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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

華の狼

作者: 白梅

(※BL小説の派生話のため、ほんのりBL要素があります。苦手な方はご注意くださいませ。)


簡単な登場人物紹介

国王:ルノ、王妃:サイ、ルノの側近:ギルバート

王子:イル、王女:リーシャ、リーシャの従者:バハル


遠い、遠い東の果てに『イーシュ』という大きな国がある。国は栄え、国民に笑顔が絶えず、とても幸せな国だそうだ。自ら戦場に赴き剣を振るい、国の安寧得た父に憧れ、兄を守るため強くなることを決めた王女。国王に拾われ王女の剣の師となった少年。2人の出会いから10年後。一国の王女とその従者。彼らの行く末は―――。




『きれい…』


 白く小さな手が伸びてくる。

いつもなら触れられるのは苦手で距離をとるが、目の前にある紫の瞳があまりにも綺麗で体が動かない。


『わたしはリーシャ。あなたは?』

『……バハル』

『バハル。わたしの綺麗なバハル』




***




 あの日、俺を抱きしめてくれた小さな存在は誰もが見惚れる人になった。

 ルノ様譲りの白銀の髪に、紫の瞳。サイ様に教えてもらった。姫さんのあの綺麗な目の色はアメジストという宝石にそっくりらしい。ただでさえ存在するだけで美しいのに、あの細腕から繰り出される剣の腕だ。嫁ぐことのできる16になれば是非我が国に、我が家にという声を散々聞いてきた。

 国王であるルノ様に拾われ、姫さんの剣の師として10年。姫さんがあの妹バカ王子を護る剣になるために、毎日剣を教えてきた。


『リーシャ殿下だ』

『今日もお美しい』


 14になった姫さんは、そこら辺の軍人より強くなった。姫さんが軍の訓練に混ざるようになってから1年以上。姫さんが新人に剣を教えるほど強くなった今、俺がこの城にいる理由はなくなったも同然だ。

 師はもう必要ないから城を出ると報告しに行ったら、普段あまり表情の変わらないルノ様が目を丸くさせるから、こっちの方が驚いた。あの時は『久しぶりに話をしに来たと思えば何を言っているんだ』と笑顔で凄んできたルノ様の側近・ギルさんの迫力に負け、俺の話は聞かなかったことにされた。

 以前の様に付きっきりで剣を教えることはなくなったが、替わりに姫さんの訓練後の復習に付き合うようになった。その間は暇だからと、なぜか朝から姫さんの訓練終わりまでギルさんの補佐をさせられている。俺みたいな雇われ護衛がこんな国家文書なんて触っていいのかと思いながら、毎日いろんな部署に足を運んでいるわけだが。


『番犬め』

『なぜあのような異国民がリーシャ殿下の側に』


 そろそろ訓練が終わる。俺は訓練場に姫さんを迎えに向かっていた。妹バカにも姫さんに群がる軍人たちへの抑止をしろと言われているので、言葉の通り『番犬』だ。姫さんと一緒にいるときは流石にないが、独りで城内を歩けばどうしても陰口を叩かれる。

 皆、透けるように白い肌をしたこの国では俺の肌の色は目立つ。国王がルノ様になるまでは、俺の肌の色はこの国では奴隷の証だったから。戦地で俺を身籠り、この国で俺を産んだ母もまた肌の色で蔑まれた。今は国境付近で暮らしているだろう母を思い浮かべていれば、慣れ親しんだ気配が近くに来た。


 ―――そして、もう1つ。最近よく現れる、明らかに俺に敵対心を持った気配。


「バハ「リーシャ様」…」


 姫さんの言葉が聞こえてないふりをして親しそうに姫さんのことを呼んだのは、海を挟んだ北の大国の王子。5日後に開かれる姫さんの誕生パーティーに、海が荒れたら大変だとか何とか言って、2日前から前乗りして来ているらしい。


