最後の一人
「只今、帰りました。」
最後の一人が見つからず、またもや龍美と悪魔の契約を
結ばされた僕は、途方にくれながら、帰宅した。
「お帰り。お客さんだぞ。」
祖父の声に、僕は居間へと向かう。
そこにいたのは、国善高校柔道部主将の前田三四郎だ。
「その節は、お世話になりました。」
何と、礼儀正しい好青年だ。同い年の僕に、丁寧に正座して頭を下げる。
聞けば、優勝したのは祖父のおかげだとお礼に来たのだそうだ。
しかも、あの祖父のお気に入りの最中の詰め合わせセットを
持って。祖父が喜ぶのなんのって、これほど喜ぶのは珍しい。
幸いなことに、あの日、鬼に襲われたが、怪我は軽傷で気絶しただけ。
念のため脳やら全身の精密検査を受けたが、どこも異常なしですぐに
退院したとか。まだ骨折やらで入院している部員がいるのに、流石だ。
将来のオリンピック金メダル候補だけのことはある。
「我が柔道部が優勝できたのは、ひとえに近藤先生のおかげです。
大東流合気柔術のご指導がなければ、優勝どころか、あの鬼ども
相手に文字通り瞬殺されていました。この御恩は、一生忘れません。
私にできることがあれば、何でもお申しつけ下さい。」
丁寧に頭を下げた瞬間、祖父が鬼のように笑った。怖いよ。
「その言葉に嘘はあるまいな。」
「私とて武道家の端くれ。嘘は申しません。」
こうして、前田三四郎は僕たち若者六人の仲間、最後の一人として
加わることとなった。




