表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の夢は 退魔師じゃない  作者: 三ツ星真言
41/46

天狗になった天狗

「どっちから、来る。何なら、二人一緒でもいいよ。」

 見かけは天狗なのに、口調は今どきの若者で、上から目線。

 祖父は、カチンときた。

「ワシ、一人で十分だ。早く、降りて来い。焼いて、酒の肴に

してくれるわ。」

「面白いこというね。オジイチャン。じゃあ。」

 天狗は、背中の翼で羽ばたき、地面にフワリと降り立ち、

腰の刀をスルリと抜く。

「ほほう、どうして、なかなか。」

 天狗は、五行の構えの一つ、上段の構えをとった。攻撃に適した

構えで、「名人の位」とされている。相手の攻めに対しても決して

動じない気位で丹田に力を込め、相手を飲み込んで圧迫する。

 「天の構え」「火の構え」とも言えるが、祖父は脅えることなく、

嬉しそうに笑みを浮かべる。根っからの武術馬鹿である。

 しかも、天狗相手に使う武器は、鉄扇。天狗相手に、洒落が

利いているので、奏絵さんにはうけている。

「そんな武器でいいのかな。後悔しても知らないよ。」

 相手を焼き尽くすような勢いの上段、真向斬りで攻めてきた。

「甘い。」

 祖父は体捌きでかわしつつ、天狗の右小手を打ちに行く。

「どっちが。」

 天狗は、左手で刀を握ったまま、右手を離して、小手打ちを

避けただけでなく、その貫き手で祖父の眼を突きに行く。

 この意表をついた攻撃を余裕でかわした祖父に、驚きながらも、

今度は左手だけで必殺の突きを顔面、喉元、水月の急所へと連続して

ぶち込む。

「ほれ、ほれ、ほれ。」

 もう嬉しくてたまらないといった感じで、祖父は鉄扇を駆使して

捌く。今まで天狗になっていた天狗の鼻をへし折るかのように。

 祖父には、相手の攻撃の前に、白い光がはっきりと見える。

その白い光をかわせば、実際の攻撃がかわせるという境地の

達人である。

「ふざけんなあ。」

 今度は、脇構えから草むらに隠れた猛虎の如く、逆袈裟に斬り

上げる。躱されるや否や、左手を刀から離し、水月へ電光石火の

突きを入れる。 並みの武術家ならあえなく気絶、下手をすれば

あの世行きの必殺の攻撃を捌く祖父に、「今度こそ、もらった。」と、

右足で股間を蹴りに行った。奏絵さんが、心の中で悲鳴をあげた。

 ガシッ

 祖父は、大天狗の右足首を鉄扇で激しく打ち据えた。

「・・・・・・・」

 声にならない悲鳴をあげて左足一本ではねる大天狗に、祖父は優しく、

孫に語り掛けるように言った。

「眼突き、金的蹴り、ワシの若い頃の決闘は、そんなもの当たり前でのう。

卑怯でも何でもない、やられた方が弱い、悪いという時代じゃった。

 おぬし、タイ捨流と見たが、生まれてきた時代を間違えてきたようじゃな。

 その若さで、それだけの腕前。血のションベンを流すほどの稽古を長年

積んできたのであろう。惜しい、実に惜しい。」

 タイ捨流の始祖・丸目蔵人は、新陰流の始祖である上泉伊勢守信綱の門弟となり、

柳生但馬守・疋田文五郎・穴沢浄賢と並んで四天王として謳われた剣豪である。

 剣の奥義を極めた後に上泉より「殺人刀太刀」「活人剣太刀」の免許皆伝を受け、

タイ捨流を編み出した。実践的剣法で、様々な地形での戦を想定した体の操作法、

飛び違い相手を撹乱する技、蹴り・目潰し・関節などの体術を剣術と組み合わせた

技が現存している。

「へえ~、よくわかったね。それと、今までそんなこと言ってくれた人いないよ。

何だか、嬉しいな。お礼に、いいもの見せてあげる。」

 口調は変わらないが、祖父に対する尊敬の念が奏絵さんには感じられた。

 大天狗が再び上段に構える。剣先から炎が吹き上げるかのような気迫だ。

「いざ、勝負。」

 それは、地獄の火車のように見えた。背中の翼を使って宙に留まり、高速の

前方回転を繰り返しながら、真向両断斬りを連続で加える秘技であった。

「キャア~。」

 奏絵さんが悲鳴をあげたが、地面に倒れたのは大天狗であった。

 火車の正面に立つのは無謀というもの。攻撃を避けきれない。

 素早く側面に回り込んだ祖父は、火車の中心に鉄扇で気合を込めた突きを入れた。

 一撃必殺の突きは、大天狗の脇腹の急所を正確にとらえた。

 呼吸ができず、苦しそうに地面にのたうつ大天狗の額に「破邪」と護符を張ると、

 大天狗は眠るかのように意識を失い、見る見るうちに人間体へと戻った。

 そして、口の中から、見たことのない気味の悪い寄生虫を吐き出した。

「滅殺」

 祖父は鉄扇で打ち砕く。

 奏絵さんが祖父に駆け寄るが、祖父は大天狗の正体の方が気になった。

 その正体は、この前の関東大会剣道の部の優勝した四木谷高校の選手で

あったが、二人にはわからなかった。スマホを持たないガラケーの二人は、

ガラケーでも検索はできるが、できないものと思い込んでいたのであった。

 写メを撮る発想すらなかったのである。

 

  


 

 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