久しぶりのダンジョン その3
全員岩陰に隠れ、壁を駆け降りてくる大トカゲの第一撃はどうにかかわすことができた。
魔法使いの火炎魔法のおかげで、その後も遠巻きに様子をうかがっているようだ。時々近づいてくる奴らは剣で撃退しているが、鱗が厚いのか剣は入ってないようにみえる。剣が当たるとトカゲは引き下がるので効果がないわけではないようだが。
「かてーな、このトカゲ」
「ああ、鱗が分厚い」
「くそっ!」
「このやろう!」
やはりこのあたりのトカゲの鱗は固いのか。小さいのでこれなら、あのでかいのはどうすればよいのだ。
「反撃食らったんで様子見してるって感じだな」
「ああ、どうやらこいつらは人間を見るのは初めてのようだな」
「こんなやつらがいるってことは、餌になるようなのもいっぱいいるんだろうな」
あれこれ話しながら、大きな岩の近くに集まってくる。
私は壁際の突き出た岩の上に乗って様子をうかがうことにする。地面にいたのでは、背の低い私ではあたりの様子がわからない。
「くるぞ!」
でかいトカゲが人間が集まっているところに突進してくる。
魔法使いが火炎魔法を放つ。大トカゲは炎をきらい壁を駆けのぼると、再度駆け下りてくる。魔法使いが再度火炎魔法を放とうとするが、小さいやつらが押し寄せて来たのに気を取られているようだ。
弓矢を持った奴も攻撃を始めるが、やはり小さいやつらが邪魔で慌てて岩陰に退避する。でかいやつが振り回すしっぽで何人もの人間が跳ね飛ばされている。ただ、弓矢が刺さっているところを見ると、武器が効かないということではなさそうだ。
「弱点は首回りと腹だ!」
誰かが叫ぶ。確かに矢が刺さっているのも首のあたりだ。
人間は、飛びかかってくる小さい方のトカゲを盾で押し返し、地面でひっくり返ったところを剣で刺している。これは、私にはできない戦法だ。私の体ではまともにぶつかると跳ね飛ばされてしまう。
こいつらの動きは速いが、私ほどではない。岩の窪みを超えようとするトカゲの腹を下から切りつけ、何匹かを倒すことができ、久しぶりに経験値とやらを獲得することができた。
でかい方のやつは頭には角があり牙も凶暴だ。後、振り回すしっぽも危険だ。尻尾の先には棘がついているように見える。体が大きい割に動きが速く壁を這うこともできるので厄介だ。
「二手に分かれる!」
カイが叫ぶ。
「エルザールの隊はこの小さいやつらを何とかしてくれ!」
「わかった!」
「我々は大物を狙う」
エルザールの指示で5人が足元に集中し、残りの5人が大物に注目する。
「こいつの頭に後ろから火炎魔法をぶつけてくれ」
カイが魔法使いに指示する。
「炎に驚いて頭を持ち上げたところで、正面から攻撃だ」
魔法使いが集団から離れ、岩陰に隠れながら後ろに回り込もうとする。
私も何か協力しなくてはな。剣は歯が立たないかもしれないが、動きの速さなら負けていない。
カイらは、魔法使いが後ろに回り込めるようトカゲの注意を引いている。
私も協力しよう。カイらのいるあたりで、岩の上や壁のでっぱりのあたりを飛び跳ねてみる。私に気づいたようだ。
一瞬トカゲの動きが止まった瞬間、魔法使いの火炎魔法がトカゲの後頭部に向かう。
炎に驚いたトカゲが頭を持ち上げる。
「今だ!」
カイが叫ぶのと同時に弓矢が飛び剣を持った男らがトカゲに向かって突進する。
矢が刺さり、腹に何本もの剣が突き刺さる。
「グギャーーー!」
転げまわるでかいトカゲ。そこに火炎魔法が襲い掛かり背中が燃え上がる。小さいほうのトカゲも炎から逃げていく。
「そいつから離れろ!」
剣士は慌てて岩陰に隠れる。倒れた男を引っ張っている奴もいる。
地面を転げまわるトカゲ。背中の火は消えたようだが、煙がものすごくてよく見ない。においもひどい。咳き込む音も聞こえてくる。
「くそっ、どこいった」
「見えねえ!」
攻撃を続けていた魔法使いと射手も相手が見えないので手を止めたようだ。
煙は上に登るので、低いところに降りることにする。しゃがむと煙の下にでる。さらに煙を避けるため窪みに入りあたりを見回す。小さいほうのトカゲは逃げてしまったようだ。でかいのも逃げたのだろうか、ずいぶん静かだ。
大きな岩に沿って曲がったところで、でかい足が見える。停止しているようだ。
「ここにいる!」
