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目標の目印
とても大好きな曲がある。けれど俺は、その曲を久しく聴いていなかった。
聴くこと自体は特段難しくもない、聴こうと思えばいつでも聴けた。プレーヤーにCDをセットして再生ボタンを押せばいい。1分もかからずに曲が流れるだろう。
だというのにそれをしなかったのには理由がある。
俺には、この曲を聴く資格が無かった。
大好きな彼女が歌った大好きな歌を、何も成していない俺が聴くわけにはいかなかった。
俺は棚に飾ってあるCDケースを横目にチラと映し、改めて決意を胸にする。
次に俺がこの曲を聴く時は、お前の隣に立った時だ。そこで待っていろとは言わない。お前よりも早く走り続けて、すぐに追い付いてやるさ。
男は志を再確認し、自己研鑽の毎日を送り続けた。