23 ヤックたちの贅沢な冒険者稼業
◇赤に鳴く鳥ヤック視点
「いねええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
「どこだおらああああああああああああああああああああああああああああ」
レガードたちが居ると言われていた泉の傍で、ヤックとルドッカの怒号が森の木々を乱雑に揺らした。エルミはうるさそうに耳をふさぎ、動きにくそうな服装をしたヴィルヘはぬかるんだ道を進んだことで汚れた自身の服をみてげんなりしている。
とっくにレガードたちは街へ移動中、完全にすれ違った形だがヤックたちがそれらを知る由もない。
「やべえやべえやべえ。前金ありの領主からの依頼だぞ!? ルドッカ、お前レンジャーならなんであいつら見つけられてねーんだよ!」
「俺はちゃーんと探してましたああああああああああ。あの道を誰も通ってねーんだよ、仕方ねーだろ! あの道を通ったらあいつらとすれ違うはずだって決めたのはヤックだろうがああああああああああああああ!」
「うるせえええええ! は、はやく街へ戻るぞ!!!! 森を突っ切るしかねえ!!!」
「えー、私これ以上服汚したくなーい」
「私もこれ以上服を洗う手間が増えるのは勘弁願いたいですね」
エルミとヴィルへから不満が上がる。ヤックは2人のあまりの危機感のなさに驚愕していた。貴族はあっさりと首を落とすのだ。ヤックにだって冒険者が騎士の出頭に応じず首を落とされるショーを観覧したことがある。あの時はあざ笑う側だった。自分はそんなミスなどしないと自信があった。だが、今の状況はどうだ。貴族直々の依頼だ。
「うるさいうるさいうるさい! まじやべーんだって。なんでそんな危機感ねーんだよ!? 貴族からの依頼を失敗するとか、都市にいられなくなるじゃねーか!?」
「とりあえず街に戻る。不味そうなら違う領の街、行く。貴族仲が悪いから貴族の追求はなくなる。冒険者ギルドは、謝る?」
エルミのその言葉にハッとさせられた。ヤックは騒ぎ立てていたルドッカと顔を合わせる。
「所詮今の拠点は借家だ。冒険者ギルドは所詮取次、今イケイケの俺たち赤に鳴く鳥が一回ミスした程度で重い罰なんてしないだろ。そもそもレガードたちがここに居るはずだって言ったのはギルド側だからな!」
「なるほどな。確かに俺達はあいつらの情報通りにここへ来た。だが、お尋ね者達は居なかった。よく聞く話だぁ」
「よし、とりあえず森の中をつっきって戻るぞ!」
ヤックの掛け声にエルミとヴィルへは嫌な顔をして、だが、早く帰りたいので拒否はしなかった。そして、街へ向かう途中。
「む、臭いな」
「ルドッカさんは汚いですね」
「ち、ちげーよ! ほらほら、なんか血なまぐさいというか、変な匂いするだろ?」
「いやいや、待てよ。早く街に戻らねーと!」
ヤックの静止を振り切って、ルドッカがきょろきょろと森を見渡して、わかったと言った具合にある方向へ足を進めた。その先に広がっていた光景をみてヤックが歓喜の声を上げる。
「うおおおおおおおおお、下位素材とはいえウォータードラゴンの死骸が大量にあるじゃねーか! なんだなんだ俺たちゃ運があるな!」
「爪、牙が無事。これは単純に素材として少しでも高く買ってくれるから、かなり稼げる」
「おおおおおおっし! 俺の勘は今日も冴えてるみたいだな!」
その帰り道、打ち捨てられた新鮮なウォータードラゴンの死骸をお土産代わりに報酬が高くなる牙や爪などを必死に集めてから彼らはスピアーノへ帰還して、街の様子に驚愕した。
そして、彼らはすぐさま行動に移す。借家にある私財を馬車に乗せるだけ乗せた馬車が小走りに城門を越えた。人手が少ないのか彼らを止めるものはいない。
せいせいしたようにルドッカが街道上でスピアーノの城壁を振り返る。
「へ、スピアーノか、いい街だったぜ」
「あんなことになってるとはな。だが、それで依頼がうやむやになって助かったぜ。連中、大忙しだとよ」
「結構住みやすかった、でも、命、大事」
「私は後ほど教会に申請を出せばどの街にいようと問題ないので構いませんが、良いダンジョンで金とレベルを上げたいですね」
「王都はやばいってよく聞くし、なら選ぶ場所は一択だな。お前ら、俺達の冒険はこれからだ! 行くぞ!」
馬が手荒に扱われて不満げないななきをあげる。そんな不満を無視したヤックたちは一路スピアーノと縁遠い王国南東にある水牢神殿ダンジョンを持つ迷宮都市に向けて出発したのだ。
それはレガード達が屋敷へ連れられて3日後のことだった。
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