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6 追放されるという意味

 大通りの表にあるダンジョン探索専門向けの大型の雑貨店はひどく混雑していた。とくに回復用ポーション類と保存食だ。2日間の吹雪のせいで一斉に購入が殺到した形になっており、店の中はガヤガヤと騒がしい。

 そして、耳を傾ければ品物を見ながらも昨日の吹雪について意見を交わしているものも多かった。


「結局昨日一昨日のあれは何だったんだろうな。たまに降る雪は知ってたが、あんなのは初めてだぜ」

「俺はここよりさらに北の高い山の生まれだから一応知ってるが、今は秋だ。こんな時期にしかも平地で起こる現象じゃないね。もしかしたら魔物が何かやったのかもな」

「魔物ねー。ありえるのか?」

「趣味で読んでる本で巨大な魔物が雷雲を呼んだとさえ言ってたからね」

「なるほどねー」


 ちょいちょいと彼の服の袖がひっぱられて、そちらを見ればイリスフィーネが籠の中に入れたものを見せてきた。いまだ魔法袋に大量に入っている食料があるが、今のタイミングに買わないと怪しまれるため建前の保存食がいくつかと、魔ランプの予備、調理用の火を維持するための燃料や雑貨類だ。ポーションの類いはレガードもそちらを見れば激戦区のため早々に諦めたのだろう。


「構わない。じゃあ、これでよろしく」

「はい、主様」


 いそいそとカウンターへ向かった彼女を見送り、比較的空いた状態の雑貨の棚で品物を手に取り見る。あれば便利だが持ち運ぶには邪魔なアイテムや、些細な利便性に反して高額すぎる道具などを見て回ってる間に支払いを終えたイリスフィーネが彼の傍へ戻ってきた。

 嬉しげに行きましょうと告げた彼女に頷いて歩いて出入り口に近づいたところで、彼女は油断していた。


「あんた、顔を見せな」


 一人のエルフの女性がイリスフィーネに立ちはだかって声をかける。白い肌、金髪に翡翠色の瞳、そして特徴的な耳。彼女はイリスフィーネのフードに手をかけて、イリスフィーネは抵抗してフードを抑える。

 人に押されて壁の端に寄ったところで、彼はエルフの女性に手首を掴んでにらみつけた。しかし、その首元につけられた冒険者タグが金色なのを見て舌打ちをした。冒険者タグの色で冒険者の等級を表している。フィーであれば銀級として銀色をしており、レガードは銅だ。金は冒険者等級で言えば、上位から3番目となる。銀と金の間には明確な違いが有り、罰則などで処罰されるのも金級の場合は留保があり処罰の正当性の確認があるほどだ。

 無闇矢鱈に金級の行動の邪魔をすれば、火の粉が飛んでくるのは自分たちになりかねないことにレガードは舌打ちした。


「金級の冒険者が何のようですか」

「私はこいつに用がある。フードを目深にかぶって怪しいからね」

「彼女は僕の連れです。気にしないでください」


 しかし、彼女は問答など始めからする気がなかった。フードが取られる。イリスフィーネは嫌がるように耳を隠した。レガードはすぐにフードを被せ直すが、エルフの女性には十分すぎる時間、目の前に頭全体がさらされた。だからこそ、エルフの女性はそれ以上フィーの顔を露わにするという行いはしなかった。かわりというように冷たい目で、刺すような声をフィーへ向ける。


「ふん。あんた、弓を使ったら必ず私が討ち取ってやる。使ってないだろうね」

「承知しております。私は短剣と水魔法だけです」

「それなら良い。エルフならば約定を違えるな」

「承知しております」

「名前と里は」

「今はただのフィーでございます」


 弱々しい声で答えるイリスフィーネを背中に隠すようにレガードはエルフの女性の前に立ち、怒りでにらみつけた。しかし、そんな人族の睨み。しかも銅級タグを付けた人間に興味がさらさらないのか、頭ごなしに会話を続ける。


「追放でさらに名まで捨てられたと?」

「いいえ、名を捨てたのは今の主様との生活のため」

「ちっ、ならばどこの里かも言わないか。まあいい」


 イリスフィーネの回答が気に食わなかったのか、エルフは舌打ちをしてから、しかし追求すること無く、もう一度「約定を違えるな」と念押しして雑貨店の棚へと向かっていった。本来、エルフはエルフと顔を合わせた場合、求められれば名前と里名を名乗るものだ。だが、フィーは追放された身だ。積極的に里名を名乗ることはありえない。だからこそ、彼女はフィーが誤魔化すのを許容した。代わりに、約定を守れと強く警告したのだ。

 レガードはめったに合わないエルフの、しかも気の強そうな冒険者に出くわした不運に内心でため息をついた。


「行こう」

「申し訳ありませんっ、主様」


 彼女の手を掴んで、足早に彼は一度宿屋に戻ろうと進みだした。震えて何度も謝罪を繰り返すフィーをいますぐダンジョンに潜ろうなどと言うほど彼も冷たい人間ではない。万全な状態で挑んでもらいたい。

不運は重なるものかなと、なんとか自身を納得させて彼女に何度も大丈夫だと声をかけた。


 ◇


 雑貨屋の棚で品を見て回る金級のタグを付けた身なりの良い男の冒険者が、傍に合流した仲間のエルフにたずねた。


「何かしてたのか、クレオネーラ」

「ふん、追放エルフが居たから釘を差しておいただけよ。里から追い出されただけで済んでいるくせに、監視が無いと思って弓の使用を禁ずる、風魔法の仕様を禁ずるといった約定を違えるやつがいるからね」

「ああ、なるほど。顔は美人だった? おっと、エルフに聞くのは必要のないことだったね」

「女好きめ。追放エルフを囲ったらまずお前の手を切り落とすからね」

「おー、怖い怖い。追放エルフには関わらないのが一番ってわかってるよ。彼らと関わると碌な事がなかったからね」

「追放されるのには理由があるのさ。あんな若いのは珍しかったが」

「ま、もう関わらないだろうしとりあえず買い物を終わらせてギルドで打ち合わせをしよう。僕らも本来は潜る予定が2日も遅れたからね。この街の領主とギルド会長もお怒りさ」

「面倒くさいな。足止めされたのは私達のせいじゃないのに」


 そういって彼らも周りにいる冒険者のように棚へと向き直って必要な品に手を伸ばしだした。



樹人(エルフ)たちは人族へ告げた。汝らが信ずる神は森を花草木を滅ぼす者なり。人族が北の山脈に住みし神を名乗るモノを信ずるのであれば、我らは大陸の人族を滅ぼすであろう』


次話は明日18時更新予定です。

お読みいただきありがとうございます。

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