№1 物語の始まり
キィン!! という剣同士が交わる金属音が辺り一体に響き渡る。空は闇に覆われており、周りに生い茂っている木々達が激しく揺れている。
「さすがは強大な力を持つと云われる魔王ルシファル・・・だが貴様もここまでだ!」
緋色の長い髪をたなびかせ白銀の鎧に身を包んだ女騎士は息を荒げながらそう言った。女騎士の身に着けている鎧は壮絶な戦いがあったと言わんばかりに傷だらけの状態であった。手にしている聖剣は金色に光り輝き、柄頭には魔力の源である水晶がついていた。
「・・・まさか人間にこれ程の魔力を持つ者がいたとはな・・・もう魔力も殆ど残っていない、それに数分もすればお前の仲間達がここにやって来るだろう。まさに絶体絶命と言う訳か・・・・・・」
魔王ルシファルは、俯きながらそう言った。手にしている漆黒の大剣も既に刃先が折れ、傷口から血が滴っていた。だが、絶体絶命の状況にも関わらずルシファルの表情には謎の余裕があった。
「ルシファル! 今まで死んでいった仲間達の為にもお前をここで討ち取らせて貰うぞ! 」
女騎士が聖剣に己の魔力を集中させ、ルシファルに止めの一撃を叩きこもうとしたその時だった・・・・・・。
「ディメンション・バースト〈次元破壊〉!!」
ルシファルが魔法を唱えた瞬間、時空に割れめが発生した。時空の割れめは別世界へと繋がっているようだが今にも閉じてしまいそうな不安定な状態だった。
「この魔法は・・・転移魔法か!? まだこんな余力を残していたとはな・・・だが、ここまできて逃してたまるか!」
女騎士は再び聖剣を振りかざし止めを刺そうとしたが同時にルシファルが再び魔法を唱えた。
「ソウル・セパレーション〈魂分離〉!!」
ルシファルの肉体が消滅し、ルシファルの魂だけが女騎士の前に残った。ルシファルの魂は魔法の効果により肉体から分離したのだ。女騎士の攻撃はルシファルの魂をすり抜けた。
「フハハハハハハ!! もう、俺の体は長くは持たない・・・ならば! 魂だけの存在となり新たな器を探し出すまでよ!!」
ルシファルの魂から声が鳴り響く。
「既にこの時空の割れ目の先に多数の人間の存在を感じている・・・俺の魂と適合する人間はそう多くはいないと思うがこれだけの人間がいれば相応しい器にめぐり合えるだろう・・・」既に閉じかけている時空の割れ目にルシファルの魂が吸い込まれてゆく。
「貴様・・・!! 別世界にまで悪意をばらまく気か!? 」
女騎士は歯を食いしばりながらもなす術なく立ち尽くしていた。
「フッ! 俺を止めたければ追ってくるがいい。新たな器の力を試す実験体としてお前は使えそうだからな! 」
そう言い残してルシファルの魂は時空の割れ目に跡形もなく吸い込まれ消えていった・・・・・・。