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異世界に転生した私は猫である。  作者: 草川斜辺


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3泊4日の客

朝、食堂の窓辺で寝そべっていると、白兎亭に誰かが訪ねてきたようだ。

見ると白兎亭の宿の受付にいるので、新たな宿泊者だろうか。近くに行ってみるか。


「3日程泊まりたいんだが」

薄汚い男が立っている。背負っている鞄もボロボロだ。

ギースと同じくらいの年齢だろうか。おっさんといわれる部類の男だな。

剣や魔法使いの杖も持っていないので、冒険者とかではなさそうだ。


「3日程、3泊4日でよろしいですか?」

アリナさんが笑顔でこたえる。

「そうだな、3泊、3泊4日でいい」

「お部屋は、大部屋と個室があります。個室には...」

「大部屋を頼む」

アリナさんの説明を全部聞くことなく大部屋に決めたようだ。


「大部屋ですと宿泊代は1日4シルバ、朝食は宿泊代に含まれます」

「3泊だから12シルバだな」

「はい。前払いでお願いします」

男は鞄をおろし中から小さな袋を取り出す。お金の音がするので、その袋を財布として使っているのだろう。

「後、洗濯場を使う場合は一回1シルバ、お風呂も一回1シルバです」

アリナさんも男の汚れた服が気になるようだ。


財布を受付の机の上でひっくり返す。12シルバなのでシルバ硬貨12枚だが銅貨もあるようだ。1シルバは銅貨10枚なので、銅貨を使うと硬貨の枚数が多くなる。

「後、銅貨3枚、3カパですね」

お金を数えたアリナさんが男の方を見る。

男の財布は空のようで、再度鞄の中を探している。

「あったあった」

そういうと銅貨を3枚机に置く。

「はい。確かに」

アリナさんはお金を鍵のかかった引き出しにしまう。

「こちらにお名前をご記入ください」

男が名前を書き込む。

私も自分の名前は書けるようになった。書く機会はまだないが。


「もしお金にお困りでしたら、ここで働きながら宿泊することもできますので、お問い合わせください」

「なるほど」

白兎亭は掃除や洗濯、薪割りや食堂の手伝いをすれば大部屋に住めるということで、貧しい人間には評判が良いと聞いているが、この男は関心がないようだ。


「今日の朝飯は食えるのか?」

「いえ、明日の朝食からです。3泊4日ですので明日から4日目の朝食までです」

男は特に反応しないが納得したのだろう。


「それでは大部屋にご案内します」

そういうとアリナさんが階段に向かう。大部屋は人の出入りが多いので、何人か分の空きはいつでもある。


この男は3泊で白兎亭を出ていくようだし冒険者でもなさそうだし、私が面倒を見る必要はなさそうだ。



翌日、1階の屋根の上にある洗濯物の干し場で寝そべっていると、騒がしい音が聞こえてくる。

そろそろ昼か。広間の端から通りを見下ろすと、人通りが増えている。白兎亭に入ってくる人間も多い。食堂が開いたのだろう。私に肉を食べてもらいたがる人間がいるだろうから、食堂に行ってみるか。


食堂で二切れ目の肉を食べ終わった頃、食堂にいる白兎亭の住民の声が聞こえてくる。


「なんか金が減ってるんだよ」

「盗まれたのか?」

「鍵はかけたはずなんだがさっき見たら開いてて、金も思ってた額の半分もねえんだ」

「どっちもはっきりしねえのかよ。鍵をかけたかどうか、金がいくらあったのか」

「まあそうなんだが」


「お前もか? 俺は80シルバちょっと置いてあったのに、15シルバになってたんだ。鍵は開けられてた」

となりのテーブルにいた男がいう。この男も大部屋に住んでいる男だ。

「俺も鍵が開いてたんだわ。ちょっと見てくる」

近くにいた男が慌てて食堂を出ていく。

泥棒でも入ったのだろうか。そういえばちょっと前に猿がお金を盗んだ事件があったが。


突然、二階の方で何かが倒れたか、ぶつかるような音がする。

食堂にいた人間が一斉に二階につながる階段の方を見る。誰か暴れているようだ。


「この野郎!」

叫ぶ声も聞こえてくる。

「くそっ、放しやがれ!」

声が近づいてきた。見ると、髪の長い若い男が暴れているが、後ろにいる男に腕を背中の方に回されて捕まえられているようだ。

「なんだそいつは?」

「何やらかしたんだ?」


後ろにいる男は昨日白兎亭にきた男じゃないか。

「引き出しを勝手に開けてたんでな」

「そいつか!」

「このコソ泥が!」

金が無くなったといってた男らが階段の方に向かう。

あの男は特に強そうには見えなかったが、意外とやるものだな。と思ったら、若い男が捕まえていた男を突き飛ばし階段の手すりを超えて下に飛び降り、外に駆けだしていく。階段を上りかけていた男らが追いかけるが、食堂を出たところで追うのをあきらめたようだ。


