表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生した私は猫である。  作者: 草川斜辺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/238

陰謀? その1

夕方、白兎亭の食堂。

朝食は宿泊者向けに提供されるが、昼と夕方から夜にかけては宿泊者かどうかは関係なく利用できる。客が増えてくる日暮れ頃からは食堂から酒場に変わる。夜は食事よりも酒を飲むのが目的の客が多いのだ。


騒がしい夜の白兎亭の酒場で人間の話を聞くのはそれなりに楽しいので、時々テーブルの下に入って会話を聞いている。今日の夜もそのつもりだったが、まだ日も暮れないうちにテーブルの下にある荷物用の棚に入って寝転がっていたところ、つい眠ってしまった。何かの音に目覚めると、そのテーブルに二人の客がいて話をしているのが聞こえてきた。小さな声だが、まだ酒場になる前で客も少なく、近くのテーブルに誰もいないので聞き取れる。


「あさって、6回目の鐘が合図だ」

鐘とはこの街の教会のことか。教会は朝から夜まで鐘を6回鳴らしていて、街の人間はこの鐘の音を区切りに食事をしたり仕事を終えたりしている。6回目というのはその日の最後の鐘だ。

「もうすぐ鳴るのは5回目だよな」

「ああ。ギルド本部は5回目の鐘を合図に閉じられる。そこで働いている奴らもそれからしばらくしたら出てくる。で、6回目の鐘が鳴ると、中に潜んでいる仲間が裏口の鍵を開ける」

ん? つまりこいつらの仲間が本部に隠れていて、誰もいなくなってから鍵を開けて仲間を引き入れるということか。なんか怪しいな。


「そいつは見つかったりしねえのか?」

「そこは大丈夫だ。魔法使いだからな」

「なるほど」

魔法使いだということと、見つからないことの間に何か関係があるのだろうか。

「で、鐘が鳴り終わったところで裏口の扉が開く」

「入った後の段取りはこの前説明したとおりだ」

ここで何をやるかまでは話さないようだ。


「まあ、そんな感じだ。あさっては頼んだぞ」

「おう」

話は終わったようだ。二人は席を立ち出ていく。

肝心なところは分からないが、よからぬたくらみであることは間違いないように思う。これはどうしたものか。誰かに伝えたほうがよさそうだが誰がいいだろう。

教会の5回目の鐘が聞こえてきた。そろそろ騒がしい集団がやってきて食堂から酒場に変わる時間だ。

取りあえず、この場を離れよう。人間に話すには人間の形態に変身しないとな。リスタの作業場に向かうことにする。


作業場に来たがリスタはいないようだ。彼女に話せばいいかと思っていたのだがあてが外れた。

まずは人間の姿に変身して服を着て食堂に戻る。誰がいるか確かめるために高いところに上ることにする。白兎亭の食堂は広く、いくつも柱がある。天井は高く、柱をつなぐように何本も木が天井を横切っている。ネズミがよく走っているところなので猫の形態のときに登ることが多い。今は人間の形態だが、食堂中を見渡すためにそこに登ることにする。


見回すと、ハルトとベルナが一緒に食堂に入ってくるのが見えた。ダンジョンに一緒に行ってから、二人は仲がよくなったようだ。これも私のおかげだな。ベルナはいつも風呂に入れとうるさいので避けているのだが、この二人に話してみるか。


