新たな洞窟 その3
新たに見つかった洞窟のおかげで街には冒険者や剣士らが大勢やってきたが、一般市民の関心は人が増えて好調な商売のことばかりで洞窟に興味はないようだった。ところが、今回見つかったゴブリンの骨と戦いの痕跡は市民の関心を大いにひいた。白兎亭の食堂でもその話題で持ち切りだし、それは通りや街の広場でも同様だ。
ここまで話題になったのには、エルナが関係している。
ギースとエドガルと私がその大発見をしたわけだが、その話を聞きつけたエルナが取材とやらで私たちに話を聞きに来たのだ。インタビューというらしい。私やエドガルもいろいろと話したのだが、ギースの話は多少大げさだったがそれが良かったのかギースのインタビュー記事が載った瓦版は大いに売れたのだ。
この大発見により我々3人は報奨金をもらい、特にギースは上機嫌だ。彼がこの仕事で得られると考えていたよりも10倍以上を稼げたのだそうだ。
私たちが見つけた横穴は今は立ち入り禁止になっていて、調査団を結成し調査することになった。調査団には発見者の我々3人も誘われたのだが、ギースは収穫祭に向けて十分な金を稼いだということで断った。発見者としては私とエドガルが参加することになっていたのだが、エルナの説得でギースも結局参加することになった。最初のインタビュー記事の評判が良かったからに違いない。
そうそう、洞窟の調査で隊長を務めていたカイも参加するそうだ。
前回の調査団、カイが隊長だった調査団は剣士や射手、魔法使いの集団だったが、今回はちょっと様子が違う。
剣士はカイと射手が一人と少ないのも意外だが、僧侶とかいう男らが3人参加している。頭を覆う布のついた暗い色のマントのような服を着ていて、小さな声でしゃべる不愛想な連中だ。僧侶というのは聖職者のようなものだという。聖職者というとメルノラがそうだったが、彼女は派手な服装でよくしゃべったが、こいつらはその正反対だ。
で、この僧侶には護衛のようなやつらが5人ついている。剣士に見えるがこのあたりでは見かけない格好をしている。僧侶と同じようなマントを付けていて、こいつらもあまりしゃべらない。
「あの紋章は、ハリエル騎士団ですね。初めてみましたよ。多分ライゼルから来たのでしょう」
見慣れない連中を見ている私に気づいたエドガルがいう。
「剣士なのか?」
「まあ、剣士ですけど、ザグリエル教会の僧侶とかの護衛が任務ですね。昔は異教徒殲滅とかの戦いをしていたという話ですけど、たしかもう100年以上前の話だったと思いますよ」
異教徒殲滅? 聞いたことのない言葉だが、戦いに関する言葉だろうか。
「ハリエル騎士団は我が家に来たことがある。ヴァンストレーム領にもザグリエル教会があるのでな。まだ私が子供ころの話だが、その時も不愛想で不気味な連中という印象だったな」
これはカイ。確か、彼の父親はどこかの領主とかだったか。
「昔から不愛想ということですね」
エドガルが肩をすくめる。
不愛想な連中が8人もいるからか、調査団全体が無口だ。いや、ギースだけは上機嫌で調査団の隊長、ギルド本部の何とかっていう人間の女にいろいろと説明している。
目的地の洞窟には狭い横穴を通り抜ける必要があるわけだが、僧侶が横穴を通る際には護衛の剣士らが長い布を横穴に敷いてから僧侶が通るようにしている。服が汚れないようにしているのだろうが、僧侶が全員通ると布はかたずけられた。他の人間に布を使われたくないのか。変なやつらだ。この無口で不愛想な連中についてもぜひ記事を書いてもらいたい。
ようやく縦穴に到着。我々が設置した縄梯子は外されているようだ。穴にかかっていた橋にまだ下に降りるための籠もないようだ。誰も入れないようにしているのだろう。ということで新たに縄梯子がかけられ、護衛のやつらが2人先に降りて行った。腰に紐が巻き付けられた僧侶が続いて縄梯子を下りていく。残された我々が続いて降りていくと、最初に骨を見つけたところに僧侶らはおらず、先に進んだようだ。
ここで骨を見つけた際に少し奥に進んでみたのだが、洞窟は長そうに見えたので、まずはこの骨を報告するのが良いだろうということで、先には進まなかったのだ。
後ろから見ていると、僧侶は何か本のようなものを手にしている。時々立ち止まっては何か指示をしているので、もしかしたら地図なのかもしれない。
「せっかくここで骨を見つけた時の話をしてやろうと思ってたのにな。先に進まれたんじゃあ、知ってることは何もねえ」
ギースが不満そうだ。
確かに。発見者の我々がここに来た意味はなさそうに思える。
「そうですね。まあ、依頼はギルド本部ですから、僧侶らがどう動くかまでは知らなかったのでしょう」
