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異世界に転生した私は猫である。  作者: 草川斜辺


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初めての買い物

洗濯物を干した後、猫に戻り再度洗濯物を干すところに戻る。

1階の屋根の上に作られた天井のない広間のようなところだ。大きな布がたくさん干されていて風に揺れている。この布の下で寝転がるのが心地よさそうだ。日の光も時々あたる。

そよ風に揺れる布の下でしばらく気持ちよく眠っていたが、洗濯物を取り込む騒がしい人間によって起こされてしまう。しかたない。ベルナに約束したし出かけるか。


人間に変身し、剣と鞄を持ち鍛冶屋に向かう。通りを歩いてもよいが、建物の屋根をつたって向かうことにするか。跳躍力がついているので、人間の形態でも猫の時のように動ける。


ギルド本部に到着。

私の口座からお金を引き落とす手続きを行う。ここに来る前に鍛冶屋によって、剣の手入れ、鎧の手入れのための道具の価格を確認している。


「シイラ・ムギ様」

名前を呼ぶ声が聞こえる。ギルド登録する際、白兎亭で付けられた名前「シイラ」で登録しようとしたのだが、ファミリーネームとやらも書く欄があったので、以前いたところでつけられていた名前「ムギ」を付けたのだ。なので、これが私の正式名だ。


「90シルバです」

本部の口座窓口の男はそういうと、シルバ硬貨90枚を受付の台に積み上げる。

積み重ねた硬貨が9個あるということは、それぞれ10枚ということだな。100シルバになると、1アランという1枚の硬貨になるそうだ。100枚のシルバ硬貨でも引き出せるということだったが、ちょっと少なく90シルバにしてみた。口座の残りは4アラン210シルバ。



剣の手入れは15シルバ。私の剣は鍛冶屋の見習いが作ってくれたものなので、手入れも見習い料金で半額なのだということだ。それと。鎧を手入れするための布とワックスが20シルバ。お金は後で払うものだからということで、その場で剣を預けてきた。できあがるのは明日の夕方になるそうだから、鎧の手入れ道具は剣を引き取る時に鍛冶屋で買うことにしよう。


鍛冶屋は35シルバあれば足りるので、残りの55シルバは、洗濯場を利用するためのお金として手元に置いておくのと、人間に変身できるようになってからリスタとベルナにはいろいろと世話になったから、何か贈り物でも買ってみようと思っている。何がいいだろうか。店が並ぶ通りに行ってみるか。


通りは人が多いので、通りの端っこ、店のすぐ前を歩くことにする。

そういえば、退治したネズミを持って行っても喜ぶ人間はほとんどいないらしいということに最近気づいた。前の同居人には悪いことをしたのかもしれない。なのでリスタとベルナにネズミを持っていくのはやめておくことにした。


さて、贈り物は何が良いだろう。リスタは服を作ったり直したりしているから服とか服を直すものがいいのかな。ベルナには魔法使い用の店で買えばよいのだろうか。どちらもよく知らないから何がいいかさっぱりだ。


「あれ、シイラちゃん?」

声が聞こえたので振り返るとメルノラがいる。今日も派手な服装だ。

「久しぶりだな」

長らく会っていないように思う。食堂でも最近見かけない。


「元気そうね。あのひらひらした服は着ないの?」

最初に着せられた人形用の服のことか。

「今はこのリスタに作ってもらった服を着ている」

人形の服もリスタが作ったものだったが。


「ふーん。で、何してるの?」


「リスタとベルナに何か贈り物しようと思って、何がいいか探しているのだ」

「へー。お金は一緒にダンジョンに行ったときに稼いだからね」

「あの後も何度か依頼をこなしたりしてお金を得たのだ」

「そうなんだ。すごいね」

メルノラが感心している。


「贈り物をしたことがないので、何がいいのかわからないのだ」

店をのぞき込むが、この店は食堂で使う道具を売る店のようだ。


「手伝ってあげようか?」

メルノラがちょっとしゃがんで私をのぞき込む。

「それは助かる」

「リスタさんと誰だっけ?」

「ベルナだ」

「ああ、あの見習いさんね」

「そうだ」


「このあたりは道具屋が並ぶ通りだから、贈り物ならこっちかな」

そういうとメルノラが歩き始めるのでついていく。

「ダンジョンとかに行くときに使えるものもあるから、このあたりでもいいんだけどね」

店を指さしながら歩くメルノラ。

「予算はどのくらい?」

「予算?」

「贈り物に使えるお金はいくら持ってる?」

「55シルバだが、いくらかは手元に残したい」

お金はリスタの作業場に服と一緒にしまうとするか。


「ちょっとしたお礼の贈り物なんだから、10シルバずつ、20シルバで十分じゃないかな。もっと安くてもいいくらい」

「そういうものなのか?」

「うん。安いものでも、シイラちゃんからもらったら二人ともうれしいと思うよ」

しばらく歩くと広場に出る。そのまま広場を通り過ぎ、別の通りに入る。さっきまでの道具屋とは雰囲気の違う店が並ぶ通りに入る。通りを歩く人間も女が多いようだ。


「ここはアクセサリーの店でよく来るんだけど、二人はあまり使わないかな」

メルノラは両手首や首に巻いている青や赤の石のようなものが連なったものを触る。

確かに、リスタやベルナはこういったものは巻いていないな。


「ここはどうかな。文房具の店だけど」

「文房具?」

聞いたことのない言葉だ。店の中を見る。ペンと手帳、インクは分かるがそれ以外は何だろう。板のようなものとか鳥の羽、紙でできている四角いもの、木の断面に模様を刻んだ短い棒のようなもの、三角や半円の板のようなもの、測量士が持っていたような巻き尺が並んでいる。他には、大きな紙を巻いた筒のようなもの、何かわからないもの、壁に絵がいくつも貼り付けられている。


