今どきの伏魔殿
土御門高校。あの有名な陰陽師、安倍清明の血を引く者が、
創立した高校である。目的は、只一つ、九尾の狐の魂、凶悪な
意志が、石と化した殺生石を見張るためであった。いつ、この
殺生石を悪用する者が現れるかもしれない、もしかしたら、
邪悪な意志を持つ者に九尾の狐が憑依するかもしれないからだ。
そのことを知っている者は、安倍の一族の末裔、歴代の校長だけで
あった。しかし、その土御門高校も、今では伏魔殿と化していた。
現在の校長が、身内で不幸があったので、特別休暇中のせいもある。
土御門高校だけでなく、五芒星として配置されていた五つの
高校、学園も同様である。
そう、九尾の狐こと玉藻が憑依した清廉 珠美がまるで教祖様のように
君臨していたのである。逆に、五つの高校、学園を使い、結界を張り
めぐらしているのでその存在、妖気を霊力のある者に感知されずにいる。
退魔師の陳 桃陽が、感知できないのも無理がなかった。
あの日、陰陽師と闘い、重傷を負った日から、珠美は人が変わった。
玉藻が憑依した日から、神通力を得て、顔も体型も変化したのだが、
あの日に出会った救世主の助言もあり、真面目に目標達成に取り組むように
なった。かっての過ちを犯さないようにと玉藻も用意周到で、色々策略を
教えるものだから、鬼に金棒である。
玉藻と珠美、彼女らの目的は只一つ、完璧で華麗なる日本征服。
この世を再び、混乱と戦乱に陥れることは、オシャレじゃないし、今は
核ミサイルのある時代だから、超危険。アメリカや中国、諸外国の介入も
ウザい。水面下で秘かにこっそり行う。その方が、秘密めいていてイケてる。
まず、彼女らは、不死身で無敵の兵士の育成として寄生虫の培養を生物部に
命じた。知性と理性を兼ね添えた妖怪、それが理想である。本校の生徒で
実験する程、馬鹿ではない。五つの高校、学園で実験した。関東大会の各種目で
優勝を収め、成果を確認できたが、一木山高校と二木川高校は誤算であった。
鬼の暴走は、まだまだ研究の余地がある。寄生虫を改良しなければならない。
それより、退魔師の出現は予想できていたが、その笛を吹くババアと奇妙な
舞のジジイは予想外。陰陽師かもしれないので、要注意である。
寄生虫の培養はお金がかかるので、資金源調達として、家庭部にネット販売で
売れるカワイイ物、料理部にご当地グルメを作らせた。パソコン部には利用者が
こぞって課金をしたくなるゲームのプログラムを作らせた。その名も「中国浪漫、
恋愛三国志」である。空前絶後のヒット作となっているが、誰も土御門高校の
パソコン部が作ったものとは知るまい。彼女らは、人間の心の中が読める。
人間の欲求、欲望を刺激し、その能力を飛躍させる力があるから、より効果が
上がるというもの。彼女らは、それゆえ、カリスマの教祖様である。
しかし、彼女らの精神支配、マインドコントロールには物理的に限度があるので、
コーラス部とブラスバンド部に命じて、その手の曲を作らせた。校内で歌って
踊れるイケメンと可愛い女の子を見つけ出して、バンドを組ませ、ユーチュブで流した。
ちなみに、ボーカルリーダーは、佐藤で、ドラムは菅田だ。再生回数が百万回を
超えたところで、事務所に売り込み、メジャーデビューさせ、CDも売り出すつもりだ。
オリコン一位、レコード大賞受賞、紅白出場が、目標だ。
茶道部には、イケメンを集め、接待要員、将来のホストとして売り出すように、
教育をさせている。可愛く綺麗な女の子は、接待要員、将来のキャバ嬢として
同様である。こうるさい保護者やPTAの役員、教育委員会対策は、バッチリだ。
これだけでは、不十分である。各分野、教育、政財界、医学や司法、警察、
自衛隊すべてに優秀な人材を送り込む必要がある。全員、東大合格を目指し、
受験勉強を徹底的にスパルタ式に行っている。こちらの方も順調で、全国模試の
上位に土御門高校が名を連ねているから、嬉しい。
他にもやることはないかと、いつも生徒会役員に考えさせている。これぞ、真の
学び、アベンジャーズじゃなく、アクティブ・ラーニングだ。
現在の校長が不在中の校長室で、珠美と玉藻は一致団結して、目標達成に
取り組むことを約束し、選りすぐりのイケメンを侍らせ、酒を注がせ、
ホストクラブで豪遊する有閑マダムのように楽しんでいた。




