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7 フィーとダンジョンに

 宿屋でフィーを落ち着かせて、改めてダンジョンに行くための用意を整え、武器や防具を装着してダンジョンへ向かう。すっかり昼を過ぎてしまい、あまり活動できる時間は長くない。


「今日は思ったよりも時間くってしまったし、短めにしよう」

「もうしわ――」

「そういうのは要らないよ」

「……はい、主様」


 少年や少女と言っていい見た目の冒険者たちがレガードとフィーが向かう同じ方向で歩いている。パーティーの雰囲気は明るいものも多いが、表情に影を持った人族や獣人もちらほらといる。エルフは主要な里のある南の森から遠いこの都市ではめったに見ることがない。雑貨屋で出会ったエルフが例外的だ。獣人自体もあまり人族が中心となっている王国の大都市に顔を見せることは少ない。

 この都市で人族以外のものは裏に何かしら抱えている者が多かった。


 この迷宮都市スビアーノにあるダンジョンは2つあり、一つはいまだに深層さえたどり着けない深さのあるダンジョン。

 そうしてもう一つはゴブリンとコボルトという過去の例からダンジョンにおいてスタンピードしやすい特性があるかわりに、特別な能力をほぼもたない弱い魔物が中心で深層へも到達積みのダンジョンだ。未攻略側は紫水晶ダンジョンとよばれ、もう一方はゴブコボダンジョンというなんとも言えない命名がされていた。


 ダンジョン初心者や若手、レベルが低い者などは主にゴブコボダンジョンを中心に活動していて、レベルが上った頃に紫水晶へ移行することが多い。

 レベルを上げるにはダンジョンに潜り、レベルにあった階層の魔物を討伐しなければ上がっていかないのだ。どれほど雑魚を狩ってもレベルは上がらないため、常に上を目指す冒険者達は死と隣合わせで居続けることになる。

 逆に一度自身が納得するレベルまであげて、小銭を稼ぎ続ける選択をすれば、下位の相手をし続けても問題はない。


「ゴブコボダンジョンで動きの確認をして今日は終わりだね。でも、これは混んでいそうだな」

「やはり2日もダンジョンに潜れなかった者が多いということですね」

「今日は依頼やクエストもなかったから魔石買取だけなのだろうけど、2日も狩り減らしがなかったのを考えると色をついて買取してもらえないだろうか」


 ダンジョンがぽっかり口を開けた入り口にはやはりというべきか、少年少女がガヤガヤと騒がしく集まっていた。

 その会話は雑貨屋で聞いたような昨日までの吹雪についてだが、彼らがその話だけを楽しまずにすぐにダンジョンに潜ろうとしているのは生活のための日銭稼ぎだろう。

 入り口へ順番が回ってきて、レガードとフィーは並んで前へ進む。階段を降りてめったに閉じない扉を抜ければ、そこはところどころ林を構成する広々とした草原が広がっていた。空は青空のような何かが作られているが、本当の太陽ではない。実際、ここでは夜になることはない。


 冒険者が苦労するのはこのダンジョン内で寝泊まりするような場合だ。深層含めてこのダンジョンは暗くならないため、寝るのに苦労するのだ。

 人数が詰まっているわけではないので背負っていた鞘を兼ねた薄手の箱から槍と棒と取り出す。槍は単体で見れば短槍と言われそうな長さをしており、金属製の棒はロングソード程度の長さという中途半端さだ。

 しかし、彼は両手にそれぞれ持つのではなく互いを連結する。互いの溝を連結して回せば魔術的に連結される。フィーも片手に短剣を装備して、軽く感触を確かめるように振るい問題がないとレガードへうなづくかたちで答えた。


「フィー行こうか。1層はすぐに抜けて5層で動くよ」

「はい、主様。人も多いのでゴブリンなどもあまり散開していないようです」


 フィーの誘導に従って5層まで進んでも、ゴブコボダンジョンの見た目は変わらず1層と同じような光景が広がっていた。同じく人は多いが、1層よりもましだ。フィーに索敵をまかせて、6層への入り口とは別方向を探っていく。さすがにフードを被ったままでは視界が狭まるため、フィーはフードを外し銀髪とその美貌を晒した。しかし、レガード以外がそれを見ることはない。

 緑色の肌に子供のような体躯のゴブリンが2匹、林から間抜けにも姿を現しレガードたちを見て声を上げた。棍棒ともいえない短い木の棒を振り回す。


「ギャギャギャ」

「フィー行くよ。水魔法で牽制、前衛は僕だから。指示を守ってくれ」

「はい、主様。大丈夫です! ウォーターボール!」


 突っ込んでくるゴブリンに対して、足止めをさせるための牽制の槍を振りそこへ更にフィーの魔法が飛ぶ。レベルが高いフィーの魔法であっさりと吹き飛ばされて、一匹が魔石だけを残して消えた。