「稽古にお付き合いさせていただいても?」

「…えぇ」

「では行きましょうか」


 表情には出してないけど、姫さん嫌そうだな。

名前…なんだっか…ヨ…ヨグニス王子は勝ち誇った顔で姫さんのエスコートをして別の訓練場に向かっていった。

 やることがなくなった俺は、城の離宮の奥に向かって進む。この国のもう一人の陛下であるサイ様は生まれつき目の色素が薄い。自然に囲まれることを好まれても、日の光を眩しがるサイ様のためにルノ様が温室を作ったらしい。背の高い木が多く、日の光が程よく遮られる温室は、日中でも日の出前くらいの薄明るさだ。ルノ様も俺がサイ様の近くにいれば安心らしく、ここに来ることは咎められなかった。


「お疲れ様です、バハル」


 見張りの兵に挨拶をして温室へ入れば、サイ様が柔らかい笑顔で迎えてくれた。植物や土の匂いに混じって紅茶のいい匂いがする。

 サイ様は敵国だったウェーデの王子だった。ここイーシュでは正妃に他国の王子が収まることは何度かあったらしい。政治はよく分からないが国同士が繋がった事実があればいいからだそうだ。

 魔鉱なんてものがあるこの国には秘薬というものがあり、それを飲めば男でも子供が産めるらしい。歴代で実践した王子はサイ様とあと1人しかいないそうだが。

 何を話すわけでもなく暖かい紅茶と適度な気温にまどろんでいれば、唐突にサイ様が口を開いた。


「あなたたちにも困ったものです。長く一緒にいますからね。どうしても言葉が少なくなってしまうのは分かりますが…。リーシャは良くも悪くもルノ様にそっくりですし」


 サイ様の言葉が意味深すぎて、俺の頭の上には疑問符が浮かんでいたが、なぜかサイ様はどこか楽しそうだった。




***




 夜勤の兵以外が寝静まった頃、人の気配に目が覚めた。それが誰か検討はつく。ゆっくりと目を開ければ予想通りの顔が間近にあった。


「………姫さん」


 これは姫さんの癖みたいなもんだ。嫌なことがあった日は、夜中に俺の部屋に忍び込んで俺の目を見に来る。ここ数年はなかった。


 ―――狼みたいな金色の目より、自分の紫の目の方がよっぽど綺麗なのに…。


 別に見られるくらい何ともないから好きにさせていれば、姫さんが小さい頃はそのまま寝落ちして一緒に目覚めることもよくあった。妹バカ王子に見つかって1週間の接触禁止令を出されて以来、満足したら部屋に戻るようになったけど。姫さんは俺が目を開けたことで満足したのか、何も言わずにそっと部屋を出て行った。




***




 結局、あれから姫さんと剣を交えることはなく姫さんの誕生パーティーの日が来た。あの夜以来、姫さんとまともに顔も合わせていない。

 10年経った今でもこういう場に俺は場違いだと思う。何故かルノ様もサイ様もギルさんでさえ、パーティーに出ないという選択肢は与えてくれなかった。サイ様に至っては、要所要所であたかも俺を自分の息子のように紹介するから本当に困る。

 こういった大きなパーティーは様々な国の人間が集まる。俺の肌の色が独り違う訳ではないが、やはり浮くらしく、姫さんが見える部屋の端で控えていても様々な視線が突き刺さる。視線の多さに鬱陶しさを感じていれば、妹バカがダンスの輪から抜け、こちらに向かってきた。


「おい狼。番犬の務めはどうした」


 いつも周りに見せる愛想の良さも俺に対する時には微塵の欠片もない。番犬の務めと言われても、姫さんは他国の王子たちに囲まれてダンスの申し出を受けている最中だ。いくら虫除けをしろって指示でも、これは虫扱いしていい時じゃないだろ。


「あぁ、あんなに下心丸出しの奴らに囲まれて」

「イル様っ!」

「シグル…もう来たか」

「リーシャ様と最近話せていないからと、バハル様にあたるのも大概にしてくださ……い?…なぜでしょう…皆様がこちらを注目していらっしゃる気がするのですが…」


 バカ王子が寄ってきたことで視線が増えたことには気が付いていたが、それにしてもこれは視線の量が多すぎる。その中に慣れ親しんだ視線があることに気づき、姫さんの方を向けば、がっちりと紫の瞳と視線が合わさった。