エドガルがそういいながら顎で指し示しているのは、僧侶らの集団の近くにいるギルド本部の人間だ。人間は何かを示すときには手を使う。正確には手を握って人差し指だけを立てるのだが、時々顎を動かすことがある。最初は何をしているかわからなかったのだが、何度か見るうちに指の代わりに顎を使っていることに気づいた。
「何か知ってそうですね、あの僧侶たちは」
僧侶らの様子をみたエドガルがいう。
「確かにな。地図でも見ながら進んでるような感じだな」
カイも同意する。
知っているというのはどういうことだろう。この洞窟を見つけたのは、ギース、エドガルと私が最初ではないのか。
しばらく洞窟を進む。いくつか分岐しているところもあったが、迷うことなく先に進む。
時折出てくる大サソリは、例の騎士団が対処するので我々の出番は全くない。彼らは二人組で戦うことに慣れているようだ。一人が相手の気を引いて隙ができたところにもう一人が切り込む、という感じか。まあ、剣士としての腕が良いことは認めよう。
何もすることなくただ歩いているだけだったが、目的に到着したのか一行の動きがとまる。
何か見つかったのかと思い前の方に移動する。
「行き止まりか? 道を知ってるんじゃないのか?」
これはギース。
「これは、人為的に積まれたものですね」
エドガルがいう。
「そうだな。洞窟が崩れたという感じではないな。石が積み上げられている」
カイが行き止まりになっているところの大きな石に手をかける。
僧侶らの集団は手に持った本を見ながら話しているが、声が小さいので何をしゃべっているのかはさっぱりわからない。
見ていると、元来た洞窟を引き返し始める。彼らは無言だが、一緒についていた我々の中には不満を口にしている者もいる。
洞窟の分岐しているところまで戻ると、違う方の洞窟に入る。
「なんだ、道を間違えてたのか? いい加減な地図だな」
ギースが不満そうだ。僧侶らにも聞こえたと思うが、何も反応はない。
洞窟をしばらく進むと、動きが泊まる。また行き止まりのようだ。
「おいおい、また行き止まりか?」
ギースが不満そうだ。
僧侶らの集団が何かしゃべっているが、珍しく声が聞こえてきた。
「...位置が...」
行き止まりになっているところを指さしている。顎ではなく人差し指でだ。
「位置? 積み上げられた石の位置まで書かれているのか?」
これはカイ。ちょっと驚いているようだ。
「ということはつまり...」
エドガルがカイの方を見る。
「ああ、この閉鎖に彼らが関係しているということだな」
カイがちょっと小さい声でこたえる。
僧侶の一人が石が積み上げられているところに近づく。
しばらく眺めた後、騎士団の一人に何か声をかける。相変わらず声が小さいので何をいっているのかは分からない。
騎士団の男が地面近くの大きな石に足をかけて上に登り始める。
僧侶が指した石、天井付近の石に男が手をかけると、石が転げ落ちる。一緒に他の石も崩れ落ち、穴が出現する。小さい穴だが、人間でも腹ばいになれば通れるくらいの大きさはありそうだ。
「なんということだ...」
僧侶の声が聞こえる。どうやら驚いているようだ。
「なんか驚いてますね」
3人の僧侶が集まって何か話しているのを見るエドガル。
しばらくすると、騎士団の男が呼ばれて何か話している。こいつが騎士団の隊長だろうか。
隊長が別の騎士団の男を手招きする。さっき石をとった男だ。
その男が再度積まれた石を登り始める。今度はあの穴に入るようだ。頭を穴に入れて奥の方を探った後、上半身を引き出すと隊長に向かって報告する。
「ちょっと先で細くなっていて、私では無理そうです」
「お、猫、出番だぞ」
ギースが私の方を見る。
ということで私が横穴に入ることになった。まあ、こういった時のために呼ばれたようなものだが。
横穴に入りちょっと進むと、確かにちょっと狭くなっている。さっきの男には通れないだろう。
横穴は洞窟の天井に沿って作られているが、狭くなっているところは左右の石が大きい。この石を動かすことができなかったのだろうか。
穴を通り抜けると、洞窟の反対側に出た。調べるように言われたのは、積まれた石の壁の向こう側までこの穴がつながっているのかどうかだ。
通り抜けることはできたので、そのように報告する。
「反対側の洞窟に降りた」
「わかりました」
エドガルの声が聞こえる。
こっちの洞窟も先は長いようで、持っている明かりでは先が見えない。
「先まで進んで見てきた方がいいのか?」
と聞いてみる。
返事がかえるまでしばらく待つ。
「戻ってきてください、とのことです」
では戻るとするか。
積み上げられた石を横穴まで登る。
洞窟の方で何か音がしたような気がしたので振り返る。
何かいる。明かりの光を反射する目がある。トカゲか? いや目の位置が高い。人間、にしては背が低い。私と同じくらいか。いや、緑色の肌の小さな人間のような感じだ。これはあの骨のやつ、ゴブリンじゃないか。




