母親の男
「只今。」
「お帰り。」
私と母が住む小汚いアパートの玄関のドアを開けて、
部屋に帰ると、母親の現在の男がリビングで私を
迎えてくれた。
私には、父親の記憶がない。
シングルマザーってやつなんだけど、私が子供の頃から、
男がコロコロ変わる。私が知ってるだけで、二十人は
とっくに超えている。
「私って、男運がないのよね~。」
母親の口癖なんだけど、私に言わせれば、100%アンタが悪い。
よく、似たようなクズ、酒浸りで働こうともしないダメ男ばかり、
引っ張り込むのよ。
何もわからない小さい頃の私は、そんな男たちに甘えたんだけど、
大きくなるにつれて、何か違うかもって思い始めた。
よく言えばスキンシップ、かりそめの父と娘が仲良くしているように
見えて、その実態はセクハラだよ。
この男も、そう。自称、パチプロで、所謂、内縁の夫ってやつだけど、
隙あらば私の体に触ってくる。私が、母親に言いつけないのを知ってるから。
中学生になった頃の男がやたら私の体に触ってくるから、母親に訴えたら
何て言ったと思う。何をしたと思う。私は、いまだに忘れられないよ。
「ガキのくせに、私の男に色目を使いやがって。今度、やったら、家を
追い出すよ。」
叩くのは私じゃなくて、その男だろう。なぜ、どうして。私は左の頬を
押さえて、うつむいた。悔しくて、情けなかった。涙が、ポタポタ落ちたよ。
だから、私は母親に言いつけることはできないんだけど、今日は、その
ダメ男の横に知らない中年男がいて、サバ缶をつまみにビールを飲んでいた。
私を見る視線が、嫌らしいってもんじゃない。
何だか、嫌な予感がする・・・・。