 …なんだ?姫さんはいつもの調子だが、姫さんを囲っている王子たちからの視線が明らかに痛い。


「―――バハル」


 ルノ様もバカ王子もそうだが、それが上に立つ者の証と言わんばかりの凛とした声で姫さんが俺を呼ぶ。

 既に会場内は静まりかえり、俺が姫さんのところに行くまで、ブーツの靴底が床を鳴らす音だけがやけに大きく響いた。いつものように姫さんの斜め後ろに控えれば、北の王子が最近もう見慣れた勝ち誇った顔で俺を見下してくる。


「よろしいですか、陛下!」

「許そう」


 ルノ様が珍しく楽しそうな顔をしている。…嫌な予感しかしない。


「先ほどリーシャ様が、私の狼より強い人でないと嫁がないと仰った。それならばと、ヨグニス王子が狼に勝てば婚約を認めてくださるのかとルノ様に打診されてな。お前は今からリーシャ様の婚約者候補の王子たちと戦うんだぞ?」


 …は?姫さんは何とんでもないこと言ってるんだ。ギルさんも説明してくれるのはいいけど、人の切羽詰まった状況を楽しんでるだろう。


「バハル。欲しいものは欲しいと言いなさい。あなたにはそれに相応しい力がある」


 …サイ様。俺は姫さんに捨てられるのが怖いんですよ。いつか俺がいらなくなる日が来るんだろうってずっと怯えています。だから、捨てられる前に逃げようと思ったのに…。

 目の前にいる姫さんは俺の方を見ない。小さな背中には不安も怯えも何も感じない。いつもの凛とした雰囲気のままだ。


「どうぞお手柔らかに?」


 ヨグニス王子は代理はかなり大柄な男だった。俺の2倍は太さがありそうな腕を前で組み、ニヤニヤとこちらを見下ろしてくる。俺が腰から細身の長剣を抜けば、男の笑みが一層深まった。そりゃそうだ。姫さんがこの剣を扱うのには何の違和感もないが、俺が持てはかなり弱々しさを感じさせる細さだ。目の前の男は自慢げに立派な大剣を引き抜いた。


「両者、前へ」


 大きなパーティー会場に、俺たちを中心に護衛兵、そして来賓たちが輪を作る。あちこちから嘲笑うような視線が突き刺さる中、ギルさんの言葉で前へ出る。姫さんの横を通り過ぎる時にちらりと見れば、姫さんも俺の方を見ていたのか、しっかりと目が合った。早く終わらせて来なさいとでも言いたそうな、この状況が心底鬱陶しそうな目に小さく笑みがこぼれる。…ご期待に応えないとですかね。


「始め!」


 ギルさんの掛け声と同時に目の前の男が俺に向かって飛び込んでくる。体格の割には初動が速い。俺は全身から無駄な力を抜くように軽く息を吐く。寸前にまで迫った男が、大剣を振り降ろす。俺はぐっと体勢を低くし、腰元に構えた剣を握る手に力を込める。体が伸びあがる勢いに任せ剣を振り上げれば、細い剣身がしなっているのが分かった。


 ―――あぁ、久しぶりの感覚だ。



キィン―――!!!



「は…?」


 金属同士がぶつかる音が響くと、つい先ほどまでざわついていたパーティー会場が静まりかえった。目の前の大男でさえ何が起こったか分からないらしく、俺を凝視したまま呆けている。

 すぐにガシャっと金属が床にぶつかる音がし、男が慌てて振り返った。そこには先ほどまで男が握りしめていた大剣が落ちている。まあ、俺が弾き飛ばしたんだが。

 素早く剣を鞘に納め、剣を拾おうと駆けだそうとした男の背中に指先を当てた。それだけで、ピタリと男の動きが止まる。


「そこまで!」


 ギルさんの言葉で男の背中から指を離せば、男は膝から崩れ落ちた。これが戦場なら男は俺に命を奪われていた。戦場に出ている人間なら死の恐怖は嫌というほど味わってきているだろうから。

