大混乱とその後
松明を前の方に突き出すハルト。
「この動きはさっきと同じです! また操ってるやつがいるんでしょうか」
「さっき逃げたやつが仲間引き連れてきたのか」
ギースがいう。確かにその可能性はある。
「どうやらさっきの毒ムカデのようね」
リスタが剣で指し示す方を見ると、頭の部分と短い胴体の奴がいる。
「復活には半日程かかるからもう来ないと思ってたんだけど」
「まあ、尻尾の毒がないなら楽勝だ。おいハルト、今度は俺らでやるぞ」
「は、はい」
それじゃあ私は周りの大ムカデを相手するか。経験値300で鋼鉄の爪を獲得したし、400で何を獲得するのか楽しみだ。この数なら400まで行けるだろう。
まずは走り回っている大ムカデを何とかしないと親玉にはたどり着けない。ハルトとギースが剣を構えて一歩踏み出す。
一瞬大ムカデが動きが止まったと思ったら、方向を変えて一斉に一番前にいたハルトとギースに襲い掛かってきた。
「う、うわあ」
「な、なんだこいつら」
「む、向かってきた!」
「い、痛ってえ」
「こ、こっちにも来た」
「ま、また噛まれた」
「く、くっそー」
二人だけでなく、一斉に人間に向かってきた。武器を持っていないベルナを守ってやろうと体の向きを変えたところで、二匹が私にとびかかってきた。すかさず鋼鉄の爪で真っ二つにする。今後は最初から私も標的のようだ。数が多くて頭を狙っている暇がない。体が半分になっても頭のある方が襲ってくるので厄介だ。ベルナは杖を振り回しているが、魔法力とやらが尽きた状態では単なる棒でしかなく、せいぜい追い払うことしかできない。助けたいところだが、これでは近づけない。
「きゃあ、上から落ちてきた!」
「あ、足、足、登ってくる!」
「い、痛ええ!」
「ぎゃああああ」
「ちょちょっと、杖を振り回さないでよ」
「いたたた」
「うぉー」
「そ、そんなこといわれても」
「くそっ」
「そっち行った!」
「いったーい」
「う、上!」
「うわぁ、ちょっとこれ取ってください!」
「いってぇ!」
「うっぎゃあ」
「自分で何とかしろ!」
「この、この!」
「おい、気を付けろ!」
「上!」
「うわあ」
「松明!」
「あ、すみません」
「いてー!」
「暗くなってるぞ!」
「痛っ!」
「きゃあ」
「わわわ」
人間を助けるどころではない。松明の明かりを気にせず一斉に襲い掛かってきた。あたり一面大ムカデだらけだ。鋼鉄の爪のおかげで一撃で真っ二つにできるが、数が多すぎる。私もしっぽを何度か噛まれてしまった。確かにものすごく痛い。経験値はすでに600に近い。400、500を超えた際に何かを獲得したようだが、詳しく見てる暇がなかった。ただ、松明の明かりが暗くなったにしては、こいつらの動きがよく見えるようになった気がする。視力関連の能力を手に入れたのだろうか。この数からすると1000までいくかもしれない。ハルトらも何かの能力を獲得しているのだろうか。そうなら、とっととこの状況を解消できるような能力を獲得していてほしいんだが。
「きりがねえ!」
ギースが叫ぶ。
いつの間にか人間が一か所に集まっている。武器を持っていないベルナを中心に囲んで円状になっている。私もその輪の中に入ることにする。ムカデも攻撃してくることはなくなったが、我々を取り囲み集団でぐるぐると走り回っている。
「経験値はがっつり稼げただろう?」
ギースがハルトに問いかける。
「は、はい。350を超えて防御力と痛み耐性が強化されましたが、それでも噛まれると痛いです」
意外と少ないな。私の場合は主に攻撃の能力が強化されたが、守りの方の能力というのもあるのか。
「親玉を倒さないと止まらないわね」
これはリスタ。
「頭だけだと小さくて、どこにいるのかわからないですね」
ハルトがいう。
「薄暗いから余計にな」
いや。私には親玉がどこにいるのかが見える。
「みゃあ」
進もうとしている方向の天井のあたりにへばりついているよ、と伝えるが人間は私の言葉を解さない。前足で指し示しもしたが、人間は私の方を見てないようだ。まだ私の言葉を理解できる言語能力を獲得していないのかよ、人間は。
