Walk
3月は暖かい、けれど吹き荒ぶ風は冷たい。
鼻と耳はすぐにズキズキと痛みだす、温めた両手で再び血を通わせる。
私には行くところがあった。
このあたりは田舎だというのに、車を持っていないから歩くしかない。
歩いていれば一歩ずつ進む、当たり前だが、これに気づく人間は私くらいではないだろうか。だってみんな18を過ぎれば車に乗るのだ、16からバイクに乗る奴もいる。
10才くらいから自転車を買い与えられる。となると歩く人間はこの田舎にはほとんどいない。
ショッピングモールではみんな歩くだろう、でも部屋の中だとこの寒さを感じることはない。これがあってこそ、名実ともに、歩けば進むことを理解する人間となれる、と私は思う。
また、雨が降る日だってある。傘というのは足元を守ってくれないのだ、水たまりがあるから。
雨が吹き込むからではなく、水たまりが靴を濡らすのだ。これも歩いていなければ分かり得ない感覚だと思う。
悪いことばかり書き連ねたが、歩くことはそういやなことばかりではないとも思っている。
私が住んだ街はこれほど広かったのかと分かったからだ。
さあ、そんなことを考えるうちに着いてしまったぞ。
私は市役所の扉を開けた。