 一気にざわつきの戻った会場で、各国の王子たちがそれぞれの顔色をうかがい始めた。ヨグニス王子は自分の代理が負けたことがまだ信じられないのか、放心状態だ。


「勝者!バハル・アトレイ!」


 ギルさんが、わざと俺の性を言ったことで一部のざわめきが一層大きくなる。若い王子や貴族たちは分からない様子だが、各国の王や側近、護衛たちに動揺が広がる。


『アトレイ…』

『まさか、あの…』

『細い長剣は…』


「他に狼に挑まれる方は?今はいらっしゃらなくとも決闘はいつでもお受け致しますので。それでは、皆様引き続きお楽しみくださいませ」


 ギルさんの言葉で音楽が再開する。再びダンスの輪が広がり、つい先ほどまでの切迫した緊張感はなくなった。突き刺さる視線を無視して、会場の端にいる姫さんの元へ戻ろうと踵を返せば、嫌でも覚えている視線を感じ足を早める。


「陛下、陛下。もう、あいつ抱きしめに行っちゃっていい?」

「ほどほどにな」


 ざわめきに混じって聞こえた、聞き覚えのある声にぴくりと俺の肩が上がる。近寄ってきた気配から逃げようとしたが一足遅く、背後から思い切り抱きしめられた。


「会いたかったぞー!ますますアンジェに似てきて」

「……」


 何の躊躇もなく無精ひげの生えた顔で頬ずりされる。…鬱陶しい。声を荒らげようとした瞬間、誰かにぐいっと腕を引っ張られた。


「お?」

「?」


 後ろを見れば、引っ張った誰かの正体だったらしい姫さんの眉間に珍しく皺が寄っている。俺に頬ずりしていたのが誰か分からないんだろう。姫さんの警戒の仕様がものすごい。一応、正装はしてるけど、無精ひげ生えてるし、誰が見ても怪しいからな。


「…可愛いっ!陛下!姫さんも抱きしめていい?」

「ダメに決まっているっ!狼、何をやっている!あれほど番犬の務めを果たせとっ!」


 俺と姫さんの前に妹バカが立ち塞がる。

 …なんだこの茶番は。とんでもなく目立っている。端にいても目立っている。ギルさん達も笑いを堪えるくらいなら助けてくださいよ…。


「うーわ。あのチビがここまででかくなったか。口うるさい兄ちゃんは嫌われるぞ?」

「カルバさん。久しぶりで嬉しいのは分かりますが、その辺りで」


 やっとサイ様が助け舟を出してくれたと思ったら、サイ様から発せられた名前を聞いた姫さんとバカ王子の反応があからさまに変わった。


「カルバ…?まさかカルバ・アトレイ?」

「あぁ。お前は小さいころに会っているが覚えていないか。バハルがうろ覚えなくらいだしな」


 そんなまさかという様に驚いた顔で呟いたバカ王子にルノ様が答える。小さいころにバカ王子とは会ってるけど、あのサイ様の腕に抱かれて寝ていた可愛い子供がこんな風に成長するなんて誰が想像できただろうか。


『カルバ・アトレイだ』

『東の鋭針…』

『やはりあの狼は…』


 これだけ騒いでいれば俺が誰だか分かったようでダンスをしている人でさえ、ちらちらとこちらを見てくる。


「婚約発表はいつにしましょうか」

「は、母上!?」

「今でもいいんだがな。パーティーの間は他の王子たちにもチャンスを与えるか」

「父上まで!」


 からかい交じりの両陛下にバカ王子が敬称を忘れるくらい困惑しきっている。


「本当に俺の息子が陛下の息子になるんですねー」

「不服か?」

「まさか。弟みたいだった陛下と本当の家族になれるんだなーと」

「そうやって私を子ども扱いするのは、今も昔もお前くらいだ」


 慌てるバカ王子と、俺と姫さんを置いてどんどん話が進んでいく。

 …俺はどうすればいい。さっきの試合だって負けることはできた。姫さんのことを思えば負けるべきだったのかもしれない。でも…俺は最後に欲しがった。姫さんとの未来を望んでしまった。ルノ様もサイ様もこんな俺を姫さんの婚約者に相応しいとこの国の貴族や他国に知らせるために元国軍隊長の親父を連れてきてくれたんだろう。