 ダンジョンにいる魔物は基本的に魔石しか残さず消える。まれに素材になりそうな体の一部や手に持っている装備品などを残すこともあるが少ない事象だ。

 前のパーティー内ではとてもレベルが低いとは言え、紫水晶に通っていたレガードだ。

 槍が鋭く切り上げるように振られて、ゴブリンを斜めに両断する。断末魔もあげることなくゴブリンは魔石を残して姿を消した。


「このレベルだと手加減してる状態でも楽勝かな」

「主様もレベルがこのダンジョンと比べると高いので余裕でございますね」

「そうだね。流れとしては必ず僕が前、数が多かったり抑えきれなかったら牽制しつつ僕が囲まれないように動いて」

「承知いたしました!」


 本当に嬉しそうに答えるフィーに笑ってから、何度かゴブリンを倒していく。魔石を腰につけた小さな魔法袋に詰め込んでいく。

 スイカぐらいの大きさのウォーターボールは速度が少々遅い代わりに威力が高い。しかし、このレベルと牽制目的であれば、魔力の消費を抑えるためにフィーは手で掴めそうな大きさの水球を飛ばすウォーターショットを使用して動いていた。

 ほぼ時間差なくウォーターショットを撃ってゴブリンの足止めをし、そこへレガードが槍で穂先をぶつけるように突進をかける。一撃で片付くため索敵の時間のほうが長くなっていた。

 魔物のレベルも低いため、レガードも魔術を使う必要もない。

 フィーが胸元のポケットに入れていた魔法で動く時計を取り出す。魔導駆動の時計は本来一冒険者が持つには高価な代物だ。


「主様、もう夕方です。戻りましょう」

「もうそんな時間か。すぐに帰ろう。ありがとう、フィー」

「はい、主様のお役に立てて本当に嬉しいです」


 花が咲いたように嬉しげにフィーは笑みをうかべ頷いた。帰り道もフードをかぶるまで鼻歌さえ始めそうに見えた。人を避けるように進んで出口を兼ねた扉を抜けていく。

 外に出ればすっかり空は赤く染まっていた。ギルドはひどい人混みだろう。レガードは屋台で持ち帰りの食事を購入し、宿屋の部屋へと戻る。

 吹雪が終わった翌日だけでひどく疲れてしまい、食事を終えて椅子に座りながらぼんやりと明かりを見つめていた。


 フードを外しているフィーは彼が動かないので、同じように椅子に緊張した面持ちで座ったまま固まっている。今日のことを先程まで振り返って軽く話していたのだ。ダンジョンのことについて彼と彼女は軽快に話せたが、それより前のエルフに絡まれたことになると彼女は途端に固まってしまった。彼はそんなつもりはなかったと笑って謝罪する。そして、茶化すような言葉を投げかけた。


「フィーは良くモテるね。いろんな人がフィーと関わろうとする」

「主様、私はっ」

「ああ、大丈夫だよ、フィー。あの日、フィーに手を差し出した時から理解しているんだ。理解して、力がないから君を放置していた。でも、もう大丈夫。あのパーティーに長居をしすぎたよ。本当に長く待たせてごめんよ、フィー」

「いいえ、主様、私はあの日主様に確かに救われたのです」

「これから始まるんだ、共に。終わるその日まで」

「はい、その時まで私は主様と共におります」


 フィーの指輪にある宝石が彼女自身の魔力を吸って青白く光る。レガードは彼女の華奢な手を取り、その光が消えるまで手を握っていた。

 命を救ってくれたと彼女は何度も感謝を述べた。それにつけこんだのは彼自身であった。拾った者が想像よりも重いものだと理解できたのは、商人が隠し持っていたフィーの両親と思われる持ち物とエルフの里に関する噂を確認してからだった。



 ◇


 薄暗い部屋を通信の魔道具としてはめ込まれた水晶が赤い光をともし、部屋を赤く染めていた。長距離通信魔道具は巨大で持ち運びの出来なく、かつ適応した道具としか通信できず本来あまり活用はされない代物だ。王国の軍事用か、古来より続く大都市に存在する冒険者ギルドにある程度だろう。


「それはどういうことですか」

「1ヶ月もすれば国を越えて多くの者達の噂になるであろう。最南西にあった街が滅んだ」

「あの吹雪が原因でしょうか。いや、まさかあれが!? ただの異常気象ではなくっ」

「そうであろう。記録からもはや200年、書物にしか語らるものがいなかった事が実際に起きるとはな」

「我々の努力が……。しかし、事実かどうかエルフに探りを入れた方が良いでしょうか」

「やめておけ、200年前のことを鮮明に覚えているエルフなど堅物の年寄しかおらぬ。人族嫌いの輩と関わることになっては面倒だ」

「承知いたしました。私は如何にしましょう」

「南西にある街が滅んだのはとてつもない痛手だが、もともとあちらは不確定要素で偶然そうなっただけだ。本質は四秘境からの拡大よ。お前達は提案があった計画通りで良い。我々はじっくり進めるのだ。どうせいまさら邪魔するものなどいないのだから」

「遅滞なく遂行いたします。しかし、生き残りがいたのは……」

「気にするのはわかる。だが、200年も今更だ。つまるところ人が少ないのであろう。だからこそ我らは静かに進めればよい。そして、街には我々組織がいるのだから、奴らを見つけ次第対処すれば良い。奴らは目立つ。それでは任せた。それではな。レーナルカーダ神のために」

「レーナルカーダ神のために」

次話は明日18時更新予定です。

お読みいただきありがとうございます。

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