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異世界に転生した私は猫である。  作者: 草川斜辺


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街の散策

朝、教会の最初の鐘が鳴る前、いつものようにネズミ狩りを行う。ちょっと前までは薄暗かったのだが、日の出の時間が早くなったようで少し明るい。それにもう寒くなくなった。

以前の白ネズミとの約束は今も有効で、ネズミの群れ同士の争いでネズミが死んだ場合、そのネズミが白兎亭裏口のごみ箱の裏に運ばれるのだ。なので、最初に確認する。今日は運ばれているかな。のぞき込むと1匹転がっている。まずはこいつを中庭に運ぶ。ちょうどカウエンが火を焚きを始めたところだ。この男は、私が運ぶネズミを中庭にやってくる大きな鳥に与えているのだ。

ネズミをカウエンの足元に置いてネズミ狩りに行く。1日2匹狩ることを日課にしている。残りの1匹は食堂で捕まえた。


私の朝食は白兎亭の朝食と同じ時間に用意されるので、それまで寝転がって過ごす。

今日最初の教会の鐘が鳴る。そろそろ朝食の時間だ。しばらくすると白兎亭の住民が食堂にやってくる。

朝食の後は白兎亭の大部屋とか住民の多いところを巡回し、ちゃんと働いていることを見せるようにしている。ネズミ狩りはとうに終わっているのだが、寝転がっているところだけを見られているとさぼっているように思われるかもしれないからな。


そのあとはリスタの作業場に行って人間に変身。服を着て剣を持ち、中庭で剣術の練習を行う。住民には剣士も多いので、時々相手をしてやっている。その時はもちろん練習用の木刀を使う。

練習の後は猫に戻って食堂の窓際で寝転び、日があたらなくなってきたら屋根の上にある洗濯ものを干す広場で寝転んで夕方まですごすのだが、今日は久しぶりに街を歩いてみようという気になった。そろそろ昼で白兎亭の食堂が開き宿泊者以外も食事に来る時間なので、食堂を歩き回って私に食事を分けたがる人間の相手をしてやってもいいのだが、天気もいいし出歩くことにしよう。


屋根を伝って隣の建物に移動する。ギルド本部が面している広場に行ってみるか。

天気がいいので窓を開けている建物が多いな。あたりを見回しながらゆっくりと進んでいると、上の窓から何かが転げ落ちてくる。あれは人形だな。リスタの部屋にもおいてあった。

「あー、お人形っ!」

人間の子供の声が聞こえる。小さな手が窓から見える。

拾ってやるか。

屋根の斜面を滑り落ちる人形をくわえ上に放り投げる。狙い通り窓を通り部屋に入る。

「戻ってきたー」

女の子が窓から顔を出す。まだ小さくて窓までやっと届いたという感じか。

「あ、猫ちゃんだ。拾ってくれたの?」

「みゃあ」

そうだよ。

「ありがとー」

「みゃあ」

どういたしまして。


窓の下の狭い屋根ようなところを先に進む。このあたりは店が並んでいるところだ。剣を作ってもらった鍛冶屋もある。


「あ! ドロボー」

叫び声が聞こえた方を見ると、若い男が店を飛び出してこっちの方に走ってくる。追いかけている人間もいる。泥棒というのは人の物を勝手に持っていくやつのことだったな。何かを腕にかかえているようだが、あれが盗んだものだろうか。通りを歩いている人間にぶつかりながら走って逃げている。こっちに向かってきているし、協力してやるか。


私のいるところを通り過ぎたところで、助走をつけ間合いを見計らって男の頭に後ろからとびかかる。

「うわっ」

突然後ろから私に頭を蹴られた男は地面に倒れ込む。慌てて両手を地面につくが、走っていた勢いもあって体が回転する。男は慌てて立ち上がり走ろうとするので、再度とびかかり背中を蹴る。再度男が両手を地面についたところで、追いかけていた男が追いつく。


「このやろう!」

「くそっ」


周りの人間もようやく状況に気づいたようで、周りに集まってくる。加勢する人間も何人かいる。


「倒したのはその猫だよ」

近くにいた女が私を指さす。

「ああ、俺も見た」

「そうなのか。ありがとな」

追いかけていた男が私の方を見る。

「みゃあ」

どういたしまして。


再度屋根まで駆け上る。

なんかあわただしいな。こんなことなら白兎亭で寝転がって過ごした方がよかったかもしれない。だが、広場はもうすぐだし、ここまできたら先に進むことにしよう。

広場が見えてきた。通りの終点で屋根から降りる。広場は建物に取り囲まれた広い場所で、地面には大きな石が敷き詰められている。木は1本も生えておらず何もない大きな広場だ。周辺には人間が座る石でできた細長い台が並んでいる。白兎亭の中庭も広場だが、そこでは薪を割ったり剣術の練習をしていたり、木が生えていたりテーブルが置かれていたりといった使われ方をしている。ここは単に広い場所で人が歩いているだけだ。


広場に面した建物の中にはギルド本部や憲兵の建物があるが、他には食べ物を売っている店も多い。人間はそれらの店でお金と食べ物を交換し、石の台に座ったり広場を歩きながら食べたりしている。店はいくつかあるが、行列ができている店もある。

