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異世界に転生した私は猫である。  作者: 草川斜辺


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陰謀? その2

当日の夕方。5回目の鐘が鳴った後、食事を終えた3人、ギース、ハルト、ベルナと私は、ギルド本部前の広場に集まる。ここは街の中心なので日が暮れても人は多い。

連中は6回目の鐘が鳴ってから行動を開始するとのことだったので、その前に裏通りに怪しいやつが待機していないかを確認するのだ。その役目は私の担当だ。怪しまれないよう猫の姿で参加している。剣士の姿で参加したかったのだが、猫の方が目立たないといわれたのだ。まあ、それは同意するしかない。猫なら裏通りの塀の上とか屋根を歩いていてもだれも不審に思わない。


裏通りに面した建物の屋根に上る。ギルド本部の裏口のある通りを見通せるが、人は誰もいないようだ。5回目の鐘が鳴ってからまだそれほど経っておらず、次の6回目まではまだ間があるのでしばらく近辺を歩き回ってみる。


今回の作戦だが、相手がどう行動するかわからないので、作戦というほどのものは立てていない。裏口の前で立ち止まる人間を見かけたら、屋根を走ってまずギースに伝える。言葉は通じないことは分かっているが、見かけた時だけ一声かけることにしているので、間違えようはない。そして再度裏通りに戻り通りの反対側にいるハルトにも伝える。


連中が本部に入ったら、ハルトとギースが裏通りを歩いて見張りが通りにいるのかを確認。いる場合もその時点では何もせずに前を通り過ぎる。そして本部を一周回ってお互い情報交換。見張りがいた場合、そいつらに見つからない場所に潜み本部から出てくるのを待つ。

出てきたら、まずギースが話しかけ、逃げようとしたら私が屋根からとびかかる。これを合図にベルナが明かりを照らしハルトが駆けつける、という作戦だ。さて、どうなるか。


ギルド本部の裏口が見える屋根の上に待機していると、誰かがやってきた。男が二人だ。一昨日食堂で話していたやつらだろうか。顔は見ていないので何とも言えない。裏口の前に来ると立ち止まる。よし、ギースに知らせに行くか。屋根を走りながら通りの様子を見るが、仲間らしいやつは見当たらない。


ギースに知らせ、そのまま同じ道を引き返し通りの反対側にいるハルトにも伝える。さらに引き返しハルトよりも先に屋根を駆けて進む。通りの様子をあらためて見るが、やはり仲間はいないようだ。

ハルトとギースはそのまますれ違い、裏通りを通り抜けて本部の表に回る。私はそのまま裏口を見張る。通りに見張りがいなかったので、ハルトとギース、ベルナが本部の裏口が見えるところまでやってきた。通りには、ギルド本部の柱というのだろうか、ちょっとしたでっぱりがあるので、二人は裏口を間にはさんで陰に隠れるようだ。ベルナはハルトの後ろにいる。これであの連中が出てきてどっちに進んでも何とかなるはずだ。


6回目の鐘が鳴る。私は裏口向かいの建物の屋根から覗いている。猫なので見つかっても怪しまれないはずだ。ふと気配を感じたので横を見ると、すぐ近くの建物の上に鳥がとまっている。見たことのない鳥だ。目が大きく、太っているような感じに見える。あの大きな目で夜でも見えるのだろうか。

裏口を見ると、扉が開いた。中にいたやつが開けたようだ。こいつが魔法使いなのだろうか。頭まで覆うマントような服装で、ここからだと顔がよく見えない。身長や体格からすると男だろうか。3人は通りを見回した後、本部の中に入っていく。ギース、ハルト、ベルナに男らが中に入ったことを伝えると、ギースが裏口の前にやってくる。ハルトとベルナはちょっと離れたところで待機している。私は屋根から通りに降り、裏口の上に突き出た小さな屋根のようなところに登り待機する。ここにいれば中か出てきたやつには見つからないし、後ろから飛びかかれる。


待つことしばらく。裏口の扉が開き中から男が出てくる。2人が出てくると扉が閉まる。扉を開けた男は見えななかった。中に残るということか。2人はギースがいることに気づくが、そのまま立ち去ろうとする。


「こんばんわ。この時間、ギルド本部は閉まってるはずだが?」

ギースがその前に立ちふさがり話しかける。


「ちょっと仕事が忙しくてね」

男はそのままギースの横を通り抜けようとする。

「今さっきお前らがここに入っていくのを見たんだが?」

突然、男らが駆け出したので、近くの男にとびかかる。

「うわっ」

男が悲鳴をあげ、動きが鈍くなったところでギースが男を取り押させる。

ベルナが明かりを照らす。ハルトがもう一人の男を追いかけるので私もそいつを追う。足は私の方が速くすぐに追いつきとびかかる。男が私を振り払おうとしているところにハルトが追いつきそいつの腕を捕まえる。が、男はもう一方の腕で何かを上に放り投げる。