「この店のものは二人も使うし値段も手ごろなものも多いし、いいんじゃないかな」

なるほど。ではここで探してみるか。

メルノラが私を肩に乗せてくれたので、並んでいるものがよく見える。何かわからないものも多いので、教えてもらいながらどれがいいか考える。


しばらく見て回り、メルノラのおすすめも聞いて贈り物にするものを決めた。

「贈り物はこのきれいな模様の紙で包むんだよ。だからこれも一緒に」

二人には色の違うものを選ぶことにする。ベルナはいつも黒っぽい服装だから色の濃いもの。リスタには人形用の服に使っていたような明るい色の紙を選ぶ。


「包んだら贈り物が何かわからないように思うが?」

疑問に思ったので聞いてみる。

「包みを開ける楽しみがあるわけ。贈り物は何かなーってね」

よくわからないが、メルノラがそういうならそうなのだろう。


贈り物を包んでもらい鞄に入れると店を出る。

「いろいろと世話になったな」

「いいよ、これくらい」

「そういえば、最近白兎亭で見かけないようだが」

気になっていたので聞いてみる。


「もう白兎亭には住んでないから」

「そうだったのか?」

「今は友達と一緒に住んでるんだ。食堂もあって、白兎亭を小さくしたようなところかな」

手で小さな箱を描くメルノラ。それほど小さくはないと思うが。

「似たようなところなら白兎亭でいいんじゃないのか?」

「白兎亭は人が多くてうるさいのよね。それに古いしおしゃれじゃないわけよ」

人が多いのは確かだな。おしゃれについてはよくわからないが。

「それじゃあ、私は友達と約束があるから」

「ああ」


さて、帰るとするか。日も暮れてきた。

白兎亭に戻ると、食堂は夕食時でテーブルが半分くらい埋まっている。見渡すがリスタやベルナはいないようだ。まずはリスタの作業場に行くか。

階段のところでベルナに会う。ベルナに会うのはいつもこの階段だな。彼女は食堂に降りてきたところのようだ。


「あ、お風呂入りましたか?」

さっそくか。

「まだだが、お金は引き出したのでこれからは自分のお金で風呂に入れる」

「必ずですよ」

ベルナはなんでこんなに風呂に入らせたがるのだ。


「リスタは作業場にいるかな?」

「多分いると思いますよ。お昼過ぎに見かけましたし」

それはよかった。

「今からリスタのところに行くので、ベルナも一緒に来てほしいのだが」

贈り物を渡すなら一緒がよいだろう。

「え? 構いませんけど」


ベルナと一緒にリスタの作業場に向かう。

「こんにちは」

ベルナが声をかけてドアを開ける。作業場ではリスタが作業中のようだ。

「どうかしたの? あ、シイラちゃんも一緒なんだ」

「シイラちゃんに一緒にここに来てくれって頼まれたんです」

「へー、何かあったの?」

リスタが私の方を覗き込む。

ちょっと飛び上がってリスタの作業机に座らせてもらう。


「人間に変身できるようになってから二人には世話になっているから、お礼をしようと思ったのだ」

「え?」「え?」

二人とも驚いている。

鞄から店で包装してもらった贈り物を取り出す。

明るい色の包みをリスタに、濃い色の方をベルナに渡す。

「わあ、ありがとう」

ベルナがすごく喜んでいる。

「ありがとう。なんだろう、開けるね」

リスタも嬉しそうだ。

「気に入ってくれるといいのだが」


二人は丁寧に包みを解いている。紙を破かないようにしているようだ。


「なんですかこれ? とてもきれい」

先に包装を取り払ったベルナがいう。

「これは、ガラスペンね」

リスタは知っていたようだ。

「え? これ、ペンなんですか?」

ベルナは知らないようだ。

「うん。独特の書き味で、普通のペンよりインクの持ちがよくてずっと長く書けるんだ。それに、とてもきれいだから集めている人もいるよ」

リスタが説明する。

「確か、元は東の遠方にある国で作られたものなんだけど、これは多分タイテインで作られたものじゃないかな」


「タイテインってガラス細工で有名なところですね。高くなかったですか?」

ベルナが心配そうに私の方を見る。

「意外と安いのだ。値段は...」

「あ、贈り物の値段はいわなくていいんですよ」

ベルナが遮る。

「そうなのか? 値段を聞かれたのだと思ったのだが」

「まぎらわしいですけど、お金をたくさん使ったんじゃないか心配して聞く時のいい方なんです」

「むずかしいな」


「ガラスペンは持ってないからうれしい。シイラちゃんありがとう」

リスタが私の方を見る。

「私もガラスペンって初めてですけど、ありがとう。大事に使うね」

「手入れの仕方が書かれた紙が入っているね。ガラスだからあまり強い力をかけるとペン先が欠けることがあるから気を付けて」

リスタがベルナにいう。

「あ、そうなんですね。じゃあ、飾っておいて、大切な手紙の時だけ使いますね」


贈り物は初めてだったが、二人とも喜んでくれたようでよかった。これもメルノラのおかげか。

彼女は引っ越したのだったな。また街で会うことがあれば礼をいっておこう。

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