「バハル。わたしの綺麗なバハル」


 ぐるぐると頭で考えていれば、すぅっと白い指先が俺の頬に伸びてくる。


 ―――やっぱり姫さんの瞳は綺麗だ…。


「あなたのこれからを私にくれる?」


 アメジストの瞳がほんの少し揺れている。

 なにを不安そうにしているのか。俺もなぜ不安になっていたんだろうか。あの小さな手が俺の頬に触れた時から、あの綺麗なアメジストの瞳に俺の目が映った時から、俺の身も心も姫さんのもんになったのに。


「俺は…あの時から姫さんのもんですよ」


 ふっと花の蕾が綻ぶように笑う姫さんがあまりにも綺麗で、つられて俺の口元も緩む。姫さんに引かれるがまま、俺たちはダンスの輪の中へ入っていった。




後日談



「やっとですね」

「そうだな。バハルが城を出ると言ってきた時は驚いたが」


 愛おしそうに踊る2人を見るサイの肩をルノはそっと抱く。


「バハルもリーシャ様も口下手ですからね。それでも遅かれ早かれこうなりましたよ。リーシャ様は陛下そっくりですから」

「ギルバート、どういうことだ?」

「バハルと初めて会った時のリーシャ様、サイ様と出会った時のルノ様と同じ目をしていましたから」


 ルノは不思議そうにギルバートを見るが、言葉の意味が分かったサイは顔を赤くした。


「サイ様から話を聞いたときは驚きましたよー。リーシャはバハルを離さないと思います、すみませんって。アンジェと喜んでいいのかわからず困りました。でも、たまに帰ってきて姫さんの話をするあいつを見てたら納得できましたよ。これが運命ってやつなんですかね」


 全員が満足そうに踊るバハルとリーシャを見る中、イルだけは表情をこわばらせていた。


「どうした、イル」

「い、いえなんで「俺のこと紹介してくれないの?」っ!?」


 ルノに問われ、慌てて否定するイル。その言葉を遮った背の高い男は、悪戯っ子のような言い方をしながらも、愛おしそうにイルを後ろから抱きしめる。


「やはりか」

「父上!?」

「やっと紹介してくれましたね」

「母上!?…し、失礼しますっ!レイ、来い!」


 満足気な両親をよそに、イルはいきなり現れた男を強引に引っ張りパーティー会場を慌てて後にする。


「姫さん、姫さん。バカ王子が大変なことになってるけど」

「いいの。兄様の悪足掻きも、もう終わらせないと」

「…姫さん」

「なに?」

「あいつここに呼んだの姫さん?」


 普段はあまり笑わないリーシャが、有無を言わせない笑顔でバハルを見上げる。

 

 ―――これ以上は察しろってことか。十九八九姫さんとギルさんの仕業だな。

 …サイ様。姫さんはルノ様にそっくりって言ってましたけど、十分サイ様にもそっくりですよ。


 そんなことを思いながら、バハルは腕の中の愛しい存在をより強く抱きしめるのだった。



*****

ここまでお読みいただきありがとうございました。

 カルバ・アトレイはルノと共に戦場で戦い、イーシュの安寧に貢献したことで公爵デューク位を賜りました。身分差があったことと、妻であるアンジェの希望でバハルは庶子として育てられます。爵位を得てから20年間、カルバは決して正妻を迎えようとはせず、頃合いを見てアンジェとバハルを公爵家に迎える予定でした。

 バハルはイルの1歳年上、リーシャとは6歳差の設定です。彼らの両親、ルノとサイのなれそめ。最後に出てきたレイの正体はまた別のお話で。

*****

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