仕方ないな。私が群れに切り込んで親玉をあぶりだすか。ただその場合、大ムカデの集団が大混乱に陥って人間に襲い掛かるかもしれないが。
「あ、近づいてきました」
ハルトがいうように、ムカデの輪が小さくなってきた。襲ってくることは間違いないし、こいつらに先に攻撃させるよりは先に仕掛けたほうがいいだろう。
「みゃあ」
私が先に攻撃を仕掛ける、と伝え、まずは坑道の側面にジャンプ。
「あ!」
「わ!」
「え?」
「シイラ!」
「猫!」
壁を走ってるムカデ二匹を真っ二つにした後、すぐに足で壁を蹴って一気に親玉のいる大ムカデの集団に向かってジャンプ。
こっちに気づいた親玉が防御のために大ムカデを集結させ始める。そこらを走り回っていたやつらも一斉にその指示に従ったため、人間の周りのムカデが離れ始める。ジャンプした私はそのまま集団に突っ込む。鋼鉄の爪を振り回して蹴散らしていると、足元が開けたギースらも切り込んできた。
「そこか!」
「今だ!」
「はい!」
ハルトが振り回す剣が私の方に向かってきたので、慌てて鋼鉄の爪で防御する。
「あ、ごめん」
「おい、猫、どいてろ!」
ギースが叫ぶ。私が突破口を開いたというのにずいぶんだな。まあいい。
「みゃあ」
親玉は任せたと伝え、私は武器を持っていないベルナを守ることにするか。
ハルトとギースが大ムカデの塊に切り込むが、次々と集まってくるのでやはりきりがない。見ると、暗がりの横穴から次々と大ムカデが出てきている。横穴から出てくる奴らは私が相手してやるか。ベルナの近くには剣を持ったメルノラもいるし大丈夫だろう。
ムカデのいない壁を蹴って横穴の前に来ると、後ろ足で立ち両方の前足に鋼鉄の爪を延ばし振り回す。パンチの速度もこれまでよりも上がったような気がする。これも経験値獲得のおかげだろうか。大ムカデの増援がなければハルトらが親玉を何とかできるはずだ。
「ここにくぎ付けにするよ。また逃げられる」
リスタがいう。
「おう」
「はい!」
ギースとハルトらが集団の周りから少しずつ削っている。
「あ、見えた!」
ハルトが叫ぶ。見ると親玉を守る集団が少なくなっていて、時折黒と黄色の模様が見える。何とかなりそうだ。横穴の入口はちいさいので、前足を振り回していればここから出てくる奴はいない。ほかの横穴もあるが、この穴から出てくる奴が一番多い。メルノラも私の意図を解したのか、他の横穴から出てくる奴らを相手にしている。
「あ!」
「しまった!」
「おい!」
ハルトらの叫び声が聞こえる。見ると、親玉が集団から飛び出して壁を走っている。また横穴に逃げ込むつもりだ。そうはさせるか。壁を駆け上がり親玉に向かう。間に合うか。
「あー」
「くそ!」
「また横穴だ!」
が、すぐ近くの穴だったので飛び込むことにする。やはり暗闇での視力は上がっているようだ。逃げていく親玉が見える。動きはそれほど速くない。追いつける。後ろからなら毒をもつ牙に狙われることもない。
「シイラ!」
「猫!」
ハルトらの声が聞こえる。
いける。狭い横穴だが、前の方向にジャンプしてパンチ。
頭の部分は固く、鋼鉄の爪では引き裂けないがそれが功を奏した。頭に爪が引っかかった状態で手前に前足を掻き出すように振ったところ、こちらに引き寄せることになった。勢いがついているので、そのまま私の体の下を通して後ろに吹っ飛ばせた。
素早く振り返り追いかける。私から逃げるには元の坑道に戻るしかない。更に追いかけ出口付近で追いつく。ちょうど親玉が出口から飛び出したところでパンチが入った。今度はさっきよりも力を込めたからいけるはずだ。
親玉が分解する。やった。
また何かの能力を獲得したようだ。だが、ちょうど松明の火が目の前にきて読めなかった。
着地しようと体をひねろうとするがなんかおかしい。体がどうかなってしまったのか。
どうにか着地。ん? こ、これは?
「え?」
「シイラちゃん?」
「は?」
「これは..」
「猫、じゃねえ!」
「えー!」
後ろ足で立ち上がる。なぜかそれが自然な気がしたのだ。
前足を見る。これは。
「人間になってんじゃねえかよ!」
ギースが叫ぶ。




