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狐と巫女

 妖怪とは人に恐れられることで存在を確立できる者である。

 人に恐れられるために妖怪は妖術という彼らだけの力を手にする。

 しかし、中にはそれを覚えるのが苦手な奴もいる。

 そういう奴は人間の世界と同様に能力が低く見られて(しいた)げられてしまう。

 それは大妖怪の一族だって変わらない。

 九尾狐の場合は化けられないと役立たずに見られてしまう。




 そんな化けられない狐なのに人型の妖怪で最強になった金光(かねみつ)は、今この世界で最強の巫女と戦っている。


「巫女に刀とは面白い組み合わせだな。それが普通なのか?凛花(りんか)


「黙れ。お前はあたしと殺し合ってればそれでいい。それ以外に金光(かねみつ)の存在意義など無い」


「おー、怖い怖い。戦闘狂ほどやりにくい奴は無いよ」


 この2人は3年にわたって何度も戦っている。

 因縁深い2人の戦いのために毎回下級の妖怪が結界を張って守らなければいけないほどにいつも荒らしまくる。

 いつも後には焼け野原を残すが、今回が最終決戦ということなので山のみんなが本気で結界を張って終わりを待っている。

 (くだん)の2人は既に焼け野原になった山の頂上でやり合いを再開した。


「さて、これで終わりだよ」


「あたしもこれで終わらせよう。3時間も本気を出し続けるのは辛いからな」


 そう言い合うと2人は妖力と霊力をその手と刀に集めた。

 それによって金光は両手に炎と雷を(まと)って、凛花は刀が大きく見えるほどに霊力を(まと)わせた。

 その強大な力が空気中でバチバチとぶつかって火花を散らしてる。

 しばらくその状態でにらみ合った。力がちょうど安定したタイミングが来ると、2人はその力を走り出してぶつけた。

 そして辺りは光に包まれてからその中心で大爆発が起きた。




 その爆発の威力が大きかったので雑魚の結界は砕けてしまった。

 その場所があまりにも焼けて危険だったので少し経ってから金光(かねみつ)の妹の鏡月(きょうげつ)が様子を見に行った。


「兄様、いらっしゃいますか?」


 口元を着物の袖で隠しつつ呼びかけながら探し続けた。

 結界近くから先に進み続けると、彼女だけが戦闘の結果を目にした。


「これは…」


 鏡月が言葉を詰まらせて見る先には、片目を失った巫女と片腕を無くした兄の倒れた姿があった。

 状況を鏡月の視点から見れば2人ともケガして倒れてるので引き分けだろう。

 しかし、あの巫女は最強と呼ばれるのにプライドを持っている。

 鏡月はこの結果で2人が納得いかないと思って細工を考えた。


「兄様の勝ちにすればいいんじゃ…」


 その考えの基に鏡月は巫女に牙をむこうとした。

 その時、2人が目を開けた。

 それに鏡月は驚いて腰を抜かした。

 その鏡月を気にせずに2人は会話を始めた。


「戦い初めて3年の経過だった。ついに決着が付いた」


「凛花、まさかお前…」


「あたしは戦闘にプライドを持っている。だが、大けがをしたのは初めてだ。この結果にあたしは満足して終われそうだ」


 この時の凛花は人生で初めての満足そうな笑みを浮かべていた。

 その顔を金光は見れないがなんとなく察した。


「あたしの負けだ。煮るなり焼くなり好きにしな」


 その言葉を聞いて兄妹は戸惑ったが、鏡月は兄を凛花に近づけるために肩を貸しに行った。

 そうして金光を凛花のそばに連れて行ってあげた。

 金光を近くに座らせてあげると勝者が敗者に求めることを伝え始めた。


「…どうせ結果は変えないんだろう。なら、今度は妖怪を滅する者をやめてこっちに来なよ」


「あたしに妖怪になれと?」


「いや、半端者だと馬鹿にされた僕のそばにいて欲しい。勝者が絶対なら、結婚してくれ凛花」


 あの戦闘の後でこんなことを言う金光は頭がおかしいと言えばそれまでだ。

 でも、この2人は3年も互いを見て鍛えてあって、自分と守りたいもののために戦い続けてきた。

 そんな関係でも認め合って戦い続ければ強者同士の恋心が芽生えていても不思議では無い。

 つまり、金光は一族を好きになれないが戦いの中で巫女の凛花を好きになったのだ。


「そ、それはプロポーズか?」


「そうだ。勝ったんだから別にしてもいいんだろ?」


「それはいいけど…こんなことは初めてだから返答に困るな」


 このプロポーズに凛花はピュアそうな反応で本気で困っている。

 困っているのは答え方だ。

 凛花は金光が妖怪だから戦っていただけで嫌いでは無い。

 むしろタイプなのだ。強くてかっこいい金光は彼女の初恋でもあったのだ。

 (うぶ)な凛花はしばらく顔を両手で隠して返答を考えた。

 1分くらいして起き上がれるようになった所で上半身を起こして返答した。


「その結婚、あたしは受けよう。こんな所まで来てしまったが、これからは失った物を補うように手を取り合おう」


 この答えによって平和に巫女と化け狐の戦いは終結した。

 これが人間と妖怪が殺し合いをやめるきっかけになるとはこの時の2人に知るよしは無い。

 しかし、先を読める鏡月だけは分かっていたのかも知れない。





 さて、ここまでは全ての始まりに過ぎない。

 時代が進むための序章は最強同士の恋愛によって終わる。

 ここからが最強の変化(へんげ)できない狐と花を背負う巫女の時代だ。

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