舐め切った猫又
「車上の不利を知れえ~!」
龍美は猫又に飛び蹴りを放った。
ガシャーン
猫又は態勢を崩し、自転車はひっくり返ったが、器械体操選手の
ように見事に宙返りして、着地した。やっぱ、猫だ。
「未来の柔道オリンピック金メダル候補と名高い前田三四郎、
そっちは全中優勝経験を持つ白木龍美だね。やっと、会えた。
嬉しいよ。」
「何だ、お前、私のファンか。サインあげようか。」
「ブッブッ~、ハズレ。はっきり言うが、お前ら柔道ばかり、
ちやほやされるのが気に入らない。僕は、お前らが憎いんだ。」
「へえ~、そういうところを見ると、君は何かやってるな。」
根っから柔道馬鹿の三四郎は、興味津々で尋ねる。
「よくぞ、聞いてくれました。」
満足げに笑った猫又は、何やら奇妙な踊りを始めた。
知る人ぞ知る、スーパーリンペイ、那覇手の最高峰とも
言われる空手の型だった。
「お見事。」「スゲエ~。」
名前を知らなくても、スゴイものはスゴイ。二人は素直に、拍手を
送る。一般人には、盆踊りくらいにしか見えないであろう。
「ありがとう。それでね、空手もようやくオリンピックの
競技として認められるようになってきたが、柔道に比べれば、
まだまだ扱いが悪い。そもそも、昔から、小説や漫画では柔道が正義で、
空手は悪として扱われているしさ。だから、君たちをぶっ倒す。」
猫又は、いきなり、襲い掛かって来た。逆恨みもいいとこだ。
一撃必殺、どの攻撃も気迫が込められ、スピードと破壊力を
兼ね添えた攻撃、怒涛の嵐のようで、当たれば肉を抉られ、骨が
へし折られ、内臓破裂であろう。
それでも、三四郎と龍美は、攻撃をかろうじて、捌く。
相手の力を利用し、前田三四郎が一本背負いを仕掛けるが、
猫又はヒラリと受け身を取る。
「へえ、ちょっとビックリ、僕の攻撃を捌くなんて、少しは特訓を
したのかな。でも、所詮、付け焼刃にしか過ぎない。思い知るがよい。」
猫又は、三四郎一人に狙いを定め、左足で金的に蹴りを入れる。
そこだけはあかんやろと十字受けをした前田三四郎の顎に、そのまま
跳躍して、右足で蹴りを入れてきた。危機一髪でかわしたが、猫又の
攻撃は止まらない。そのまま宙を飛び、三四郎の右側頭部に左足を
回し蹴り気味に叩き込んだ。驚異の三段蹴りだ。間一髪で、右腕で
ブロックするが、吹き飛ばされた。
「選手交代、休んでいろ。」
地面に倒れながらも悔しそうに猫又を睨みつける三四郎の前に、
龍美が立つ。
「女だからって、容赦しないよ。覚悟しな。」
猫又は、宣言通り、攻撃する。先ほどと違い、徹底的な急所狙いだが、
どれも龍美に裁かれた。いつの間にか、龍美の動きは風に揺らぐ
柳の葉と化していた。太極拳の化勁を、使っていた。
「そんだけー、もっと気合入れろや。」
龍美の挑発に腹を立てた猫又は、右の回し蹴りを叩き込もうとした。
その瞬間、龍美の左足が猫又の股間に前蹴りを放ったが、素早く
反応して、後ろに下がる。龍美の攻撃は止まらない。そのまま、右足を
振り上げ、顎を狙う。余裕でかわした猫又の右側頭部を龍美の左足が
回し蹴り気味に襲うが、猫又はガッチリと防御する。
「猫又に猿真似とは、笑わせ・・・」
そこで、猫又は意識を失った。
三段蹴りと安心し、舐め切った猫又の顎を龍美の右膝が昇龍の
如く、激しく打ち砕いたのである。優れた身体能力、いや、それ
以上に神がかった学習能力である。
「秘技 昇龍四段蹴り」と決めポーズをとるところが、憎たらしい。
「破邪。」
龍美が、護符を猫又の額に張り付けると、見る見るうちに、元の
人間へと戻り、口から見たこともない気味の悪い大きな寄生虫を
吐き出した。
「キャア~、キモッ。」と叫ぶ龍美に代わって、三四郎が
苦笑いしながら滅殺した。このギャップに、惚れちゃいそう。
猫又の正体は、この前の関東大会空手の部で優勝を収めた三木森
学園の選手であったが、この二人には全く興味ないことであった。
それより、呼吸しているか、心臓が動いているかの方が
よっぽど気になる。確認した二人は顔を見合し、ホッとした。




