白湯を渡すと、おずおずと受け取ってゆっくり飲み干していた。小さな喉がこくこくと動く。
まだ喉仏が出てないんだなとぼんやり思う。
少年の声、か細いもんなあ。
しばらく無言で少年の作業風景を眺めていると、薪を燃やした時の独特の臭いが漂う。
朝飯の時間だ。
配膳を受け取って定位置へ移動する。岩石を背もたれにして地べたに腰かける。ここが一番落ち着くのだ。
麦粥をまた半分渡し、よく噛んで少しずつ食べることを推奨する。
昨日と違って掻き込まなくなったが、やっぱり飲み込むのが早い。お腹が空いているのだろう。
なお、副菜は干しブドウだった。前世と違いやや渋みのある品種のブドウだったようで、少年は顔を顰めていた。ハズレに当たる時もある。
さて、今日もほどほどに働くか。
兵士の目を盗んで、動物化石が入っているかもしれない団塊を偶に割りつつ、なかなか出てこないのに焦れながら採掘していた時のこと。
石炭の間からごろりと黒々とした拳大の丸い石が落ちた。
それは太い溝が放射状に並ぶ渦巻状の丸い石だった。――アンモナイトの化石だった。
さっと視線を周囲に向ける。
巡回している兵士がこちらを見ている。
遠目から見ると黒いので、石炭だと勘違いするかもしれない。
このサイズだとクズ石に紛れ込ませるのも難しいか。
かといってカード化する工程を見せるのは、リスクか。見間違いだと誤魔化せるかもしれないが、昨日の様子から確実に突っかかってくるのは予想に難くない。
よし、採掘を続けて一旦掘り出した物の下に隠してしまおう。
「少年、ここの石は俺が片づけるから、触らなくていいぞ」
隣でコツコツ鉱脈を叩いていた少年は、チラリとこちらを見てこくりと肯いた。
了承を得られたので、またコツコツと鶴嘴で石炭を剥がし取る作業を続ける。
あの兵士、早くどこかに行かないかな。
しばらく無言で岩石を割り、石炭を掘り出す。
まさか石炭の間にアンモナイトが挟まっているとは思わなかった。
あのニセソを召喚した時に見えた映像が、この石炭鉱脈が産まれた理由を示唆するものであるとするならば、土石流が海まで流れていき、同じく流された樹木の間にこのアンモナイトは閉じ込められたのだろう。
ハズレに当たることもある。自分にとっては大当たりだが。
それにしても、余程のことが起きたんだなと、当時に想いを馳せた。
程なく、兵士は別の場所へ移動した。他の兵士がやってくる前に掘り出した石炭の山を崩す。
「確かこの辺りに……お、これだ」
掴んで引き出す。
もう一度周囲を伺い、問題なかったのでカード化する。
その際、宝座に填まっていた黄緑色の一等星が五つも消費された。
ほとんどが珪化木と石炭由来の代償だからか、海棲生物を召喚するリソースとして、情報やマナの相性が少し悪かったのかもしれない。もちろんこの異世界のアンモナイトは陸生だったかもしれないのだが、おそらくそれは否定された、でいいのだろう。
まあ、海と山林は河川で繋がっているものだし、多少迂遠であっても関係しているものだ。
山に降った雨水が森林を通り、森林で作られた栄養素が川に流れて海に運ばれるのだから、樹木と海棲生物は切っても切り離せないのである。
なに? カンブリア紀? カンブリア紀はしらん。熱水噴出孔だとかストロマトライトがなんかやらかしたのだろう。
さて、カード化できたのでさっと腰巻の下に隠す。が、少年にその様子を見られていた。
視線を合わせると少年は眉根を寄せて、ばつが悪そうに目を逸らされた。
「あの……おまたが痒いのですか?」
どうやら、チンポジでも直したと思われたのかもしれん。
「痒くはないぞ。……下帯を締めすぎて苦しかったから、緩めただけだ」
「あんまり触っちゃダメって、おかあさんが言ってました」
どうやら信じて貰えなかったらしい。
「少年のおっかさんがいうなら、気を付けよう」
少年は満足そうにうんうんと肯いた。
誤魔化す必要はないが、説明が難しいので夜に誤解を解こうと思った。いややっぱり今すぐ解こう。
「いや違うからな少年。本当に触ってないからな、あっちょっと全然聞いてない、言い訳じゃないから本当に。ちょっと今わかってますよハイハイみたいな顔したよな少年! 本当に違うんだって! 信じて、信じてくれ本当に違うんだってぇッ!!」