「やあ」

二人に話しかける。

「あ、ひさしぶりだね」

ハルトがいう。ダンジョン以来、話すのはこれが初めてかもしれない。

「そうだな。ハルトも最近は調子がよいようで何よりだ」

「うん。秋の収穫祭までここにいるかもって思ってたんだけど、もうちょっと早く引っ越しできそうなんだ」

「そうなのか」

「今日、引っ越し先を探したんだよね」

ベルナがいう。

「二人は一緒に住むのか?」

驚く二人。顔を見合わせるがなんか恥ずかしそうにしている。


「ちょ、ちょっと、な、何いってるんですか。シイラちゃん」

顔を赤くしたベルナが私に抗議する。

「違うのか?」

ハルトに向かって聞いてみる。

「えっと、あの、そ、その、ぼくとしては、あ、えっと、まだ、そ、それはその、まだ早いっていうか」

ベルナの方とちらっとみるハルト。ハルトもなんか恥ずかしそうな感じだな。何か悪いことを聞いたかな。

「そ、そうですよ。まだ早いんです!」


「つまり、もうちょっと経ったら一緒に住むということか?」

二人とも恥ずかしそうにしている。

まあいい。ここに来た目的は別にある。


「いつから一緒に住むのかを聞きたいわけではないのだ。ちょっと聞いてもらいたい話があるのだが」

話題が変わったことにに安心したかのような感じの二人。

「な、なに?」

話を聞いてくれるそうでよかった。

二人にさっき聞いた内容を伝える。


「確かに怪しいな」

ハルトも怪しいと思ったようだ。

「魔法使いが関わっているなんて許せないです」

これはベルナ。

「隠れる魔法とかってあるの?」

ハルトかベルナに質問する。

「そうですね。相手から見えないようにするとか、見られても見たことを忘れさせるとかいろいろありますね。私はできませんけど」

「本部は広いから、隠れている人を見つけるのは難しいかな。特に魔法使いだと」

ハルトがつぶやく。

「本部の人に伝えればいいんじゃないでしょうか。建物には詳しいでしょうし」

これはベルナ。

「でも信じてくれるかな」

「それはそうですけど、本部の人には伝えておいた方がいいと思います」

「そうだよね」


「お、なんか真剣そうな感じだな」

ギースがビアマグを片手にテーブルのわきに立っている。


「シイラが聞いたあやしい話についてどうしようか、って話してたんです」

ハルトが説明する。

「怪しい話?」

ギースが椅子に座る。

「猫、俺にも聞かせてくれ」

ギースは私を名前で呼ばないな。まあ、猫はここに私しかいないから呼びかけることの目的は果たしているが。


「さっき、5回目の鐘が鳴る前に、ここで食事していた二人の男のテーブルの下で聞いた話だ。その時は猫の形態だったのだ」

さっきハルトらに説明した内容を改めて紹介する。


説明に口を挟まずに聞くギース。酒には時々口を付けるが。

「なるほど、そいつは怪しいな」

ギースも怪しいことには同意した。


「ですよね。で、本部の人に伝えようかって話してたんです」

ハルトがいう。

「いや、本部のやつに話すのは、なしだ」

ギースがこたえる。

「え?」

ハルトが驚く。

「伝えたほうがいんじゃないですか?」

これはベルナ。


「あさってっていったよな?」

私を見るギース。

「ああ。間違いなく、あさって、といっていた」


「コソ泥の可能性もあるが、あさっての夜にギルド本部となると、たぶん狙いはその翌日から始まるフデツの漁協との会議だ」

「漁協?」

「ああ、漁業協同組合のことだ。この街は内陸にあるが市場では海の魚が売られてるだろ、あれはフデツの漁協から仕入れてるんだ」

そういうとギースはビアマグを持ち上げるが、空なのか中をのぞき込む。

「でも会議と忍び込むことに何の関係があるんですか?」

ハルトが質問する。もっともな質問だ。私も関連がわからない。


「ちょっともう一杯持ってくるから待ってろ」

そういうとギースはビアマグを手に食堂のカウンターの方に向かう。


「漁協との会議って、関連がわからないな」

ハルトがいう。

「魔法使いで漁協のお仕事している人がいるんですけど、年に何度かお魚の仕入れ価格とかを決める会議をやるって聞いたことがあります」

「へー」

「魔法と魚はどう関係するのだ?」

疑問に思ったので聞いてみる。

「この街は海から遠いですから、ふつうは塩漬けにしたり干したりしないと海の魚は持ってこれないんですけど、氷を作ることのできる魔法使いが協力すると、新鮮なお魚を遠くまで運べるんです」

なるほど。そういえばこの街でも時々氷を見かけるが、あれは魔法使いが作っているのか。魔法というものは色々できるのだな。


「で、その漁協との会議なんだが」

ギースがビアマグをテーブルに置く。

「年4回、季節の終わりごとに実施されている。魚がどれだけ取れるかは海にでないとわからないから、実績をもとに次の季節の相場を決めるんだ」


「まあ、魚といっても種類は多いから、主なものの価格と、その他は重さ当たりの上限価格が決められるって話だ」

ギースが説明を続ける。

「今だと、春の実績をもとに次の夏の相場を決めるわけだな」


「春は豊漁ってききましたけど、夏が不良だったら大変ですよね」

ハルトが質問する。

「その場合、夏の実績をもとにした秋の相場で調整するって話だ」

「なるほど」


「魔法使いもギルド本部に登録してますから、魔法使いが働く代金もその会議で決めるって聞きました」

これはベルナ。魔法使いもいろいろな仕事があるのだな。

「そうだったな。本部は本部で、豊漁の時とか夏場は魔法使いが多く動員されるから手数料を高くとりたいわけだ」


「で、連中の狙いだが、本部に忍び込むってんだから、そいつらは漁協から依頼されたやつらの可能性が高い」

そういうとギースは酒を一口飲む。

「忍び込んで何するんですか?」

ベルナがたずねる。


「会議の資料、本部側が交渉で出そうとしている相場の情報じゃねえかな」

「そんな情報があるんですか?」

これはハルト。そういえば、ハルトとベルナは酒を飲んでないな。


「この会議に向けて、本部内でも商業組合やら輸送のなんとか組合との間で会議してまとまってるはずだから、議事録とかはあるはずだ」

これはギース。

「その会議を盗み聞きすればよさそうですけど」

ハルトがいう。

「たぶん、そのあたりは魔法使いが守ってるんですよ」

ベルナが説明する。

「そうなら、その議事録も魔法使いが守ってそうですけど」

ハルトがさらに指摘する。

「そうですけど、シイラちゃんの話だと忍び込む方も魔法使いがいるってことですから、何か方法があるのかもしれません」

なるほど。

「まあ、議事録なんてのは書類だから、金のようには厳重に管理されてないのかもな」

これはギース。そういうものなのか。盗むとか守るとかはなじみがないのでよくわからない。


「そうなら、ギルド本部に狙われるっていった方がいいんじゃないですか?」

ハルトはどうしても本部に連絡したいようだ。

「信じてもらえるかわからねえってのもあるが、どうせならその連中を捕まえて謝礼をもらいたいところだ」

ギースの場合、その謝礼は酒代に変わるがな。

「仮に失敗しても、会議が始まるまでに伝えればいいんだからな」


「なるほど。失敗したら次の日の会議が始まるまでにいえばいいってことですね」

ハルトもギースの意見に賛成のようだ。


「ああ。おれら3人、いや4人か、でやってみないか?」

ギースの提案に顔を見合わせるハルトとベルナ。私は賛成だな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