16 北東の森と従魔
朝になり、街を足早に後にする。街を守るように囲む城壁についた門の傍に立つ兵士のやる気は低く、フィーが一時的にフードを外していけば何も言わずに彼らを素通りさせた。
北の方角に続く街道を進み途中で人が通った事で出来上がった小道へと朝日が森の木々を照らしていた。
迷宮都市スピアーノの北に位置する魔物が生息する広大な森だ。この最奥に何があるのか知る物は居ない。今回採取に向かうルソラ草も、人間が踏み込める奥なだけであり、森の中域レベルだ。
レガードは周りを探り、他の冒険者を探す。ポーションの打ち止めのためか、通常であれば1パーティーぐらいは追加で居るが、今日はレガードたち以外誰も居ない。
安堵してレガードは、フィーへ念押しする。
「フィー、僕は従魔がいるんだ。夜の監視などを従魔に任せられる。だから、大丈夫」
「従魔、ですか? ……あまり覚えがありませんが、そのようなことも主様はできるのですね!」
少々怪訝な顔をしてからフィーがごまかすように笑顔になる。
レガードはそれらを無視して、ゆっくりと魔力を練り、通常であれば魔術紋に流れるそれらを意識して左手首につけたバングルの青い宝石に吸わせていく。バングルの宝石の中にくるくると魔法陣が回り、注がれる魔力によって加速していく。
いつもなら魔力を注いで名を呼べばいいだけだが、魔術であると証明するようにレガードは最初に教わった詠唱を紡いだ。
「名を交わし浚え 白き山の鐘鳴り響き 青き羽を讃え給う
汝の名、メドリア」
それまで青い宝石の中にだけ存在していた魔法陣があたかも宙へ転写されるように展開する。青白く光るそれは、あたかも空の色を内包した眩しさをもって、彼らの前に顕現する。
鳥のような鳴き声が響き、翼の羽ばたきが力強くなる。鷲の頭と首を持ち、前足はあたかも鳥のような姿をしているが、後ろ姿は獅子の姿を持った生物がそこにいた。
人の身よりも小さい青い羽毛と毛を持ったグリフォンが、悠然と彼らを見下ろした。青い瞳がイリスフィーネを値踏みするように見つめる。
大型犬ほどの大きさのグリフォンがぐるぐるとフィーの周回を観察するように飛び回った。しかし、フィーの内心は疑問でいっぱいだった。彼女の記憶ではこのような獣はみた覚えがない。
「これは……獣?」
「フィーこの子は精霊だよ。グリフォンと言われる種族で名前はメドリア」
「グリフォン、精霊……ですか? 主様、精霊魔法はエルフの専門魔法と思っています。精霊ならシルフではないでしょうか?」
「世界にはまだ知らない魔法がたくさんあるんだ。僕の実家だとグリフォンが精霊だったね。そして、フィーの指輪についてる宝石が今使った魔法に使う触媒だ」
笑顔でそう押し切られてしまえば、フィーもレガードの意見に異を唱えるつもりはさらさらなかった。代わりにフィーはしげしげと自身の手につけられた指輪を見つめる。
青い宝石は太陽の光を受けて光るだけでレガードのバングルの宝石のような輝きは無い。
「まだ教えるには魔力がその宝石になれていないから、少し後だね。とりあえず森の奥へ進もうか」
「エルフの精霊魔法との違いが気になりますので、なるべく早く知りたいです主様」
「フィーは博識だから、フィーの知識と比較すると面白いことがわかるかもしれないね」
レガードは浮遊しているグリフォンの頭をなでる。グリフォンは嬉々として鳴き声をあげて、嬉しげに翼を羽ばたかせた。魔術的な力で浮かんでいるらしく、その翼の羽ばたきはゆったりとして虫が飛び回るような羽の動きは全くしていない。
ともすれば滑るように宙を動いていく様は、魔術的な力だと誰がみてもわかる動きをしていた。フィーが観察するようにグリフォンを眺めているのを、レガードが索敵をお願いするためにフィーに声をかける。
フィーが促されて索敵をしながら歩き出せばグリフォンも木々の間を器用に飛んでついてきた。
緑と枯葉色に染まっている森の中で、グリフォンの青を基調とした色はひどく浮いていた。
レガードたちへ近寄ってくる獣型の魔獣に対して、グリフォンが誰よりも早く飛び出し、その前足にある鋭い爪と尖った氷柱を飛ばして魔獣たちを倒していく。
「しかし、ズタズタですね……。魔法袋に入れられる素材が全くありません」
「まー、仕方ないかな。もっと奥の魔獣だけはメドリアに注意して素材をいくらか取れるようにしてもらうよ」
嬉しそうに自慢気に飛び回るグリフォンが倒した魔獣たちは爪に切り裂かれ氷柱によって穴まであけられており、毛皮や肉として見た時はあまりにも素材としてはボロボロだった。牙なども氷柱がきれいに潰している徹底ぶりだ。
苦笑しつつ2人と1匹は森の中は順調に進んでいく。
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