翌日、また小銭が盗まれる事件が発生した。

昨日捕まえた若者がまたきたのだろうか。今回は捕まえることはできず、誰がやったかもわからないそうだ。

白兎亭の大部屋に泊まるやつらの中には悪いことをする奴らも少なくないとは聞いているが、白兎亭内ではそれほど問題はおきていない。何といっても白兎亭に泊まるやつらは金を持っていないからだ。なので、金を盗むにしても小銭しかない。小銭とはいえ毎日のように泥棒が出るのは問題なので、ちょっと調べてみるか。


今日も大部屋で小銭が盗まれたそうだが、中には剣とか鎧を盗まれたやつらもいた。それほど高価なものを使っているやつはいないが、白兎亭の住民にとってはかなりの痛手だ。昼前に発覚しているようだから、住民が朝食を食べに部屋を開けた時か、朝食の後で洗濯とかで部屋を開けるやつもいるからそのあたりが怪しい。明日の朝、大部屋を見張ることにする。


翌日の朝、白兎亭食堂が開くころに大部屋に移動する。朝食が始まってすぐは、大部屋の半分の人間はまだ寝ている。もうちょっと人がいなくなってからだろうか。ここ数日泥棒が出るのは男用の大部屋だ。大部屋は二つあるから、行ったり来たりしながら様子を見ることにする。

巡回していると、引き出しを開けている男がいる。このベッドを借りている男だろうか。若い男だ。見ていると、向かいのベッドの引き出しも開けている。鍵穴に棒を二本突き刺して動かすと鍵が開くようだ。これは鍵をこじ開けているのではないのか。こいつが泥棒か。


「みゃあ」

何をしている、と声をかける。

男は私の方をちらっと見るが、気にせず引き出しの中をあさっている。私のことは知らないようだ。

「こっちの引き出しには剣が入っているぞ」

小声で若者に話しかける声が聞こえる。見ると、三日前に来たあの男だ。泥棒を捕まえたんじゃなかったか?

どうしたものか。

まずは、簡単に逃げられないようにこの大部屋入口の扉を閉めることにする。

入口に移動し扉を閉める。この扉に鍵はないが、部屋の内側に開くので逃げる際には邪魔になるはずだ。

奴らは二段ベッドの一段目をあさっているから、その上の二段目に移動する。そこで人間に変身する。裸だが下からは見えないよう顔だけ出せば問題ないだろう。


「お前らが泥棒だな。もう逃げられないぞ」

振り返る二人の男。

「え?」

「子供?」

「くそ、見られたか」

そういうと二段目に登る梯子に向かってくる男。

素早く猫に戻り向かいの二段目に飛び移る。

「猫?」

「いねえ! さっきのガキはどこいった!」

さっきまでいた二段目をのぞき込む男。

鋼鉄の爪を延ばし、梯子にいる男に向かって跳躍。腰のあたりに振り下ろす。これで4回目になるが、ベルトを切断。男の下半身用の服がずり落ちる。

「うわっ!」


「なんの騒ぎだ?」

大部屋に残っていた男が騒ぎに気づいたようだ。

素早く誰もいない二段目のベッドに跳躍して再度人間に変身。

「泥棒だ。こいつら二人!」

「泥棒?」

「くそっ、逃げるぞ」

ずり落ちた服を引き上げながら男が出口に向かう。

もう一人の若者の後ろに回り、同じようにベルトを切断する。5回目だ。後ろから攻撃するのは私の得意技のような感じだな。

「わっ、なんだこの猫!」

「そいつらかっ」

住民が二人の男がいる通路をのぞき込む

「この野郎!」

もう一人も来たようだ。


泥棒らは服を押さえながら出口に向かうが、扉を引っ張って開けたところで追いかけてきた男らに取り押さえられた。


こいつらは二人組の泥棒で、最初に年取った男が若者を捕まえたように見えたのは、盗みの現場を見つかったので無関係のふりして捕まえたのだという。捕まえた時の若者は髪が長かったが、今日捕まえた男は短くしていた。かつらをかぶって変装していたそうだ。

この前、ライゼルに行った際にも悪いやつらを捕まえるために協力したが、あれは金を手に入れるために多くの悪人が手の込んだことをしていた。多くの金を盗むには手の込んだ仕掛けが必要だが、小銭を盗むならそんな必要はないということのようだ。


ライゼルといえば、大きな布で体を覆うことで人間いるところでも変身できた。今回は布は使わなかったが、顔だけ出せるところなら人間がいるところでもなんとかなることが分かった。言葉を発することで捕まえることができたともいえるし、これからもこの手は使えそうだ。もっとも、人間の姿で過ごせばそんな気を使う必要もないわけだが、猫の方が気楽だ。人間は服を何重にも着ないといけないのが面倒だ。


それにしても、泥棒を捕まえることができたのは、私が最初に見つけて声を上げたことと自由に動けないようベルトを切ったからだ。私のおかげで白兎亭の住民も安心できるというわけだ。

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