獣に鉄槌を
「ビールが切れた。買ってくるから、タマちゃん、お客さんの相手してて。
すぐに帰るから。」
「はあ~い。」
このダメ男め、私の名前を気安く呼ぶな。とっとと、行きやがれ。
できれば、二度と帰ってくるな。
私は、笑顔とは裏腹に思いっきり心の中で、毒を吐いた。
狭い部屋に二人っきりになった途端、見知らぬ銀縁眼鏡の中年男が
蛇のように床を這い、私に近寄って来た。眼がギラギラして、鼻息が荒い。
加齢臭なのか、口臭なのか、めっちゃ臭いんだけど。
「タマちゃんか。可愛いね。怖がらなくても、いいんだよ。
オジサン、優しくするから。」
そう言いながら、私に抱き着き、床に押し倒そうとする。
「ちょっと、待って下さい。」
「大丈夫、君にもタップリお小遣いあげるから。」
「そんなもの要りません。」
必死に抵抗するが、か弱い私には無理。
キスを拒む私の首筋にヒルのように汚い唇を這わせ、
セーラー服の上から胸を鷲のように掴み、もむ。
それだけでも飽き足らず、蜘蛛のようにスカートを捲し上げ、
私の大事な部分に触ろうとしてきた。
「嫌あ~。」
今朝の満員電車の悪夢が蘇る。私は、手に触れた物を
その獣の頭に振り落した。
ガツン
「ギャア~。」
私が手にしたものは、ちょと大きめのガラスの灰皿。
私の母親もダメ男も揃いもそろってヘビースモーカー。
部屋に煙草の灰が舞い散る中、頭から血を流す獣を
そのままにし、部屋を飛び出した。
「どうしました。金田さん。」
アパートの階段下で煙草を吸っていたダメ男が、異変をかぎつけ
部屋に戻ろうとしてきたが、そんなの関係ない。
「おい、何をした。お金を・・」
「どけ、邪魔。」
私はダメ男の股間を蹴り上げた。私だって、それくらい
できるんだからね。
「○△□×・・・・」
声に出さない悲鳴をあげてヘタヘタとうずくまるダメ男を、
そのままにして私は階段を駆け下りた。
今日は、何て日なんだ。