さて、食事をしている人間の近くを歩いてみるか。私に食べ物を分けたいと思う人間がいるだろう。


「あ、シイラちゃん?」

声が聞こえた方を見ると人間の女が手を振っている。座って食事をしているようだ。

彼女はギルド本部で働いている人間だ。仕事の受付でよく見かける。名前は確かミレイユだったかな。


「みゃあ」

こんにちは。あいさつしておく。

右手で座っている石の台をたたいている。ここに来いということか。近くに移動し台に飛び乗る。


「食べます?」

そういうと手の上に何かの塊を乗せ私のところに運んでくる。においからすると肉が含まれているようだ。白兎亭の食事でも出ることがある。これはおいしいので喜んでいただくとしよう。


「この前の暗号表の仕事、大成功でしたね」

「みゃあ」

そうだな。結果的に暗号表2つ分の報酬をもらえたし、それに男を捕まえたことと、そいつがギルド本部とか商業組合の書類を持っていたことから追加の報酬をもらえたのだ。十分な報酬を得られたこともあり、カイは白兎亭を出て行った。新たな住処の場所は教えてもらったので、気が向いたらたずねてみるか。


「それと、捕まえた男ですけどね」

たしか取り調べをするといっていたが、何かわかったのだろうか。

「なんか大きな話になってるようですよ。今度ライゼルから調査員が来るんですって」

あの男はライゼルの何とか組合の書類も持っていたからな。

ふと視線を感じたので見上げると、近くを歩いている人間がこっちの方を興味深そうに見ている。


「私を見てるんですよ。猫に話してる変な女って思われたかな」

ミレイユも視線に気づいたようだ。なるほどそういうことか。無理もない。

「みゃあ」

まあ、気にするな。


「ミレイユさん」

見ると若い男が立っている。手には飲み物を持っている。湯気が上がっているから熱い飲み物なのだろう。

「あ、こんにちは」

「遅い食事ですね」

「はい。昼前に長引いた仕事がありまして」

「なるほど。それはそうと、猫に話しかけてました?」

「あ、見られてましたか」

ちょっと恥ずかしそうなしぐさのミレイユ。


「人間相手のようにしゃべってましたよね」

男が私の方を見る。

「この猫ちゃんは特別なんですよ。レブランさんはライゼルに長く出張してましたから知らないのも無理ないんですけど」

「特別? 特にかわいがっているということですか?」

「この猫ちゃん、シイラちゃんは人間の言葉がわかるんです。そうそう、レブランさんがここに戻ってきたのもこの猫ちゃんの活躍のおかげですよ」

「え? 例の男の確保に関係しているんですか?」

「関係も何も、大活躍ですよ」

「そうなんですか?」

「みゃあ」

男が私の方をみるので、その通りだ、と答える。


「この人はレブランさんといってギルド本部の保安部の人です。今はライゼルのギルド本部で働いてるんですけど、シイラちゃん達が捕まえた男の捜査でこっちに戻ってきてるんですよ」

聞いたことのない言葉もあるが、あの男のことを調べに来たということか。


「猫に紹介されたのは初めてですが、レブランです。よろしく」

男が私の方を見ながら自己紹介してくる。

「みゃあ」

こちらこそよろしく、とあいさつしておく。

手を伸ばしてくるので前足を出して握らせてやる。以前いたところでは同居人が「お手」といって手のひらを上にして出してきていたが、あのようなものか。あの時の経験が役に立ったな。


「今は猫ちゃんの姿なので人間の言葉はしゃべれないんですけど、人間の姿に変身ができて、その姿なら言葉もしゃべれるんです」

ミレイユはちょっと自慢げな感じだ。

「人間に変身? そんなことができるんですか」

「みゃあ」

その通りだ。

「それは興味深いですね」

男が私の方をじっと見る。

披露できないのが残念だ。人前で変身はするなと強くいわれているからな。


「いつもこのあたりにいるんですか?」

男がミレイユに尋ねる。

「はい。いつもお昼ご飯はこのあたりで取ってます」

「あ、いえ、この猫のことです」

「え? ああ失礼しました。そうですよね」

ミレイユが顔を赤くしている。

「シイラちゃんは白兎亭に住んでますので、ここにはあまり来ないですね」

冒険者登録の際に住所を伝えたのだったな。

「白兎亭ですか。以前は昼食の際によく行ってました」


「あ、そろそろ昼休みも終わりなので戻りますね」

教会の塔にある時計を見上げるミレイユ。男も時計を見る。

「私も戻らなくては」

「それじゃあ、シイラちゃん、またね」

二人が私に手を振ってギルド本部の方に歩いていく。


さてと、あたりを見ると食事をしている人間はまだまだ多いな。もう少し食べ物をもらってやってもいいが、さっきミレイユにもらったものでもう十分か。日当たりのいいところで寝転がることにしよう。どこがいいだろうか。見ると他の猫もいるようだ。縄張りを主張されると面倒だな。まあ、私が負けるはずはないが、縄張りを広げようという気もないから関わらないことにしよう。

となると、白兎亭に戻るとするか。


白兎亭につながる通り沿いの建物の屋根に上る。

今日捕まえる手助けをした泥棒は欲しいものを直接取って逃げたのだったが、この前捕まえた男は盗んだものを使ってさらに何かを盗もうとしているということだった。人間は面白いことを考えるものだ。

さっきの男、レブランといったか、捕まえた男を調べているということだったな。ちょっと気になる。

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