同郷の人間? その2
綱浜絵流奈。
私と同じ世界からここにやってきた人間らしい。
元居たところは日本というところで、元同居人が何をやっていたのかも教えてもらった。猫動画、つまり私を撮影して動画共有サービスというものに投稿していたのだという。聞いたことのない言葉ばかりだが。
人間は猫のしぐさや行動を見るのが好きなのだそうで、そういう様子をカメラとやらで撮影というのをすると、四角い平面に表示させることができるのだそうだ。その映像は、遠く離れたところにいる大勢の人間が見ることができるそうで、その見られた回数に応じてお金をもらえるのだという。どの世界でも人間は金を得るためにいろんなことを考えるものだ。
「あ、シイラちゃん」
「やあ」
絵流奈の休憩時間、厨房で働いている人間が昼食を食べた後、夕食の準備が始まるまでの時間、このところ毎日人間の姿で話をしている。
私は元居たところで疑問に思っていたことを教えてもらい、私はこの世界のことで知っていることを教えている。
絵流奈は今はこの世界の人間と同じ服装を着ている。
ここに来た時の服しか持ってなくて困っていたので、リスタを紹介して作ってもらったのだ。お金については、リスタの提案で私が貸すことにした。貸すというのは、私の持ち物を一時的に他人に渡すことだという。お金の場合、全く同じものを返すのではなく、同じ金額を返せばよいのだそうだ。人間はいくつもの服や靴を持っていないと生活できないそうで、そのためにお金が必要になる。
「この世界のお金の価値がわかってきたよ」
「価値?」
「うん。例えば、ここの大部屋の家賃1日4シルバは格安で、食事は白兎亭だと2シルバで安い食事がとれるんだけど、日本でいうと、1シルバは100円か150円くらいかな。100円として、家賃は1日400円、一か月は数え方が違うみたいだけど、まあ30日だとして月12000円で朝食付きって感じ。安いようにも思うけど、大部屋のベッドだけにしては高いような気もするよね」
早口で一気にしゃべる絵流奈。お金の計算の話のようだ。
「元居たところではお金はもらってなかったので、高いかどうかはよくわからない」
ここでは何度かお金をもらったが、あまり使うこともないのでお金の計算もしないし。
「それとリスタさんに下着6日分と日常の服2着作ってもらって、後古い靴というかサンダルよね、を一足つけてもらって100シルバ、10000円くらいだけど、まあ、シイラちゃんのおかげでかなり安くしてもらったんだと思うんだ」
そういうと服をつまんで持ち上げる。街を歩いている人間の女が着ているような服だ。
「それと、ここは中世みたいな時代だから、人使い荒いね。ブラック企業だわ」
「聞いたことのない言葉だが」
「それに電気もガスも水道もないし、スマホもインターネットもテレビもないし、自動車とか電車もなくて、日本だと何百年も前の時代のような感じ。エアコンなしで夏とかどうすんだろ」
私の反応は気にせず話し続ける絵流奈。
「昼食の準備から夕食と夜の居酒屋みたいなので仕事して8シルバって、800円だし。1日働いて800円はないわー。家賃で400円取られたら1日400円しか貯まらないし。子供の小遣いかよって感じ」
そういうとため息をつく絵流奈。
「まあ昼と夜の食事はでるからその分が400円だとして1200円、長い休憩もあるから時給100円とかじゃないかな」
日本のお金と比べても白兎亭の給料は安いということか。白兎亭の宿泊費や食事も安いのだから問題ないように思うが。
「食事は3食あるから生きてはいけるけど、こんな給料で将来どうすんのって感じで途方に暮れるよね」
そういうと肩をすくめる。納得していないようだが、何が不満なのだろう。食事ができるならよさそうなものだが。
「周りの人間は途方にくれてはいなさそうだが」
私も特に困っていない。
「ここの人はこの世界しか知らないからねー。自転車操業みたいなその日暮らしは苦痛なわけよ」
よくわからない言い回しだ。
「さらには土日とか一週間とかの概念がなくて、休みは年に何度かあるだけだって。まあ、休みはわりと自由に取れるみたいだから5日働いて2日休もうと思ったけど、それだとお金貯まらないからしばらくは週休1日にするけどね」
そういうとため息をつく。
「愚痴っててもしょうがないよね。まずは週に6日働いて24シルバ貯まるから、とりあえず二週間働いて58シルバ、あ、1日休むから二週で2日8シルバ引いて54シルバか。あ、お風呂と洗濯もお金かかるんだった」
またため息をつく。
