初恋
これで、最後だ。
俺は彼女に別れを告げ、彼女にピックを滑らした。最後の演奏だ。曲目は、【STAND BY ME】
お前と出会って5年。
お前はどんな時も俺の側にいてくれた。
イラついててお前を床に叩きつけたり、かき鳴らし過ぎて弦切ったり酷いことたくさんしたよな。謝る。ゴメン。
でも、俺、お前のこと凄い好きだったよ。これだけは信じて欲しい。
正直、今でも好きだ。
ずっと側にいたい。お前に触れていたい。
アンプから吐き出されるお前の声、大好きだ。
左手の指先の皮膚が固くなったのも、いい思い出だよ。
始めは全然上達しなくて、何度もお前のこと捨てようとした。
「俺には無理だ。不器用な俺には、やっぱり無理だったんだ」
何度もこう思った。
でも今は、心の底から捨てなくて良かったって思ってる。
もし捨ててたら、今の俺はいないと思う。
飽きっぽくて、面倒くさがりで、自己中心的な前の俺のままだったと思う。
変えてくれたのは、お前だよ?
これからもずっと一緒にいたい。
でも、無理なんだ。
俺、春から就職する。
前みたいに、毎日お前をかまってやったり出来なくなるんだ。
俺の弟がさ、お前欲しがってる。
大丈夫。弟は俺なんかより弾くの上手いし、毎日お前をかまってくれる。
弟と仲良くやれよ。
あとさ、【STAND BY ME】の意味知ってるか?
それはな…………
曲が終わり、俺は肩から彼女を床におろした。
彼女の黒いボディに一滴の水滴が落ちた。