歓迎してくれた妖怪たち(結の章の始まり)
「八時だよ。全員集合。」
昭和生まれの祖父の照れながらの掛け声に、奏絵さんはさも
可笑しそうに笑っているが、僕たち平成生まれの平成育ちには
訳わかめだ。
とにかく、決戦の日が、時間がやって来た。
僕たちは土御門高校の正門の中に入り、鞄を降ろし、戦闘準備を
整えた。頭には鎖が入った頭巾、手甲、銅、拗ね当てに、そして
懐やらに武器を忍ばせている。こんな格好で、電車、バスには
乗れないし、道路を歩けない。ハロウインの時期ならまだしも、
絶対に警察に捕まる。
その時であった。僕たちの頭上の暗闇に、大きな清廉 珠美が
姿を現わした。
「よく来たね。その勇気だけは、褒めてあげる。私は、学校の裏の殺生石の
置かれている場所で、待っているからね。折角、来てくれたんだから、歓迎の
用意はしているよ。気に入ってくれたら嬉しいんだけど、全滅しないでね。
私の所まで、一人くらいは来て欲しいな。できれば、早い時間で。じゃあね。」
そう言って、頭上の暗闇に浮んでいた清廉 珠美は消えた。
一番先にビビるであろうはずの龍美は、「あれは、妖怪じゃない。なかなか
よくできた立体映像だ。」「あれは、妖怪じゃない。なかなかよくできた
立体映像だ。」って、何回も繰り返し自分に言い聞かせていた。
発想の転換というか、自己暗示か。なるほどな。
「さあ、みんな、気合を入れろ。根性みせろや。」
そして、落ち着いた龍美の掛け声に、「おう!」と全員が声を揃えて応じる。
八人のにわか仕込みの退魔師が正門の中に入り、10mほど進んだところの
自転車置き場で待ち構えていた者は、自転車に乗った大きな黒猫だった。学生服を
着ており、二又の尻尾をくねくねと揺らしている。
「猫又だ。気をつけろ。」
陳 桃陽が叫んだ。
猫又は、20年以上生き永らえた猫が変化したもので、体はライオンや
豹ほどの大きさになり、人間に化けることもできる。
二本足で歩き、人語を話すなど、高い知能を持っているものもある。
「そう、猫又だよ。僕と遊ぼうか。」
そう言って、自転車に乗って猛スピードで僕たちにぶつかって来た。
僕たちは、蜘蛛の子を散らすかのように、逃げる。悪夢だ。
「ほれほれ。アハハ。」
龍美と三四郎君が、何故か遊び相手に選ばれた。残りの六人は、
「後は、宜しく。」って、先を急いだ。
そしたら、学校の池から大きな河童が現れ、僕たちの行く手を遮る。
「自分と遊んでくれるのは、誰かな。」
僕たち六人は、顔を見合わせる。
「河童は、相撲が得意だったはずじゃ。」
祖父の声に、武と陳 桃陽が名乗りを挙げた。
「相撲は日本の国技、骨法の相手に不足なし。」
「キャア~、河童って初めて見た。私、行司やりたい。」
そういうことなので、僕たち4人は、先を急ぐ。
殺生石らしいものが見えたところまで、辿り着いた。