と叫んでみる。ここ、でわかればよいのだが。
「どこだ?」
声の感じからするとちょっと離れたところにいるようだ。
「こっちだ!」
再度叫ぶ。
「今行く!」
トカゲは人間の言葉を解するのかどうかは知らないが、巨大な足が動き出した。
大きな岩の上から音がしたので見上げると、でかいトカゲの頭が見える。岩に登ったようだ。
今いるところは首の真下だ。弱点の真下じゃないか。私の小さな剣が通用するかは分からないが、この機会を逃すわけにはいかない。
膝を曲げて力をこめ、剣を上向きに構えて思いっきり跳び上がる。
岩を乗り越えようとしていた巨大トカゲの首の下、胸のあたりに剣が突き刺さる。剣のガード、つまり剣の根元まで突き刺さったようだ。
「グッギャーーーーー!」
叫び声と共に上体が持ち上がる。剣の握りを持っていた私は、体ごと引っ張り上げられる。剣が抜けないので、このままでは振り回されてしまう。やむなく剣から手を放し地面に転がり落ちる。効果はあったようで大きな経験値を稼いだようだ。
「そこか!」
周りの人間も気づいたようだ。
矢が飛んでくる。剣を持った男らも突っ込んでくるが、でかいトカゲはあまり動いていないようだ。
「ちょっと待て!」
カイが叫ぶ。
攻撃が止むが、やはりトカゲは動いていない。
煙が少しずつ流れていくと様子がわかってきた。
でかいトカゲの胸のあたりに剣が突き刺さった状態で、腹を上にして斜面に倒れている。
「あの剣は、シイラ君の剣か?」
私を見つけたカイが質問する。
「ああ。大きな岩の下にいた時に真上を通り過ぎようとしていたので、思いっきり飛び上がりながら剣で刺したのだ」
「そいつがやったのか?」
「ほんとかよ」
「小さいのに大したもんだ」
「すげーな」
人間らはこの獲物を持って帰りたがったが、横穴が狭いので手足としっぽを切り取って運ぶことにしたようだ。私の剣も引き抜いてもらった。
例の縦穴は、魔法使いの明かりで照らしても底が見えず、装備もないので今回は降りるのをあきらめ報告だけにするようだ。
「今回のこの調査の成果は大きいですよ」
男がカイに向かっていう。
「そうだな。この空洞と縦穴、巨大トカゲの存在はみんなの関心を引くだろう」
「引くどころじゃないですよ」
「ああ。押し寄せてきますよ」
「俺もしばらくここに通うことにする」
あれこれ話す声が聞こえてくる。
「いや、大きな発見があった場合、本部の許可が下りるまでは全員には公開はされないんだ」
カイが説明を始める。
「今回は大発見なので、8層の横穴はいったん立ち入り禁止にして本部に報告することになる」
「閉鎖?」
「魔法使いが封印をすることになっている」
「すぐに公開されるはずだから、それまで武器の手入れでもしていてくれ」
ちょっと落胆するような声が聞こえてくる。
「大成果なので、報酬の件はきちんと交渉するから期待していてくれ」
「おお」
「頼みますよ、隊長!」
それから5層のキャンプに戻りリスタと合流。
トカゲとの闘いで装備や服が破れた人間が多数出たので、リスタの仕事も増えたようだ。
「へー、そんな大きなトカゲを仕留めたんなら、経験値もかなり獲得できたんじゃない?」
リスタが興味深そうだ。
以前教えてもらった、獲得した能力を確認する方法、手の親指と小指を重ね、人差し指、中指、薬指の三本の指を立てて、体の前で左から右に動かす。目の前に文字や四角い模様が現れる。
空間魔法を表す袋のような印の数字が変わっている。以前は確か2と表示されていたと思うが、今は35になっている。10倍以上か。
他の痛み耐性や跳躍力、攻撃力も大きく向上している。もしかして、人間の姿の方が経験値を得られるのだろうか。
「それくらいあるなら、たぶん服は収納できるよ」
リスタが驚いたような顔でいう。
「鎧や武器は無理だと思うけど、夏服上下と下着はいけると思うよ。帰ったら試してみようか」
猫の姿で服を収納して出かけることができるということか。そんな必要はなさそうな気もするが。
それと、剣士として活躍できそうな能力が向上したので、また機会があればダンジョン来ることにするか。新たな空洞も見つかったことだし。それにここは涼しい。白兎亭で寝そべるより、3層のキャンプで寝そべるのが良いかもしれない。