「風呂で洗濯すれば洗濯代はいらないと聞いたが」
「なるほど、そうする」
ちょっと明るい表情になる。
「ここの人はお風呂は3日に一回くらいしか入ってないみたいなんだけど、ちょっとそれは耐えられないから、毎日入ると一日に蓄えられるのは3シルバかあ」
毎日風呂に入るとか、よく耐えられるな。
「もう一度計算。6日働いて3かける6で18シルバ、1日休むからその日の宿泊代4シルバとお風呂で5シルバ引いて13シルバかあ。一週間働いて13シルバしか貯まらない」
またため息をついている。
「40シルバ貯めるには、3週間で39だから最終週は7日働くか」
何度目かのため息をつく。
「10日分払ったら、その10日でこの世界での今後のことを考えようと思ってるんだ」
私の方を見る。
「シイラちゃんに借りたお金も返さないといけないしね」
「返すのはいつでも構わない」
お金を使うことはほとんどない。
「あ、そうだ。お金借りた私が言うのも変だけど、お金は貸しちゃだめだよ。いい加減な人間って多いから、お金借りて返さない人もいっぱいるからね。特にシイラちゃんは猫だから、猫に金を返さなくていいだろうって思う悪い人もいるかもしれないから」
「そういうものなのか」
「そう。で、明日は最初の休みだからこの街を案内してよ」
「案内?」
「猫ちゃんは観光とか買い物とかしないと思うけど、街に出かけたりはしないの?」
「広場に出掛けることはある」
「じゃあ、広場に案内してよ」
「わかった」
翌日、絵流奈が決めた休みの日、朝食の後街に一緒に出かけることにした。
まずは広場に向かったが、途中、以前ベルナらに贈り物を買った店のある通りとかを案内した。
それからギルド本部によって、絵流奈も冒険者登録した。魔物と戦うつもりはないようだが、登録すると口座ができるので、白兎亭の支払いとか今後もあった方がよさそうだからという理由で登録したようだ。
「おいしそうな食べ物とか売ってるけど、今はお金使えないんだよねー」
広場でベンチに座りあたりを見回す絵流奈。この広場には人間が引っ張って移動できる小さな店が並んでいる。食べ物を売っている店も多い。猫の姿で歩いていると、時々食べ物をもらえたりするのだが。
「この前の話に出てきた瓦版だけど、瓦版出してる会社の場所わかる? そこに案内してくれないかな」
私の方を見る絵流奈。
「確か、ゾルタンという男がやっていたな」
最初のところは火事になったから、今は違うところで瓦版を出している。レブランらと一緒に一度行ったことがある。
例の騒ぎで話題になったので、売り上げは良いと聞いている。
「瓦版を買うのか?」
「ちょっと考えてることがあって」
そういうとほほ笑む絵流奈。
「あれ、シイラさん、その姿でここに来るのは珍しいですね」
レブランが飲み物を片手に近くを通りかかる。
「ちょっと、シイラちゃん、紹介してよこのイケメンさんに」
絵流奈が小さな声で話しかけてくる。
「彼女は、ちょっと前から白兎亭に住んでいる綱浜絵流奈だ」
「初めまして、えっと、つらまは...」
彼女の名前はここの人間にはわかりにくいらしい。
「つなはま、えるな、です。エルナ、って呼んでください」
立ち上がって手を出すエルナ。
「失礼しました。エルナさん、私はレブランといいまして...」
握手する二人。
「あ、シイラちゃんから聞いてます。ギルド本部で働いている人ですよね。で、シイラちゃんと一緒にライゼル? でしたっけ、に出掛けて事件解決したりした」
「そうです」
「やっぱり」
「最近白兎亭に来られたにしてはシイラさんと親しいようですが...」
「彼女はどうやら私と同じところから来た人間で、いろいろと教えあっているのだ」
会って間もないが、彼女と話した時間は誰よりも長いような気がする。
「へー、そういえばこことは全く異なるところからやってきたっていってましたね」
「はい、その話はまたの機会に。あの、瓦版出してる人、知ってますよね? 紹介してもらえませんか?」
「それは構いませんが...」
ちょっと戸惑っているような感じだ。
「今は白兎亭で働いてるんですけど、マスメディアで働いてみたいと思ってまして」
「マスメ・・?」
「あ、まだそんな言葉はないんですね。瓦版とか出版でいろいろと提案できることがあるんです」
「そうですか。ゾルタン、その瓦版だしている男ですけど、この前の件で有名になったので今は大忙しですから、働き手は歓迎されるとは思いますが」
「そうですか! きっと役に立ちますよ!」
笑顔のエルナ。
前の世界の経験を活かして何かやろうとしているのだろう。