見上げると、さっきの鳥がいる。鳥は男が投げた何かを掴むと、近くの建物の屋根に着地する。鳥を追いかけて屋根に上るが、今度は通りを挟んだ反対側の屋根に移動されてしまう。さすがに鳥を捕まえるのは無理だ。足に掴んでいるのは筒のような形のものだ。


「おい、何を盗んだんだ?」

ギースが捕まえたやつを問い詰める。

「知るかよ」

「あのフクロウが持ってったのは何だよ」

鳥の方を指さすギース。あの鳥はフクロウというのか。

「知らねえな」

「なんか紙を巻いたようなものです」

ハルトも鳥を指さす。鳥はまだ屋根の上にいてこちらを見ている。

「書類か。なんの書類なんだ?」

「答えるわけないだろ」

「明日の会議に関係のあるものか?」

「さあな」

「まあいい。何を企んでるのかは知らねえが、会議に関係があるものなら、俺らがギルド本部に..」

ギースが突然突き飛ばされたような感じで男から離れる。

「な、なんだ?」


ギースの手を離れた男が逃げ出す。

ハルトの方を見ると、ハルトも突然突き飛ばされたように男から離れ地面に尻もちをついてしまい、もう一人の男も駆け出す。ベルナの方に何か半透明のものが向かい、ベルナも建物の壁に突き飛ばされる。人間くらいの大きさだったように見えたが。

「魔法使いです!」

ベルナが叫ぶ。あの半透明のやつは魔法使いだったのか。


男らが逃げる。

走る速さなら人間に負けることはない。素早く追いつき鋼鉄の爪で切りかかろうとしたところで、ちょっと前に泥棒を捕まえた時のことを思い出す。あの時は人間の形態で剣を使ったが、同じ事が鋼鉄の爪でできそうだ。


逃げる男の背後に向かって跳躍し、鋼鉄の爪を腰のあたりに振り下ろす。

男のベルトが切れ、下半身に着る服、ブレーとかいうのだったか、がずり落ち足がつまづく。すかさずギースが取り押さえる。ハルトから逃げた男にも追いつき同じようにベルト切る。この男もハルトが取り押さえる。ギースもハルトも掴んだ男の腕を背中の方に回して肩の方に押し上げている。


ふと見上げると、鳥が塀の上にいる。捕まった男たちの様子を見ているようだ。いけるかもしれない。ギースがフクロウと私の間に入る位置に移動。ギースの肩に飛び上がり、すぐさま肩を踏み台にしてフクロウに向かって素早く跳躍。私に気づいた鳥が飛び立とうとするが、振り下ろした鋼鉄の爪が鳥が足でつかんでいた紙にかろうじて届く。紙は三つに切断され、一部は鳥がつかんだまま飛び立つが、残りの二つが地面に落ちてくる。

フクロウは、さっき駆け抜けた半透明の魔法使いが走った方向に飛んでいく。


「猫! よくやった」

これはギース。

「魔法使いとフクロウには逃げられましたね」

ハルトがフクロウが飛んでいった方向を指さす。

「ま、しゃあねえな。こいつらとその切れ端を持って憲兵のところにいくか」


憲兵とやらがいる建物は、ギルド本部と同じく広場に面した建物だ。

ギースがさっきの状況を説明している。もちろん、おとといから知っていたことは話さず、偶然そこを通りかかったことにしている。憲兵の一人がギルド本部の誰かを呼んで来たようで、ギースは改めて本部の人間に状況を説明し、紙の切れ端を渡している。


盗まれた書類は議事録と日程表ということらしい。男らはその目的について何もしゃべらないが、ギースが明日の会議のことを説明すると、本部の人間もその可能性があることは認めたようだ。

ただ、本部の人間は我々が偶然泥棒を発見したというところが怪しいということで、ギースが要求した謝礼の話にはなかなか同意しなかった。それでもギースの粘り勝ちで謝礼はもらえることになり、明日、改めて本部を訪ねることになった。


白兎亭に向かって歩く3人と私。

「あの本部の人、疑い深かったですね」

ハルトがギースに話しかける。

「まったくだ」

「でも、その人はある意味正しかったんですけどね」

ベルナが小さな声でいう。確かに、それはその通りだ。

「かといって、おとといの時点で話したところで信じてもらえるとは限らねえがな」

ギースがいうことももっともだ。


「でも、さすがギースさんですね。よく説得できましたよね」

ハルトが感心している。

「まあ、あんなのは説得ってほどでもねえ」


人間は言葉で相手の考えを変えさせたりするところが興味深い。猫の場合、いろいろと頭では考えるが猫同士では簡単な言葉のやり取りしかなく、何かの主張を通したいなら威嚇とか攻撃するしかない。このあたりの言葉の技術も身につけなければな。

それと、あのフクロウがちょっと気になる。魔法使いと行動を共にしていたように見えるが、私の他にも人間と一緒に行動する動物がいるのだな。

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