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旦那に買い物を頼んだら変な物ばっかり買ってきたんですが、これって離婚案件ですかね?〜はじめてのおつかい旦那編〜

作者: あいうえお.

 日曜の午前中、夫に買い物を頼んだ。

私は風邪をひいたのか頭痛がするので一日中寝ていたかったからだ。夫は割といつもボーッとしているのでちゃんと買い物が出来るか心配ではあったが、背に腹はかえられない。信じて待つ事にした。



 2時間後。

 夫は徒歩で行ったくせにオートバイの音を響かせ帰ってきた。私は不安になった。

盗んだバイクで走り出してきたのだろうか?35歳の真昼間に……。

 私は問うた。

「何これ?」

「何って、スーパーカブだよ。買い物メモに書いただろ」

「私が欲しかったのはスーパーカップだけど」

 なんと夫は、明治のスーパーカップとホンダのスーパーカブを見間違えたらしい。

 私が何も言えないでいると、

「てっきり風になりたいのかと思った。風邪だけに」

とドヤ顔でのたもうた。全然上手くないし、そもそも50CCのオートバイで風になれるものなのだろうか?


 私はレジ袋の中を探った。他は大丈夫だろうか……。

 すると子どもが10人も出て来た。

「この子たちは何なの?」

「『孫』だよ。お一人様1パック限りだったから10人だけ買ってきた。さすがの俺もレジに2回並ぶ厚かましさは持ち合わせてないからね」

この人は一体何を話しているのだろうか?

「私は『卵』って書いたよね!?」

 孫達は「腹減った」「プール連れてって」「アイスない?」「お馬さんごっこしたい」などと口々に言いながら家中を走り回った。私は頭痛でフラフラしながらも冷やし中華を大量に作って彼らに食べさせた。夫が「俺の分もよろしく」と言った時は頭をかち割ってやろうかと思った。

 孫達はテーブルをベタベタ汚しまくりながら冷やし中華を食べ、やっと帰って行った。みんなキュウリだけを残していた。夫も残していた。どっと疲れた。

「孫は来て嬉し帰って嬉し」とはよく言ったものだ。


 次。

 袋から私が取り出したのは天体ほどの大きさの、いや、完全にモノホンの天体である光り輝く球体だった。太陽だった。暑い。

「それは『夏の太陽(サマー・サン)』だね。何に使うの?」

こっちが聞きたかった。大体何なんだよ「サマー・サン」って。何で普通に売ってるんだよ。

「私は『バターパン』を頼んだよね?」

 私たちの声はヘリウムガスの影響でアニメ声になり、やるせない気持ちに拍車がかかった。

 太陽は太陽系の中心へとお帰りいただいた。


 どんどんいこう。次。

 アラサーくらいのおなご。

「どうせ私なんてブスですよぉ〜!どうせどうせ、あの娘には敵わないんですよぉ〜〜!!」とハンケチを噛んでいる。

「これは『おなごのジェラシー』だね」

「私の欲しかったのは『イチゴのジェラート』だよ……」

私は力無く突っ込む。

 私が「大丈夫。ちゃんと見てくれてる人はいるから。あなたにもあなたの良さがあるんだよ。自信を持って!」とタピオカドリンクを飲ませてやると、おなごのジェラシーはニコニコ顔で帰って行った。やっぱり女性は笑顔が一番!


 はい次。

 半透明の60代くらいの女性。

 彼女は突然「注目!」と叫び、DA PUMPの「U.S.A.」を歌って踊り出した。怖いくらいキレッキレだった。「注目!」と言われなくても注目するレベルだ。

 この女性、どこかで見た事があると思ったら霊能力者の宜保愛子(ぎぼあいこ)氏ではないか。彼女は亡くなったはずでは? 成る程それで半透明なのか。しかし一体何と間違えたのだろう。

「何で半透明の霊能力者が?!」

「え? 『注目!宜保愛子(ぎぼあいこ)のU.S.A.』だけど?」

何でわからないの?というニュアンスで夫は言う。何様だろうか。わかる方がどうかしている。

「私は『16ギガバイトのUSB』って書いたんだけど」

 宜保愛子氏は「カーモンベイベー!」と絶叫している。どこに需要があるのだろうか?

 せっかくなので歌い終わってからうちの中を霊視してもらったら「寝室に生首がウヨウヨいますねぇぇ」と言っているから、今夜は眠れそうにない。

 ちなみに私の守護霊はマングース、夫のそれはハブらしい。私達の結婚は間違っていたのかも知れない……。

 霊能力者はふわふわと霊界へ帰って行った。


 それから袋からは結婚12年目の夫婦が出てきた。出てくるなり彼らは倦怠感溢れる会話を始めた。

「ねぇ、ユウタの塾の件だけど、国語も習わせていい?」

「あぁ……」

「算数の成績が伸びたから、あの子にあの塾合ってると思うのよ」

「あぁ……」

「ねぇ、聞いてるの?」

「あぁ……」

「聞いてないの?」

「あぁ……」

「私の事好き?」

「あぁ……」

「嫌い?」

「あぁ……」

「コーチのバッグ買っていい?」

「あぁ……」

「言質は取ったからね!」

「あぁ……」

 私たちは結婚3年目だが、あと10年もすればこうなるのだろうか?

「これは『絹婚式(きぬこんしき)の夫婦』だね」

「『絹ごしの豆腐』を食べたかったのに……」

「あぁ……」

 彼らは無言で帰って行った。倦怠感漂う後ろ姿だった。


 夫は他にもうどんと間違えてノドンを、牛乳と間違えてミュウミュウを、ソーセージと間違えて法隆寺を、コーンスープと間違えてローンウルフを買って来た。

 結局私が所望した物は一つも手に入らなかった。


 そして袋の底に入っていたレシートを見て私は驚愕した。そこには200万円を超える数字が印刷されていたのだ。

 夫は言う。

「お金をジャンジャン使って日本の経済を回さないとね」

「経済を回して首が回らなくなったら笑えない……」

 クラクラする。ただでさえ頭痛がするのに加えて熱も出てきたみたいだ。私は夫が無駄に消費した約200万円について考えるのを先延ばしにした。

「俺もう一回行ってこようか?」

「もういい!今一番欲しいのは『有能な旦那』だよ!」

「え?もう一回言って。メモするから」

「何でもない!」

 どうせ「UFOのサンバ」かなんか買ってくるに違いないので私は全力で阻止した。


 私は昼食を取りたかったが、孫たちに冷やし中華を全て振る舞って何も無いので、何でもいいから弁当を買って来てと夫に頼んだ。いくら何でも弁当くらいは買って来られるだろう。


 夫が出掛けた後の無人の部屋で、いや、生首がウヨウヨいるらしい部屋で私は横になって考える。

 いや待てよ。これで、先週競馬で100万スって、50万で怪しい壺を購入し、50万のぶら下がり健康器具を注文した事をチャラにしてくれるかもしれない。帰って来たら正直に話してみようか。



ありがとうございました。

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